「……ふおおおおお!」


思わず声が出てしまったのは仕方ないと思う。ちょっと女の子らしからぬ声をあげた私の視線の先には烏丸京介と隠岐孝二というモサモサしたイケメンズ。共通点なさそうな2人が会話してるんだもん。そりゃびっくりするよね。
咄嗟に隠れてイケメン達を眺める。ボーダーには美男美女が多いけど特にカッコいい2人である。2人には恋愛のれの字も甘い感情は持っていない。美術品を鑑賞するような感覚だ。顔は良くても中身がタイプではないため、甘酸っぱい感情は抱かない。性格悪いわけじゃないけど、2人ともちょっと変わってるといえば変わってる。とりまるなんて息をするように嘘つくし。毎回まんまと騙されちゃう小南もどうかと思うけど。
バレないようにそーっと近くに移動する。後ろから見たらさぞ滑稽だろうな。だけどこんなチャンスはそうそうないと思うから気にしない。


「何やってるんですか、なまえさん」
「おー、なまえ見つけたで。」


気配を消して移動してるつもりだったのに、呆気なくバレてしまった。「なんで分かったの?」と聞けば「バレバレですよ、むしろなんであれでバレないと思ったんですか?」と無表情で言い放つとりまる。呆れられてる? 馬鹿にされてる? 感情が読めなくて怖いわ。


「なまえ、ずっと探してんのに何処にもおらんし」
「え、私のこと探してたの? なんで?」
「なんでって……はい、これ」


隠岐が差し出した手に持っていたのは鍵。どこか見覚えのある鍵である。


「これって…」
「なまえの部屋の鍵。昨日おれが帰るときなまえ寝てもうてしまってたから、鍵閉めて帰ってきてん」
「あー、そういえば起きたらいなかったね。届けてくれてありがとう」


無事に鍵を受け取ると横から視線を感じた。首を回すと、とりまるくんは私のことをガン見しており、バチっと目があった。じーっとこちらを見てくるので、私も目を逸らせない。目線で何かを伝えようとしているのか? にしても限度がある。口で言えよこんやろーと目に力を入れてみた次の瞬間、いつもと変わらない何を考えてるか分からない顔で爆弾を落とした。


「なまえさん、隠岐先輩と付き合ってたんですね。てっきり迅さんと付き合ってると思ってたんですけど」


頭が真っ白になる。違う。誤解だ。私は無実だ。
というか、なに。なんで迅と私が付き合ってると思ってたの。


「いやいやいや、迅とも隠岐ともどっちとも付き合ってないわ!!」
「そうなんですか?」
「うんそう!そうなの! ! こいつが勝手に部屋にやってくるだけ! 付き合うなんてマジでない!!!隠岐と付き合うとか!無理!」
「なまえちゃーん、無理って……それはひどすぎへん?」
「誤解は解かないと! 女の子の恨みは買いたくない!!」


とりまるくんの考えは当然だろう。今の会話を聞いていたら付き合っているという結論にたどり着いてもおかしくない。むしろ私だって人が部屋の鍵を渡してる場面に巡り会ったら、ちょっと勘ぐるわ。やばい。やらかした。


「つーか隠岐と誤解されるのはまだ分かるんだけど、迅はなんで?」
「玉狛にしょっちゅう遊びに来てますし、説明するのが少し難しいんですけど、なんていうか…2人の雰囲気があるんですよね」
「あー分かるわ」
「え、待って。全然分からないんだけど」


予想外だったのは迅と付き合ってると思われていたことだ。2人の雰囲気ってなに。なんで隠岐まで同意してんの。分かんねーよ。
そんな風に見られてたなんて…今度玉狛行くときは、ちょっと気をつけてみよう。


もさもさ
prevbacknext