高校一年 05/23(金)


でも、ダメだった。早苗ちゃんが気付かない振りをして、わたしが知らない振りをしても、みんなは待ってはくれなかった。女子の噂は二年生まで広がった。


「折原、あんた三角関係真っ只中なんやって?」


朝からずっとこんな感じ。すれ違ったりするたびに小言を言われる。昼休み、早苗ちゃんは二人で食べたいって言ってきて。思い詰めた顔をしていたから、わたしは早苗ちゃんの意思に従った。教室でお弁当を開いていると、白石くんがいないのをいいことに、女子の先輩たちは4組までやって来た。この人たち、入学してすぐにわたしを呼び出した人たちだ。


「あんたのこと好きな男って、テニス部なんやろ?」
「あんたら仲良しテニス部も終わりやなー」
「白石くんと別れてその子と付き合えばええやん。」


あはは、と高笑いしながら先輩は言った。全然、笑い事じゃないのに。早苗ちゃん、こんなにつらそうなのに。いつもは言い返す早苗ちゃんが、全く口を開かなかった。わたしが何か言ってあげられればいいのに。でも、わたしはいつになったって、弱いまま…


「何してるん?」


絶対零度とも言えるような、冷え切った声が教室に響いた。横で先輩が息を飲むのが分かった。恐る恐る俯かせた顔を上げれば、ドアのところに白石くんがいた。


「またあんたらですか。早苗に手ぇ出すな言うてるやろ?」


白石くんが怒ってるの、初めて見た。先輩たちは、苦し紛れの言い訳を支離滅裂になりながらも話し出した。でも白石くんはそんなの聞く耳持たないで、鋭い眼光を先輩たちに向けて。そそくさと立ち去る先輩たちの後ろ姿を見送った後、早苗ちゃんの方を見ると、下を向いたまま微かに震えていた。


「何があったん?」


隣に立った白石くんに、早苗ちゃんは何も言わずに首を横に振った。言わない、つもりなんだ。そうだよね。いくら仲良いと言っても、そんなこと白石くんが知ったらもうめちゃくちゃだ。何も話さない早苗ちゃんに痺れを切らし、今度はわたしの方に向き直った。


「弥栄さん、話して?」


いつもの優しさで溢れる白石くんじゃなかった。焦って、本当に心配そうで、早苗ちゃんが大事って顔に書いてある。きっと、一氏くんはこの二人に、幸せでいてほしかったんだろうなぁ。わたしだって幸せでいてほしい。じゃあどうすればいい?言うべきなの?言わないべき?でも…わたし、早苗ちゃんと約束した。


「……分からない、です。」
「は?何、分からんって。」


恐い…。でも、だって、一氏くんのことで絡まれました、なんて言えないよ。早苗ちゃんのためでもあるけど、一氏くんのためにも、絶対言えない。


「…ごめんなさい。」


向かい合って座る早苗ちゃんも、すごくつらそうにしてた。もう見てられないよ。


「早苗も、言う気はないんやな?」


黙り込む早苗ちゃん。だって、言えないでしょ。早苗ちゃんは白石くんも一氏くんも好きなのに、二人の仲を引き裂くようなこと、出来るわけない。


「分かった。」


何も言わない早苗ちゃんを一瞥して、白石くんは教室から出て行った。残されたのは沈黙。それから早苗ちゃんの啜り泣く声だった。