久しぶりに体を動かしたくなってうずうずしていたとき、ろう下をふらつく見知った後ろ姿を見つけた。普段はダメダメなのに戦ってるときはかっこいいんだよなー足長すぎるんだよーなんだよこのやろー、と思いながら駆け寄る。


「たちかわーっ」
「お、なまえか。どうしたんだ?」


名前を呼びながら走ってそのまま太刀川に抱きつく。何年も前からこんな感じに飛びついてるからお互い慣れっこだ。


「1:1で勝負しない?」


滅多に誘うことをしない私からの申し出に太刀川は驚いたようで、目をぱちぱちさせた。


「珍しいな、お前から誘ってくるなんて」
「なんか今日はそういう気分なんだよね〜」
「いいぜ。今日は防衛任務ないからな。」


嬉しそうに声のトーンがあがった太刀川。分かりやすすぎる。流石戦闘好きと言われるだけある。


「じゃあ、行こ行こ〜」
「あれ、なまえじゃん」


ドアを開けて声をかけてきたのは天才こと出水公平くん。太刀川隊のシューターだ。そういえばここは太刀川隊の部屋の前だったか。


「あ、いずみんだ!」


ひさしぶりだね、というと一週間前に一緒に防衛任務しただろとちょっと呆れた顔で言ってきた。そんな顔しなくても…私が忘れっぽいのは今に始まったことじゃないのでスルーしてほしい。


「もしかして太刀川さんとどっか行くのか?」
「うん。ごめん、太刀川に用事あった?」
「いいやー。でも多分この人、また提出期限が迫ってるレポートやってないと思うぞ」


え、マジで?
そんな目線を隣にいる顎髭生えた人に送ると不自然に目を逸らした。


「そんなものはない」
「ほんとー?」
「だからねぇよ」
「よし。風間さんに確認しよ」


そう言って私がスマホを取り出すと慌てだす顎髭。その態度でやってないことが分かる。必死になって私のスマホを取り上げようとしてきたけど、あいにく私は既にトリオン体なのだ。男と女には力の差があるとは言え、トリオン体になってしまえばこっちの勝ちである。


「待ーてまて。なんで風間さんに聞くんだよ」
「私の中で風間さんは太刀川くんの監視者」


確かにそうだな、といずみんも同意してくれた。本当は忍田さんに言うのが良いのかもしれないけど、風間さんはよく困った太刀川に泣き付かれてたり、それを防ぐためにちょこちょこチェックしてたりするから風間さんに言いつけるのが一番なのだ。


「ちげーよ。てかなんで監視が必要なんだよ」
「自分の胸に聞いてみてくださいよー」
「……もしもし、風間さん?」
「あー!! わかったわかったレポートやればいいんだろ!」


電話をかける振りをすれば、白状する太刀川。よっぽど風間さんにバレるのが嫌らしい。


「最初から素直にそう言えばいいのに…てことだからいずみん勝負しよ」
「おう。米屋もいいか?」


もちろん、と答えつつ訓練室に向かって歩き出すと後ろから、ずりーぞ、と叫ぶ声が聞こえた。


「混ざりたかったら早くレポート仕上げてくださいよ〜」
「太刀川また誘うね〜」


2人で手を振ってその場を後にする。太刀川さん残念そうだったな、でもレポートやってないのが悪いんだよ、なんて話しながら。


「良かったのかオレで。太刀川さんとやりたかったんだろ?」
「ううん。別に誰でもよかったし。レポート提出できなかったのを私のせいにされたらたまんないからね〜」


それよりよねやんを迎えに行こう!といずみんの腕を取って走り出す。お前も結構戦闘バカだよな、って……聞こえてるぞ、いずみん。


にちじょう
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