高校一年 07/01(火)
タオルなんて忘れとったか?っちゅーか気付いたんなら取ってきてくれてもよかったやろ。よくよく考えるとおかしいとこいっぱいあったんやけど。俺なんで素直に言うこと聞いてしもたんやろ。あいつら怪しすぎたのに。部室のドアを開けても、そんなん全然気付かんかった。
「なっ、なんでおまっ、おまえおんねん!」
「えっ、と…小春ちゃん、待ってて。」
思わず舌打ちしてもうた。そこでようやく小春の企みに気付いたから。一つため息をついて部室のドアを閉めた。一応タオルも心配やし(ほんまに忘れとったら明日までに発酵するで)ロッカーを開けてごそごそあさった。けど、モノマネや漫才の衣装とか小道具しかあらへん訳で。小春のデタラメに肩を落とした。っちゅーと、弥栄も小春に騙されとんのか。ほんまに勝手なことばっかりしよって。ため息をついて立ち上がると、難しい顔してペンを握る弥栄の姿が視界に入った。何してんねやろ。率直に感じて、俺は机に手をついて弥栄の見つめるルーズリーフを覗き込んだ。
「…何してんねん。」
けどルーズリーフに書かれたんは意味不明なアルファベットの羅列で、すぐに弥栄に視線を移した。思ったより近い距離に、心臓が跳ね上がる。弥栄はこっち振り向いて、心底驚いた表情を見せた、と思えばすぐに顔をそらして。カチンときた。
「無視すな!」
パシンといつもの調子で軽く頭を叩く。けどいつもみたいに痛い言うて頭を抱え込まへん。え、何なん。目をそらすように弥栄は顔を俯かせとって。うざい、とか、ぐじぐじすな、とかそないな言葉より先に出たのは、
「…なに、具合悪いん?」
こんなん、俺やない。完全なる無意識や。最近こういうん多いな。無意識に、弥栄を気にかけとる。嘘やん。こんなん、俺、ほんまに…
「…何これ。」
気持ちをはぐらかすよう、俺は咄嗟に机上のルーズリーフを指差した。まだや。まだ認める訳にはいかんのや。弥栄はゆっくり顔を上げて、か細い声を上げた。
「めっ、メールアドレス考えてて…」
「あぁ…携帯契約したん?」
「う、うん…」
「ふーん」
このアルファベットはメールアドレスのようや。普通に名前と誕生日でええやんか。それを言っても弥栄はそうやないんか、納得せんようで。べつに下心があった訳やないで。弥栄の右手が持っとったシャーペンを取り上げて、ルーズリーフに向けた。緊張、する。誰かとメアド交換する時やって普通は赤外線やし。そもそも、弥栄はこんなんいらんかもしれん。
「ん。」
差し出したルーズリーフには、俺のメアド。普通に、いらんよな。こいつが欲しいのは、早苗とか小春のメアドであって、俺のやない。なんで俺、自分から教えてるんやろ。弥栄が東京行ってしもたら、俺らの縁は切れる。それでええんやないのか。ええんやないんやろな。せやから自分からメアドなんて。ほんまは弥栄との縁を、切りたないんやろ?
「俺のメアド。名前と好きな物とかでええだろ普通に。」
「…いいの?」
「ん。」
肯定とも否定とも言えへん返事やったけど。弥栄は思とったより嬉しそうに、微笑んでくれた。よかった。嫌がられてない。このルーズリーフがすぐにごみ箱行きになるかもしれん。メアドやって捨てられるかもしれん。そないな不安は初めてで。あぁ、俺、ほんまに、
こいつのこと、好きなんやな。