Long Story|Short Story|Anecdote渇き
第3話
「御園、スゲー可愛い!」
「マジで似合ってるよな」
口々に御園を囃す声が廊下にまで聞こえて、何事かと沖は隣の教室を覗きこみ、そしてぎょっとした。
教室の後方、掃除ロッカーを背に5人の男子生徒に詰め寄られる御園は、夏のセーラー服を纏っていた。白い薄手の生地が窓辺の西日を受けて眩しく、紺色のタイが映える。
「もういいだろ……」
囲まれた御園本人は退屈そうにタイを摘んで弄び、苛立たしげにハイソックスを履いた足を揺すっている。
「いい、いい、マジでいい! スゲー似合う!」
笑っている者もいるが、半ば深刻な顔で舐め回すように御園の頭から爪先まで眺めている者もいた。さらに真ん中にいた少年はスマートフォンを取り出し、そのレンズを御園に向けてパシャパシャと撮影をしはじめた。
「あ、ちょっと……撮るなよ、」
御園が手を伸ばすも、リーダー格らしき長身の少年はスイとそれから逃れると、恨めしげに睨む御園の表情を揶揄うように撮影した。
「やめろったら、……しつこいよもう、」
「いやよいやよも好きのうちってね」
スマートフォンを取り上げようとする御園の手首を掴み、ロッカーに押さえつける。
「やめてよ……は、恥ずかしいから……」
俯くと、御園の首筋がじわりと赤らむ。こんな姿で恥じらう顔など見せようものなら、男子生徒達は一様に色めき立つ。
「あれ、なんか今の股間にキた」
「俺、御園ならオカズにできるかも」
その内の誰かが「このままマワす?」などと不届きな発言を聞きつけると、沖は教室の中にズカズカと足を踏み入れ人の輪を掻き分けた。
「お前ら何やってんだよ」
御園は「あっ」という表情をしたが顔を赤くするばかりで何も言わなかった。御園と沖の関係は誰にも知られていないどころか、クラスも異なる2人は水泳部員以外には親しいという認識さえされていない場合もあった。
御園を取り巻いた内の半分ほどは、食ってかかる沖に「何こいつ」と白い目を向けた。
「お前、よそのクラスだろ。何の用だよ」
写真を撮っていた少年はそう言って凄む。頭ひとつ沖より大きかったが、水泳で鍛えた沖も細身ながら肩幅や筋力では負けていない。
「嫌がってるだろ、離せよ」
「お前に言われる筋合いねーだろ。俺と創(はじめ)は小学校からの付き合いなんだ。なぁ?」
少年の問いかけに、御園は曖昧に頷いてそっぽを向いてしまう。中学からの御園しか知らない沖は、少年の得意げな様子に苛立った。厚かましくも御園のことを下の名前で呼んでいるのも気に食わない。
「同小かどうかなんて関係ないだろ。今、嫌がってるんだから、離せ」
「このセーラー服、俺の姉貴のなんだよ」
言うと、少年はスマートフォンの画面を沖に見せつける。俯いている御園の写真だが、西陽を受けて明るく輝く茶色の髪は光で反射し、画面の中ではまるきり少女のように見える。
「クラス劇用に持ってきたんだ。本番で着るのは別のヤツだけど、創に着てもらったらホラ、ご覧の通り」
「そこらへんの女子より可愛いだろ。俺、今晩は御園をズリネタにできるぜ」
額にニキビのある少年が言いながら腰を突き上げるような仕草をすると、沖はついにその少年に飛びかかった。
「ふざけんな!!」
「沖っ!?」
御園の叫びを聞きながらも、沖は少年を床に押さえつけると馬乗りになって胸倉を掴んだ。
「謝れ! 御園に謝れよっ!」
「ヒイッ、なんだよこいつ……! おい、助けてくれ!」
すると驚いていたまわりの少年達が沖の脇に腕をかけ強引に立ち上がらせ、引き剥がす。沖はそれでも噛みつくように続けた。
