ランク戦をしようとロビーに向かっていれば、見慣れた後ろ姿。さっき忍田さんの部屋に入っていったのを見たけど…逃げてきたのか?


「太刀川」
「おー、なんだよなまえ」
「さっき忍田さんに呼ばれてなかった?」
「呼ばれてた。けどもう終わった」
「ふーん。てことはお説教じゃなかったんだ…」
「おまえなぁ、俺だっていつも忍田さんに説教されてるわけじゃねえよ。今度のレポートはちゃんと期限内に出せって言われただけだ」


ドヤ顔してるところ悪いけど、それって同じ類のものじゃね?とか思ってしまった。だって普通は出せって言われなくても出すものじゃないの? 言われないと出さないってどうなのよ。


「そのレポートは終わったの?」
「まだ。これからやる」
「間に合うの?」
「間に合う。徹夜でやれば余裕」
「それって間に合うって言わないと思うんだけど…」
「出せば良いんだから、変わらねーよ」
「そうかな…?」
「そうだ。と、言うかだななまえ。ランク戦やらね?」
「え、レポートは?」
「ランク戦終わったらやるよ」
「いつもそう言ってやらないんじゃん。レポート終わってからやりなよ」


絶対一回やったらレポート書くから、と強制的に連れて行かれる。ランク戦しようと思ってはいたけど、この状態の太刀川と勝負する気にはならない。レポートからの逃走犯を匿うようなものだ。なにより、太刀川とは闘い慣れてしまった。体動かしたいときとか、ストレス発散とかには良いけど、今は新しい技の研究がしたい気分。太刀川はそれにはちょっと強敵すぎる。でも戦いスイッチの入ってしまった太刀川に反抗するのもめんどくさいから、このままロビーまで連れて行ってもらおうかな…
ズルズル引きづられていたとき、周りの空気が凍って背中に冷たいものが走った。振り向かなくても分かる。この気配は鬼、鬼が来た。


「慶? なにをしているんだ?」
「あ、忍田さん……」
「レポートは終わったのか?」
「 ……お、終わってないです」
「レポートが終わっていない状態でなまえをどこに連れて行くつもりだったんだ?」
「 ……… 」


黙り込む太刀川の顔を覗けば、やべぇ、と顔に書いてある。冷や汗が尋常じゃない。怖すぎて口もきけないみたいだ。仕方ない。私が答えてあげようではないか。


「ランク戦に連れて行かれるところでした」
「あ、おい!」


太刀川が「何言ってんだコイツ!」とでもいうように声を出すが、もう分かっていたことだろう。レポートから逃げてきたお前が悪いぞ。
ちなみに忍田さんは笑顔である。逆にそれがとても怖いので、私は一刻も早くここを立ち去りたいのである。怒りの矛先が自分ではなく太刀川に向けられたものだとしても。


「慶」
「ハイ。」
「来い」
「……ハイ。」


今度は太刀川が引きづられていく。出荷される家畜みたいな表情をしていて、正直ウケる。ドナドナだ。逆に忍田さんをあの状態まで怒らせる太刀川は、むしろすごいよ。
でもちょっと可哀想だから、ちゃんと期限内に提出出来たときにはランク戦してあげよう。


せんとうきょう
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