今日は早めに切り上げて玉狛に向かうつもりだったのに太刀川にせがまれ、あと10本、あと5本とランク戦をやってるうちにすっかり遅くなってしまった。せっかくのレイジさんの夕飯だ。間に合わなかったら太刀川許すまじ。悪態をつきながら過去一レベルで全力疾走する。ちなみに生身である。トリオン体じゃないってなんて不便なんだ。これしか走ってないのに息切れ半端ない。なんとか玉狛に辿り着き、玄関で息を整える。勝手に中に入っちゃってるけどこれは鍵がかかっていないわけではなくて、あまりにも玉狛に来る回数が多いので本部所属の私でも開くようになっている。決して玉狛が不用心だからではない。本当は所属している隊員しかダメっぽいけど、まあ、これも旧ボーダーからの付き合いってことで許してもらってる。


「こんばんはー!!遅くなりましたっ!……って、あ!! 新人さん?」
「は、はい、初めまして。三雲修です」
「空閑遊真デス」
「雨取千佳です。」
「本部所属のみょうじなまえです。玉狛にはちょくちょくご飯食べに来るんだ! よろしくね!」
「はい! よろしくおねがいします」


勢いよく扉を開けて挨拶すれば、いきなり気になっていた新人さんたちとエンカウント。
緊張してるのか動きが固い眼鏡の男の子とレイジさんのよそるご飯に釘付けになってる白い頭の男の子、それからニコニコしてる女の子。それぞれペコリとお辞儀してくれた。3人とも可愛い。本部にはあまり見かけないタイプだ。


「で、昨日言ってた小南の弟子は誰?」
「コイツ、遊真よ」
「ほほー。強いの?」
「まあ、そこそこ。今でもB級上位レベルくらいはあるわね」
「えー!そりゃすごいね!!」


入ったばっかりなのにそんなに強いなんて、間違いなく大物有望株だ。早く話が聞きたい。急いで手洗いうがいを済ませて戻ってくれば、ちょうど遊真くんが迅に私のことを聞いているところだった。


「迅さん、なまえちゃんって強いの?」
「なまえは強いよ。太刀川さんとも引き分けるし、風間さんにも負けないし、小南と同じくらいじゃないかな」

「何言ってるのよ。あたしの方がなまえより強いに決まってるじゃない」
「迅ちがうよ。太刀川と戦ったら引き分けることより勝つことの方が多いから! 今日だって勝ち越してきたよ!」

「………ま、どっちにしろボーダートップクラスの実力者ってところだな」


いきなり小南と私がいっぺんに食ってかかったので、少したじたじになる迅。迅はいつも飄々としているので、言葉に詰まらせるだけで一泡食わせた気がする。それがちょっと嬉しいが、モロ表情に出ていたらしい。小突かれた。軽い動作の割に意外と力がこもっていたようで痛い。涙出てきた。力込めてなさそうだったのに……もしやコイツ、またトリオン体なの? 夕食食べるのに? 栄養全て吸収して太っちまえ。
痛みで潤んだ視界の中、頭を押さえつつ料理を運ぶ。夕食の準備が終わり、みんなが揃ったところでレイジさんのご馳走をいただく。やっぱりレイジさんのご飯は美味しいなぁ〜と舌鼓をうちつつ、話題は新人3人のお話へ。ホワホワ〜とマイナスイオンを放出している中学生3人に癒され、いつのまにか頭の痛みは消えていた。



追記:「迅さん最近見かけないね」と遊真が言っていたので、たぶん夕食に迅が顔を出すことはない…と書き終わってから気づきました。許してください。

たまこまの新人
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