「お前らが気色悪い目で御園を見るなんて許さない! 全員前歯をへし折ってやる!」
予想外の剣幕に驚いたのか、少年達は一瞬怯んだが、3人がかりで沖の身体を羽交い締めにするとリーダー格の少年が腕組みして言った。
「なんだよ、創のことでずいぶんムキになるんだな、お前。そんなに仲よかったのか? 創にそんな親しいヤツがいるなんて知らなかったな」
「離せよ、常盤(ときわ)!」
と、今度は御園が少年に食ってかかる。しかし背の高い少年──常盤は力も強く、御園は改めて両の手首を掴まれるとロッカーに押しつけられた。
「うっ……!」
「なぁ、あいつがそんなにムキになって怒るなら、創のこと本当にヤッたらどうなっちゃうんだろうな」
「は……?」
御園のスカートの股間に、常盤の膝が押し当てられる。御園はビクッと身を竦ませた。
「や、やめ……っ」
常盤と、身動ぐ御園の様子との間で子分勢が焦る。
「え? あいつ、マジにヤるのかよ?」
「今の格好した創なら、俺は悪くないかもなって思ってるよ」
常盤は、御園の顎を取ると上向かせ無理矢理口づけた。
「っ……!?」
「御園っ!」
再び駆け寄ろうとする沖だったが、少年達が沖の腕を引っ張り床に組み伏せる。
「やめろ、離せっ……離せよ!」
「んっ……ふ、うっ……!」
ガタ、ガタン、とロッカーにぶつかる音がして、御園が激しく抵抗しているのがわかる。しかし常盤は、御園の口の中に舌を滑り込ませるとヌチャヌチャと御園の舌を絡め取った。
「うっわ……マジ?」
「常盤のヤツ、女バレの先輩達とヤりまくってるって噂……本当なのかもな」
「だからって男となんて……」
沖の腕を掴んだ少年達は圧倒されるように口々に呟きながら、一足先に大人になっていると思しき同級生の慣れた所作に憧れと興奮と戸惑いを募らせる。
「御園……クソ、やめろ! 御園を離せ!」
沖が喚いている間、常盤はたっぷりと御園の口腔内を愉しむと、チュパ、と音を立てて唇を離した。
「は……ぁ、」
「はは、結構好さそうな顔してるじゃん」
手を拘束された御園の唇の端からは、唾液が滴っていた。御園は真っ赤に上気した顔を歪め、唇を噛む。両手は押さえつけられたままで拭うこともできない。
「さて、続き……どうしよっか?」
常盤は御園の手を離したが、そのままセーラー服の上衣におもむろに手を突っ込んだ。そして平らな胸をパフォーマンスのように大袈裟に揉みしだき、再び唇を塞ぐ。
「ふんっ……! ん、ンッ……!!」
ガタ、ガタンッ
御園は自由になった手で常盤の胸を叩いたが、強引な口づけのせいで酸欠になり、おまけに胸まで刺激されて足から力が抜ける。乳首を摘まれると沖との行為で感じるのと同じ甘い痺れが走って、鼻から切ない吐息まで漏らした。
「ンは、はぁっ……ン、や、やだっ……!」
「はは、色っぽい声出すじゃん。なぁ、みんなも創とヤれそうだろ? ズリネタじゃなくて、筆おろしさせてもらえよ」
そう言うと常盤は御園の身体をロッカーから引き剥がし、沖と少年達の前にある机に押さえつける。胸を机につけ、尻だけ突き出した状態を御園に強いると、常盤はそのスカートを捲り自分の下半身をピタリとくっつけた。
「や、やだっ……! 離して、」
御園は顔を真っ赤にして茶色い瞳を潤ませる。スカートの裾から男ものの下着が覗き、常盤が御園のパンツを太腿までずり下ろしたのがわかった。
「創、おとなしくしてたらお前も好くしてやるよ」
