真偽を測る

「随分遅せぇお目覚めじゃねぇか」
「すみません、夢見が良かったもので」
「フフ……まぁいい。任務だ」

最近出来た彼氏に会いにいくというベビー5とは途中で別れた為、私は若のいる部屋に1人で乗り込む事になってしまった。
若の前にある高級な革張りのソファに座るよう促されたが、出来るだけ早くこの部屋を出たかったので遠慮する。別に嫌いではないが2人きりにはなりたくないのだ。
若の口元は少し不機嫌そうに歪んだが、直ぐに普段通りの笑みに戻る。私が彼の誘いを遠慮するのはいつもの事なので、諦めは付いているのだろう。

「それで、今回はどのような?」
「大した事じゃねぇ、ヒューマンショップの視察に行くだけだ」
「……わざわざ?私が?」
「まぁ聞け。確かに幹部候補のお前が出る程の任務じゃねぇ。だが今回のショップの場所と状況が少し厄介だ」

曰く、場所はシャボンディ諸島にあるショップなのだが、海軍の基地が近い上に偉大なる航路グランドラインと新世界の中間点に位置する為大人数は寄越せない。しかも億超えの賞金首が10人以上集まる可能性が高い、との情報が入ったらしい。

なるほど、だから私が行けという事か。
一応幹部候補であり、そこらの部下と比べて実力もあるし何より能力者だ。元々個人で動く事が多い身でもあるので隠密には慣れているし、任務を受ける分には構わないが……分からないのは何故私なのかだ。私がこういう店を嫌っているのは若も知っているはずなのに。
不満気な表情が出ているのに気が付いたらしい若は、サングラスの下で人の悪い笑みを浮かべながら言葉を続ける。

「随分不機嫌じゃねぇか」
「顔に出てますか?」
「フフ、数年でも付き合いがあれば分かるさ。"スマイル"の話は知ってるな?」
「……あぁ、人造悪魔の実ですね」
「今後はそっちの事業を中心に動かす。人身売買なんて古臭い商売はもう辞めにしようと思ってな」
「だから視察……というより、始末?」
「話が早くて助かるぜ」

何故この任務に私が駆り出されるのかは分かった。もう要らなくなる店だから跡が残らないように始末を付けてこい、という事かな。確かに大した任務ではないので気楽に請け負えるが。

「あぁ、そうだ」
「まだ何か?」
「そんなツレねぇ態度取るなよ」

話は終わり、支度してさっさと任務を終わらせよう。ついでに気晴らしで観光もしてこようなんて呑気に考えながら部屋を出ようとしたが、若の声に呼び止められてしまい振り返る。
若は手元にあったウイスキーを1口含み、味わうように喉に流し込んでから言う。

「俺は海軍からの強制招集でしばらくこの国を空ける。観光でもして息抜きしてこい」
「そのつもりです」
「フフ……あと、お前にとっちゃ朗報だ」
「あら、昇進のお話ですか?」
「ちゃんと俺の所に帰ってきたら、の話だがな……お前の元船長もいるらしいぜ」
「それは、まぁ」
「何だ?薄情だなぁ、せっかくの再会だろ」
「……過去の話です」

クソ、本命はこっちだったか。スッと若から目を離して、私は逃げるように部屋を出る為に1歩踏み出す……が、それは叶わなかった。
気付けば腹回りにイトが巻かれており、ハッとして振り向けば若が楽しそうな笑みを浮かべている。

「なんで、すッ!?」
「可愛くねぇ声出すなよ」

私は全身羽毛人間なので弾が体に当たれば羽を撒き散らしながら貫通するし、それは若の出すイトであっても同じ事なのだが……コイツ覇気混ぜてやがる。
私を捕らえた若は満足そうに笑いながらこちらに近づいて、あろう事かふわりと抱き上げた。

「相変わらず軽いなァ」
「仕方ないでしょ!羽ですから!」
「フフ、照れるなよ」
「照れてません!」

若は無駄に長い腕に私を閉じ込めて、あやす様に背中をポンポンと叩く。逃げ出そうとじたばた足掻くが力の差は歴然としており、疲れるだけだと悟った私はぐたりと手足の力を抜いた。

「私の事ペットか何かだと思ってますよね」
「そんな事ねぇよ。大事なファミリーだ」
「何なんですかほんと」
「俺はな、結構お前の事買ってるんだぜ」
「……どうも」
「だから、な」

裏切った時は、分かってるよな。
そう耳元で呟かれた言葉に、思わず私の背筋は凍りつく。ファミリーだと思われているのは本当のはずだ……今回の任務できちんと若の元に帰ってくれば、の話だが。

どうやら今回の任務に対する先程の認識は改めないといけないらしい。これは私の信用を測る任務、気楽ではいられなさそうだ。


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「若ったら、まだルディの事を疑ってらっしゃるの?あの子はただ不器用なだけよ」
「フフ、分かってるさ」

彼女が出ていった扉を見ながら、どこからともなく冷気と現れたモネはクスクス笑いながらドフラミンゴを見る。当のドフラミンゴも愉快そうに笑みを零しており、疑ってるという素振りは一切見せない。

「アイツらの二の舞にしたくねぇだけさ」
「お話でしか聞いた事ないけど……あの子、3代目ハートの所にいた元クルーだったんですってね。だからかしら」
「まぁルディなら裏切る事もねぇと思うが、保険は大事だろう?」
「ふふ、そうね」

偶然にも拾った女がローの部下だった。
こんな数奇な偶然を信じられるはずもないが、実際拾った当初はショックで記憶を無くしていたのだから伏兵という線は薄い。現在は記憶も既に戻っているが「帰りたい」などと言い出すほど馬鹿ではないし、むしろ拾った恩を返す為にドンキーホーテ海賊団に身を置いているのは幹部全員が知っている事実だ。

ルディは感情の起伏が低く、あまり表に出さない為心の底は読みにくい。それ故に、今でこそ幹部達の信頼も得てはいるが、初めに彼女の生い立ちを聞いた時には殺すか生かすかで激しい議論がされたものだ。

それが、今回の任務から帰還するかしないかで真偽がはっきりする。
いずれはローがハートの座に就くことは決まっているが、いざ就いた時にローとルディで反旗を翻すような事があってはいけない。今の彼女がドフラミンゴに忠誠を誓っていればその要素も消えると考え、一先ずはローをファミリーに戻す為の人質とするのが妥当だろう。

帰還すればローの為の人質として生かす。
帰還しなければ害的要素と見なして殺す。

「帰ってきた時が楽しみだぜ、ルディ」

良い駒を手に入れたものだ。
ウイスキーグラスに入った氷がカランと音を立てる。自然と歪む口元を隠しもせず、ドフラミンゴは残っていたウイスキーを飲み干した。