学校が終わって防衛任務のために本部まで来たはいいものの、まだ時間がある。それならランク戦をやろうと思ってやってくれば、ブースから出てきた荒船先輩を発見した。ちょうど対戦し終わったらしい。


「アクエリ先輩〜」
「あ・ら・ふ・ね・だ。いい加減直せ」


穂刈先輩がポカリなら荒船先輩はアクエリだろってことで呼び始めたけど、どうもお気に召さないらしく、呼ぶたびに頭をガシッと掴んでグリグリしてくる。「返事は?」と言われても直す気はないので、頭を押さえつけてくる手と無言で格闘していれば、向こうからやってくる先輩の弟子を見つけた。


「鋼先輩、お久しぶりですね! もしかしてアクエリ先輩とランク戦してたんですか?」
「おい無視か」


お前は耳がついているのに聞こえないのか、と頭に加えて耳を引っ張られる始末。痛い痛い、と言ったところでやめてくれない。痛みでジワジワと目が潤んできた。「か弱い女の子を泣かせるなんて最低!」と言っても「どこにか弱い女がいるんだ?」と余計に力を加えてくるのはもう経験済みである。
助けを求めようと鋼先輩の方を見れば、先輩は「アクエリ…」と呟いたあと、明後日の方を向いて肩を震わせてる。これは地味につぼってるな。いや、笑ってないで助けてほしいんだけど。結構切実に。
そう思っていたら、気が済んだのか諦めたのか分からないが、頭を押さえつけていた手がなくなった。よっしゃ。今日は私の粘り勝ちだぜ。


「俺と鋼じゃ随分態度が違うじゃねーか。」
「いいじゃないですか。だって荒船先輩は同じ高校だし本部だからいいけど、鋼先輩は別の高校だし鈴鳴だからあんまり会えないんですよ…ってことで、ランク戦しません?」


私はランク戦をしに来たんだ。第2の落ち着いた筋肉に頭を潰されるために来たんじゃない。


「荒船いいか?」
「俺はいいけどよ、鋼との後に俺とも勝負しろ」


荒船先輩とやるのも楽しいから全然勝負するのは構わないんだけど「俺が勝ったらアクエリなんて呼ぶなよ」って、もしかしてフリですか?
……なんて言ったら絶対頭叩かれる。もう痛いのは嫌だ。出そうになった言葉を飲み込む。次、荒船先輩に会うときはトリオン体の痛覚設定を下げよう。
密かに決意してブースに向かう。

タッチパネルから鋼先輩を選択し、よく出来たニセ住宅地の中に転送され、お互いの姿を確認し戦闘を開始する。
闘い始めて感じる。やっぱり先輩のサイドエフェクトである強化睡眠記憶は厄介だ。この間、新技を仕掛けたらもう対策されている。まあ、だからこっちも対策の対策を試せるからいいんだけど。それに『頭では理解していても体が追いつかない』状態にしてしまえば、鋼先輩はそれほど怖くないはず。軌道を読まれないように注意して、素早く移動し攻撃する。
そう考えて攻撃スピードを上げてみたけど、イマイチだ。スコーピオンを打ち込めばレイガストに阻まれ欠ける。孤月が体をかすってトリオンが漏れ出す。やばいな。こりゃ速さだけじゃ勝てなくなってきた。今日はスコーピオンだけしか使わないようにしようと思ってたけど却下。グラスホッパーを使うと見せかけて、スコーピオンからアステロイドに切り替え下から攻撃。踏み込む体勢だったノーガードの先輩に綺麗に飛び込んで、直撃。ベイルアウトの声が聞こえて、ホッと安堵のため息をつく。


「いやー、鋼先輩ますます強くなってますね。ちょっときつかったです」
「まさかアステロイド使われるとは思ってなかった」
「本当は使う気なかったんですけどね。勝てないかもって少し焦っちゃって」


仲良く先程の戦闘について話しながら荒船先輩のもとへ向かえば「おい、早くしろ」なんて急かされた。そんな急がなくても…


「あれれ、じぇらしーですかー?」


おふざけで言ったつもりが、聞いてはいけないものだったらしい。デコピンされた。ただのデコピンと侮ることなかれ。荒船先輩のデコピン、めっちゃ痛いんだぞ。
ただ、その後の勝負は『アクエリ先輩』とこれからも呼びたいと本気モードの私が勝ったけど。伊達にA級をソロで生き抜いてないからね。
フフン、とドヤ顔決めた私の顔を見て、荒船先輩は拳骨でゴツン。
いやいやいや、今のは普通に痛いよ! ひどいよ!頭ポンポンにしてよ! 抗議したけど顔背けて聞かないようにしてやがる。ムキイイイ!!!


ポカリとアクエリ
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