言うと、常盤はファスナーを下ろしてゴソゴソと自身を取り出す。頭を押さえつけられた沖は片目でその動きを捉えるのがやっとだ。
「やめろ……っ、クソ、やめろぉっ!!」
目の前で恋人が奪われそうになっている沖は、力の限り叫ぶ。
「ほら、よっと!」
ガタン、と机の動く音。同時に御園が悲鳴をあげて、沖はギュッと目を瞑った。
「へへ、いいぜ、創。もっと締めろよ……お前は今から俺のオンナなんだからさ、」
常盤は御園の耳元でそう囁きながら、御園の腰を掴んで前後に揺すった。御園は机ごと倒れてしまわないよう、なんとか足を突っ張って机にしがみつくのがやっとだ。
「あ、あっ……ぅ、や、だ……やめ、てっ、」
「うわ、マジに挿れてんのかよ……?」
「な、なぁ……好いのか?」
少年達がゴクンと生唾を飲みながらじっと2人の行為に見入る。
「ああ、最高! ヘタな女とヤるよりずっとな!」
御園は顔を歪めながら、ぎゅっと唇を噛むがその唇からは時折甘い声が漏れる。
「ふ、うっ……ん、あ、あぅっ」
「へへ、なんだよ創、感じてるんじゃないか?」
「そんなんじゃな……、」
「ほら、みんなにもっとお前のエロい声聞かせてやろうぜ」
「あっ──、あ!」
御園の瞳に涙が滲む。ふるふると頭を横に振るとその雫が散った。いつしかヌチュヌチュと濡れた音がして、スカートの裾から覗く御園の内股に液体が伝う。
「ご、め……沖……っ、」
御園の瞳からホロリと涙が落ちたが、常盤は構わず御園の両手を後ろに押さえつけると、セーラーの前をガバと捲り上げた。晒された胸元にある2つの赤い実は、常磐の悪戯のせいでツンと主張している。白と紺の清楚な制服から覗くその姿は、性知識の乏しい少年達の下半身に血を巡らせるのに十分効果を発揮した。
「うわ、……えっろ」
「ヤバ、俺勃ってきた……」
「あっ……は、はぁっ……! お、き……沖、お願い見ないで……っ」
「み、御園っ……!」
沖は目の前で犯される恋人の姿にショックを受けながら、それでも目を離せなかった。ガクガクと腰を揺さ振り突き上げられて、時折甘い声で鳴く御園。自分以外の男から強いられる行為に──心では拒みながらも肉体は快感に溺れてしまう御園。
「はぁ、はっ……ああ、好いぜ……っ御園!」
「や、あっ……ぁン、」
御園の目から一筋の涙が流れて、沖の腕を掴んでいた少年がゴクン、と生唾を飲んだ──その時、沖はその手を振り払うと勢いよく立ち上がり、御園と常盤の元に駆け寄った。
「……っの野郎──!!」
振りかぶった沖の拳は汗を浮かべた常盤の鼻柱にクリーンヒットすると、そのままドスンと尻餅をついた常盤の胸ぐらに掴みかかる。2人の鼻先が触れそうなほどの距離で沖が睨みを利かす。
「てめぇ……っ!!」
「沖っ!」
再び振り上げられた拳は常盤の流した鼻血で赤く濡れている。その手を包むように掴んだのは御園だった。頬を濡らしながらブルブルとかぶりを振る。
「……御園、」
「ダメだ、そんなことしたら沖が、」
こんな時に沖の処分を案じる御園に、沖はカッと頭に血を上らせる。
「こいつが何したかわかってんのか!? この野郎、お前に……っ!!」
「暴力はダメだ!!」
沖は震える拳でもう1度、常盤の胸ぐらを掴み直したが、勃ち上がったものをしまいながら必死にファスナーを上げている常盤の情けない姿を見ると、戦意を喪失した。半勃ち状態の股間を押さえて蹲る少年を蔑むように見ると、そこを狙って足蹴にする。
「ぎゅっ!!」
奇妙な悲鳴をあげる少年を怒りと蔑みの目で見下ろすと、沖は低い声で唸るように言った。
「さっさとどっか行けよ、クソ野郎」
「く、……お、おい、行くぞ!」
