高校一年 07/07(月)
認めたからって、俺と弥栄の関係が変わる訳やない。
汗くさい夏がやってきた。汗くさい言うなって?やってほんまにこの時期になると部室が臭なってくんねん。なのになんで部室集合やねん、俺らだけ。暑いしだるいし、そん中に意気揚々と入ってくるオサムちゃんをシバき倒したい。
「さぁ〜て、全員集まったとこであれや。」
あれってなんや言う前に俺らの口が開かんのは、オサムちゃんが手に持つでかい笹。もう片方の手には、短冊とおぼしき紙の束。
「ほれ、短冊書け〜。ほな、教職会議あるさかい、行くわ。」
集合させといて勝手に帰るオサムちゃん。相変わらず、むかつく。無造作に机に置かれた短冊の束を白石が律儀にみんなに配っとった。
「それだけのために集合かけたんかな?」
「そういうやっちゃで、オサムちゃんは。」
ケンヤと白石の会話を耳にしながら、何も書かれとらん紙切れを見つめた。べつに、願い事なんやあらへんけど。隣の小春はしっかりピンク色の紙選んどって、相変わらずやわ。俺も黄緑選べばよかった。
「舞、何書くん?」
斜向かいに座る弥栄がほんまに真剣に悩んどって、早苗が紙を覗き込んどった。あいつは何願うんやろ、なんてアホらしいこと考えてしもて。咄嗟に邪心を振り払うように頭を振ったのに、
「ユウくんは、舞ちゃんが転校しまへんようにーやろ?」
「なっ!あ、アホか!ちゃうわ!」
慌てすぎてパイプ椅子ががたがたと揺れて、みんなの注目を集めてもうた。幸い誰にも聞かれてへんようで(ほんまによかった…!)小春だけがニヤニヤと笑っとるだけやった。
「どないしたん?ユウジ」
早苗やって、こないだ『舞のこと好きなんやろ〜』とか言ってきよったし。みんなしてなんや!俺が自覚する前からばれとんのか!むかつく!
「ユウくん元気出して〜な」
「小春がおってくれたら俺は元気やで。」
机の上にあった色鉛筆(この歳になって色鉛筆?アホか)でテキトーに『テニス上達しますよーに』書いて、笹に吊した。
「早いな、ユウジ。何書いたん?また小春関連?」
はっ、として慌てて新しい短冊を取った。せや、小春がおった。俺には小春がおるやん。『小春がいつまでも俺を好きでおってくれますように。ユウジ』
「えぇよ?無理せんで。」
「は?俺には小春だけやもん。」
「えー?けどアタシじゃ、ユウくんの元気は取り戻せへんもーん。」
まだ言うんか。小春に言い返そうとした時、不意に弥栄と目が合った。弥栄は気付かんのか、ぼーっとしたまま俺の方を見とって。あれ?目ぇ合っとるよな、これ。すると我に返ったのか、はっとして視線を短冊に落とした。び、びっくりした…
「ユウジ〜?」
「な、なんや早苗。」
「願い事、まちごおてない?ほんまにそれでええん〜?」
早苗までニヤニヤしよってからに。むかつく。けど、こいつらは願わんのか?弥栄に行ってほしないって、誰も願わんのか?
「…ええよ。まちごおてない。」
これで正しい。願ったって、願わんかったって、弥栄がおらんようなるんは変わらんことなんやから。俺の気持ちなんや、関係あらへん。