高校一年 04/14(月)
小春の残してった謎は今だに突っ掛かっとる。ユウくんはそれでええんやって、それってなんや?分からん。
部長から15分休憩を言い渡され、小春が先輩たちに色目つこてんの見て腹立って、校舎裏に来た。俺が好きな窓の下。壁伝いにずるずるとその場で座り込んだ。そういやここで、弥栄と話したな。泣かない、とか言うてたっけか。そんなん考えながら前方に見える桜の木をぼーっと眺めとった。
「わっ」
声に我に返ると、弥栄がおった。スーパーの買い物カゴみたいなんに積み重なった泥で黒ずんだタオル。あ、そーいやさっき早苗がタオル回収しとったな。んで、転びかけて弥栄はカゴをひっくり返しとる。どこの少女漫画?アホくさ。俺はじとーっとタオルを拾い上げる弥栄をその場で見とった。手伝う気はさらさらない。やって俺、こいつ嫌いやもん。
「あっ、ひひひとうじくん!」
なんや気付かんかったんか。どんくさ。弥栄はタオルのカゴを重そうに持って俺のまえに来た。容赦なく下から睨み上げると、それにすら気付かんのか、照れたように顔を緩ませた。
「あ、あの、ね」
「用があんならはよ言い。うっといんじゃ」
「…」
言葉を交わすのは実に三日振り。まぁ途中で日曜挟んだしな。弥栄は少しはマネージャー業に慣れたんか、がんばっとるようやけど。先輩らに話し掛けられて、あ、とか、う、とかしか言えてへんのをこないだ見た。目の前におる弥栄は四天宝寺のジャージを着ていて、新鮮やった。けどそれとこれとは別。ぐずぐずしとんのはほんまに、
「じゃ、じゃあ言うね!ありがとう!」
カゴ持ったまま俺に勢いよく俺に頭を下げた。勢いよすぎてまたカゴ落として、あわあわしとった。うざ。俺はまた手伝うことなく弥栄が腰を落としてタオルをカゴに入れるのを眺めた。
「なにが。」
「…認めて、くれて…、ありがと。」
弥栄の顔は俯いていて前髪に隠れとるから分からん。っちゅーか認めるとか、認めへんとか、よう分からんけど。あ、マネージャーのことか?そーいやこいつ、俺に憧れとるんやっけ?言いたいこと、言えるから?弥栄やって、言えてるやん。なにがわたしは言えないから、や。喧嘩売っとんのかハゲ。
「…おまえ見とると、イライラする。」
弥栄は黙ってタオルを拾う。まぁこんなん言われても本人的にはどないすることも出来ひんけどな。っちゅーか俺、なんでこいつに対してこない風当り強いんやろ。グズ女なんや昔もおった。呼び出しに応じて待っとっても顔真っ赤にさせて用件言わんやつもおった。べつに、グズ女はこいつだけやないのに。
「……けど、なんやろな。」
俺は、目の前に落ちとるタオルを一枚、拾った。手伝う気なんてさらさらないのに。それを弥栄の横に置いてあるカゴに入れたった。他のも、拾ったる。弥栄は心底驚いたように、顔を上げた。ばちりと目が合う。
「自分、すごいわ。」
「え…」
「俺は今まで、早苗への告白を邪魔したり出来ひんかった。嫌いなやつは嫌いで、相手からも嫌われるんが当たり前で、ほんま、おまえみたいなやつありえへん。白石かっこいい思わんとか、早苗と友達になりたいとか、白石の誘い断るとか。自分のこと嫌い嫌い言うような俺がかっこいい?おかしいやろ。」
よくもまあぺらぺら罵倒か賞賛かよう分からん言葉が出るもんや。よくもまあ、こんなん弥栄の目ぇ見て言えるもんや。おかしいのは、俺か…
「自分やって、もう十分言いたいこと言うてるやろ?友達になりたい、自分が大嫌い、変わりたい。普通や言えへんようなこと、もう、言うてるやろ?」
言われへんのは、俺の方。素直になれん捻くれた性格は自分でも嫌やし、何より、心の奥底に埋まっとる早苗への本音は、埋まったまま。俺は全然ダメや。向き合おうともしてへん。弥栄の真っすぐすぎる瞳は、めっさ綺麗やった。
タオルを全部カゴに戻し、俺は立ち上がった。とうに15分なんや過ぎとるんやろな。まぁ部長に怒られてもしゃあないか。座り込んで俯いたままの弥栄の頭に軽くぽんと手を載せ、俺はそのままコートに戻ろうと足を動かした。
弥栄はやっぱり嫌い。あないグズ女は俺の嫌いなタイプやし。どんくさくて見とるとイライラする。人の名前吃るのも気にくわん。けど、あいつに対するイライラは、小春の言う通り、確かに早苗への切ない俺の想いを掻き消しとった。4月14日は他の女子からのアタックを阻止すべく、白石とひと時も離れん早苗。去年も一昨年も、それがほんまに嫌で嫌で、やな想い出になっとった。それが今じゃ懐かしい?笑える。入学式の日に感じた古傷なんやすっかり治って、胸がずきずきすることもない。早苗への想いは確かに存在しとった。けどそれは、いつのまにか、過去になっとった。早苗のこと、好きやった。今ではちゃんと過去形に出来る。
何度も言うけど弥栄のことは嫌い。けど、そのイライラがいつのまにか早苗を忘れさせとったのも、抗えん事実や。
それでええんやで、っちゅー小春の言葉。それ、ってなんやろって考えて。答えは案外すぐに出た。弥栄のこと嫌いでもええ。イライラしてもええ。けど確かに、弥栄の存在は俺の心を動かした。いつまでも引きずって動けんようになっとった俺を動かした。そういうことやろ?なぁ、小春。