垂れる鼻血を拭い、股間を手で庇いながら、常盤は足を引きずるような動きで教室を出て行く。金魚のフンたる少年達は名残惜しそうに御園をチラチラと見ながら、奇妙な足取りでその後を追った。
「御園っ、」
沖は御園の安否を確認するかのように両腕を掴むと、すぐさまぎゅっと抱き寄せた。華奢な身体は震えていたが、熱く火照っている。あの少年がそうさせたのだと思うと悔しくて堪らなかった。その沖の背中に、御園がそっと触れる。
「──……ごめん沖、俺なら……大丈夫だから」
沖は、現実を拒否しようときつく瞑っていた目を開きパチパチと瞬く。
「……大丈夫って、」
「あの、ぃ……挿れられて、ないよ。あいつ、俺の足の間で……してただけだから」
「──……へ?」
「だからね、俺の太腿に挟んで、その……説明するの嫌だな、」
要するに、常盤は素股で愉しんでいたということらしい。本当に挿入したかのように芝居を打ったのだ。
御園の尊厳が深刻に踏み躙られなかったことに少し安堵した沖だったが、程度の差こそあれ御園が傷つけられた事実は変わらない。
「御園……、」
沖は慰めとも謝罪ともわからない声音で御園を呼びもう1度抱き寄せると、その肩口に顔を埋めた。
「沖、泣かないでよ」
「泣いてない。お前が泣いてあんな声出すもんだから、俺てっきり」
「ごめん……沖に見られてるって思ったら、恥ずかしくて嫌なのに……なんだかちょっと興奮しちゃって」
沖は御園の肩を掴んで身体を離すと、その顔をじっと見つめた。御園はまだ涙の残る目を丸くして、「何?」と首を傾げる。
「本当、お前って……」
ばか、と耳元で言って、もう1度ぎゅうと抱き竦めた。沖の必死の気持ちも知らずにしょうがないことを言うので呆れたが、とにかく無事で──なんなら、本人は思ったよりもあっけらかんとしていて──よかった。
沖は部活用に持って来たタオルで御園の腿を拭いてやった。常盤はしっかりそこで勃起して、しっかり先走っていたようだ。未遂で済んでよかったが、やはり心持ちはよくない。その手つきはやや乱暴になっていたが、不意に御園の手が沖の手首を掴んだ。
「えっ……ちょ、おいっ」
驚いた沖はタオルを取り落とし、御園を見上げる。そしてどきりと心臓が跳ねた。それは沖が何度か見たことのある、欲情している時の御園の顔だったからだ。
「うん、ごめん。その、でも──ね?」
御園はもじもじとしながら沖の手をスカートの中に導く。薄布の下で、御園のそれははっきりと存在を主張していた。
「ねぇ沖……、したいよ」
中途半端に煽られた御園の身体は、火照りを収められないでいる。沖はがらにもなくどぎまぎして、言葉が出てこなかった。女子の制服でいつになく積極的な御園は、なにか別の人格が宿っているようにさえ感じられたからだ。
「ば、ばか言って……さすがに教室はまずいよ、」
「学校のあちこちでしたことあるじゃないか。俺、このままじゃ辛い」
「でも、誰か来たら……」
「こっち」
御園は目元を涙で光らせたまま悪戯っぽく笑うと沖の手を引き、掃除ロッカーを開ける。本来は箒やちりとりが入っているはずだが、中にはバケツとゴミ袋が入っているだけだった。
「うちのクラス、掃除用具を新しくするからって今日は空っぽにしてるんだ」
「で、でもこんなところ誰かに見られたら──」
「いいから」
御園は強引に沖の手を取ると掃除ロッカーの中に入り、ぞうきん掛けの金属バーを引いて扉を閉じた。
「掃除ならもう済んでるし、ここを開ける人なんていないよ」
「どんだけだよ……で、何をお望みだ?」
