「何処だここ」
たまたま一緒になった諏訪さんとランク戦のブースに向かっていたとき、いきなり白い光に包まれ、気がつけば壁一面真っ白の何もない部屋に閉じ込められていた。ドアすらどこにあるのか分からない。これはもしかして…と誰かから聞いた話を思い出す。ボーダーには不思議な部屋がある。真っ白な部屋でドアがなく、出るにはお題をクリアしないといけないという怪しい部屋。今の状況にピッタリである。
「たぶん、最近噂の"ボーダー幻の部屋"ですね…諏訪さん聞いたことありません?」
「ねぇーよ。なんだそれは」
「なんでも突如として現れる真っ白な部屋らしくて、その部屋を出るには提示されるお題をクリアしないといけないらしいですよ」
「ったく、めんどくせーな」
そういうと諏訪さんは咥えたタバコをプカプカさせながら、部屋の中を調べ出した。調べるといっても壁を凝視しているだけだけど。
私も調べなきゃ。ぱっと見では白い壁が広がっているだけでお題なんてどこにもないように見える。お題が見つからなきゃ出られないかもしれない。ここで諏訪さんと2人でくたばるのはごめんだ。
「お題ってこれか?」
「『ハグしないとこの部屋から出られません』って、これみたいですね」
それは小さなメモに書いてあった。
普通、お題ってもっと大きく目立つように書いてあるものじゃないのかな。諏訪さんが見つけてくれたから良かったものの、こんな小さい紙に書いてあるなら見つけるまでが大変だよ。
「諏訪さーん」
「あー、はいはい」
とりあえずハグをすれば出れるようなので、諏訪さんに抱きつくと、慣れた手つきで受け止めてくれる。私は『抱きつき魔』と呼ばれるくらい、いろんな人に飛びついてるので、このくらいなんでもない。ただ、いつもと違うのは諏訪さんもギュッと抱き返してくれるところ。それがちょっぴり嬉しくなって頭をグリグリ押し付けたら、痛かったのか片手で頭を鷲掴みにされた。でも止められたら、もっとやりたくなってしまうのが人間の性。手ごとグリグリ押していく。
そうやってしばらく戯れていたら、どこからかガチャっと鍵の開く音がした。無事クリアできたみたい。
「簡単でしたね」
「まあ、おまえじゃなかったら変な空気になってたな」
「それって喜んじゃダメなやつですよね」
「喜べ喜べ」
「扱いが雑!」
といいつつ、わしゃわしゃと頭を撫でてくれるので嬉しくなってしまうのである。