観念した沖が窮屈な縦長の箱の中でため息をつくと、御園の前髪が吐息でそよいだ。改めてそこが2人だけの密な空間であることを実感する。
「給食食ったばっかで息臭いだろ」
口元を手で覆うが御園はその手を取り首を振る。
「早くして。あいつの……常盤の手の感触を忘れたいから」
言うと、御園は沖の両手をきゅっと握ったまま唇を重ねた。熱い舌が触れて、絡め取られる。今日の給食はワンタンスープと揚げパン、茹で野菜に冷凍みかんだった。柑橘の香りがする気がしたけれど、御園の口腔内はもっと甘いと沖は思った。
狭いロッカー内で深く唇を合わせると、リップ音は異様に響いてまるで自分自身が口の中で絡め取られているようで──唇を離した時、ゆっくりと瞼を上げると2人はお互いの目が蕩けるように潤んでいるのを認めた。
「あいつらに見られたり触られたのはムカつくけど……御園、その……可愛いよ」
「えっ? うそ、」
「本当だよ。俺、見られてちょっと嬉しい」
「あ、ありがと……って、言うのも変かな。俺も沖が女装してるの見たいけど」
「ばかだな、俺に似合うわけないだろ」
「そうかなぁ」
声を潜めて戯れながら、互いの頬や髪に触れて慈しみ合う。先までの喧騒や緊張した空気から隔絶されて、2人だけになった世界はいささか埃っぽかったけれど、それでも2人は自分が相手を大事に想っていること、想われていることを実感し合った。
「あ、けどこのスカート、常盤のお姉さんのって言ってたよな。返さないと」
「──なぁ、あの常盤ってヤツ、何なんだ?」
沖は常盤が御園を下の名前で呼んだことを思い出し言った。言葉にしてから、自分の声音に棘があることを自覚する。
「何って……言ってただろ、小学校が一緒だったんだ。別に親しくしてたことなんなかないよ。昔から何かって言うとちょっかいかけてくるみたいな……あっちが妙なんだ」
「それなのに下の名前で呼ぶのか?」
「俺に言われても知らないよ。沖、妬いてるの?」
揶揄うでもなく純粋な疑問といった調子で尋ねられた沖は少しムッとした。御園はあの常盤という少年に気に入られている自覚がないのだろう。それこそそうした御園の鈍感で不可思議なところ、それでいてちょっかいにビクついたりはせずにいるのが常盤には面白いのだ。
「妬くよ。妬いちゃ悪いか」
言いながら、再び御園をぎゅっと抱き締めた。
「俺もこれから創って呼ぶ……いいよな、創?」
少し照れ臭くて、御園の肩に顎を乗せて顔を見られないように沖は言った。御園は少し黙って、それから「……いいよ、遥太(はるた)」と言った。その声は少し笑っていた。
「もう1回呼んで」
「遥太。……ハル?」
くすぐったさに、沖は御園を抱き竦めたまま身体を揺すった。自分の名前がこんなに快く響いたことはない。
「創……するんだろ?」
御園は目を見開くと顎を引いて沖を見つめ返し、こっくんと深く頷いた。沖の手を取るとセーラー服の紺色のタイの上、平らな胸を触らせた。
「なんだよ、自分から誘ったくせに心臓バクバクじゃないか」
沖もそれは同じだったが、言ったそばから顔を染めていく御園が可愛らしくて自分のことは棚に上げた。悪戯っぽく笑うと空いている方の御園の手を掴み、膨らんだ自分の下半身に押しつけた。
「っ!」
御園は一瞬ビクッと身を強張らせたが、少しするとぎこちなく生地の上から沖のものを撫でさすった。欲望を湛えた沖のそれは、布越しにも昂っているのが明白だった。拙い愛撫によってさらにそこに血が集まってくる。より密着すると、御園がゴクンと唾を飲む音が聞こえた。
「早く……欲しい」
御園は沖のベルトに手をかけると、急かすようにガチャガチャと忙しくバックルをはずし、下着も下ろそうとした。が、すでに怒張した沖のものは布を押し上げ先端を湿らし、むわっと雄の匂いを撒き散らしていた。
「あ……すごい、もうこんなに……」
沖、と言ってから御園は思い直して、
「遥太、……遥太のこれ、しゃぶってもいい?」
沖の前に膝をついた。布の上から形をなぞるように撫でられて、沖は息を詰める。
「い……いいよそんなこと、」
「してみたい。上手くできるかわかんないけど」
少し緊張した面持ちで御園は言って、焦らすようにゆっくりと沖の下着を下ろした。引っかかっていた先端がぶるん、と姿を見せると、御園は俄かに呼吸を速くして、少し窄めた唇でそこにキスをした。
「……っ、」
啄むようなキスを繰り返され、やがて細い舌が震えながら裏筋を舐める。熱い、ぬらりと濡れた感触が好くて、沖は唇を噛みながら天を仰いだ。とは言え、ロッカーは狭く天井はすぐそこだ。自分の分身が御園の口内にじわじわと飲み込まれていくのを、近い天井を睨みながら堪えた。
「ふ、くっ……」
「んっ……ん、ふむっ……ん、」
御園は息継ぎを忘れたかのように懸命に顔を左右に振りながら、口腔内で沖の性器を愛撫する。小さな口は開ききり、自分で内頬の粘膜に擦りつけたり、舌先で先端を舐ったりとなかなかの技巧派だ。なんでこんなに上手いんだ、と思いながら、御園が常盤の性器を無理矢理咥えさせられている場面が浮かんだが、沖は頭を振りかぶってその妄想を打ち消した。
「ふ、ご……おふっ……!」
御園は喉奥深くまで沖を受け入れると、窄めた唇の先をきゅっと締めた。それは沖のものの根本を懲らしめる形になり、それからさらに顔を前後に揺らして竿全体を扱かれれば、沖は奥歯を噛み締めて声を我慢するしかない。
「──〜〜ッ……!!」
限界が来て御園の髪を掴むと、グッと自分の股間の茂みに御園の鼻先が埋まるほど強く押しつけた。
「んぶ、ふ……ッ」
御園の細い喉が上下する。ゴク、ゴクンッと生々しい音が狭く薄暗いロッカー内で背徳的に響く。沖の吐き出したものは御園の喉から腹の底へと落ちていった。
御園の興奮を含んだ少し荒い呼吸がして、沖は御園の頭を撫でる。御園が顔を上げると、その瞳は薄闇の中で炯々と光っていた。
「遥太……よ、好かった……?」
「ああ……ちょっとびっくりするくらい、」
「よかった……俺も、遥太のこれがいつも俺の中に入ってるんだと思ったら、」
御園は恥じらいながらもスカートを捲し上げると自身の屹立を見せた。
「……こんな、なっちゃった」
グレーの下着の膨らんだ先は、じんわりと湿って色を変えている。スカートの下に見える少年の肉体は、その倒錯感も相まって異性のそれとも異なる感興を沖に抱かせた。
「俺もしてやる」
「え、いいっ! いいよ俺は、」
「いいから。俺だってイかされたばっかじゃ勃たない」
「ま、待ってこんな……格好で、」
沖は御園のスカートの中に頭を突っ込むと、おもむろに下着をずらして食らいつくようにそれを口に含んだ。御園は堪らずスカートから手を離すと自身の指を噛む。
じゅぷ、じゅるる、と音がしたのは御園のそれがすでに先走りでだいぶ濡れていたからだ。御園はそれが恥ずかしくて、耳まで真っ赤になった。
「は、あっ……! 待って、待ってハル……っ」
スカートをかぶることになった沖の頭を、御園は布の上からくしゃりと掴む。見えない何者かに悪戯をされているような心地で沖の名前を呼んでよがるのは何かいけないことをしているようで、御園はいやいやとかぶりを振る。
じゅぷじゅぷと淫らな音が狭い空間を満たして、耳まで犯されると、御園はあっという間に達してしまった。
「は、はぁ、あっ……、あ、」
「後ろ向いて」
この狭さではそれしかないだろう。絶頂の余韻でよろめく御園を壁側に押しつけると、スカートを性急に捲り上げた。少し濡れた下着をずり下ろして現れた滑らかな白い双丘は、スカートから覗いているとスレンダーな少女のようだった。しかしその足の間には雄の象徴がぶら下がっていて、精気を取り戻した沖のものとぶつかった。それだけでも堪らず、沖は先端を窄まりにぐっと押しつける。
「大きい声、出すなよ」
「んっ……、」
御園は慌てて口元を手で覆った。女装をして、スカートを捲り上げられて、声も出せないという状況にひどく興奮している。それを自覚しながら今か今かと挿入を待ち侘びるのは、耐え難く長い時間にも思われた。しかし沖は慣らすのもそこそこに性器を突き挿れる。
「──〜〜ッ!!」
「は、あっ……!」
いつもとは違う興奮に駆り立てられているのは沖も同じだった。最初からやや強引に深くまで挿入すると、壁に手をついてぐん、ぐん、と腰を押しつける。当然、ロッカーはガタガタと揺れて足場も壁も不安定になった。
「だ、め音……っ、揺れて……ンあっ……!」
また強くひと突きされると、御園は爪先立ちになってガクガクと震えた。早くも好きなところを暴かれて、息が止まる。
咎めるような締めつけを味わいながら、沖もぎゅっと歯を食い縛った。このまま欲望に身を任せたらロッカーごとひっくり返ってしまうくらい、激しく御園の泣きどころを突きまくってしまう。そんな獣のような自分の姿を想像した沖は、自分の唇を噛んでなんとか耐えた。
「はっ……は、はぁ、はっ……」
呼吸だけなのに、ひどく大きく響いて聞こえる。朦朧としながらも続きを強請るよう振り向く御園に、おあずけをする代わりに沖は唇を重ねた。
鼻息も荒く舌を絡めてくる御園は、そうしながらもいやらしく腰を捩る。もっと擦って、深く突き上げてと迫るように中はうねり、沖は眉を寄せながら必死に堪えた。
御園の身体を、他の誰かに触らせたくない。ましてやこんなこと、自分以外に許すなんて絶対に嫌だ。沖はその独占欲をじわじわと燃やすかのように、深く口づけながら腰を押しつける。動かなくても気持ち好いというくらい、御園の身体はキスだけで感じて反応していた。
「はっ……あ、……ふあっ、ンあぁ……っ、」
お互いの足場がぐらつかないよう、注意を払いながらゆっくりとした突き上げを開始すると、御園は堪えきれず甘い声を漏らす。なんとか声を潜めようとしてか、かえってその声は鼻にかかって高く甘えたような響きになった。沖のものが深く貫くほどにその声は甘美で、引き抜けば泣き出しそうなほどの哀切を奏でる。
「はる、たぁ……っ、も、と……もっと、動いて……っン"はぁっ……!!」
名前を呼ばれ煽られては、沖も我慢ができなくなった。ズンッ、と強くひと突きすれば脳が痺れるような快感に襲われて、すぐに引き抜いては2度目の突き上げに夢中になる。3度、4度……律動はやがて制御できなくなり、ガツガツと激しく責め立てた。
「あっ!! ああっ!! だめ、だめだめぇっ……!!」
ガタガタと鳴るロッカー、もはや御園も声を抑えることができない。突き上げられる度に跳ねる身体はほとんど自立することもできず、後ろから沖に支えられているようなものだ。
「イく……っ、俺イきそう、創……っ」
「は、る、はるたぁ……っ、れも、イく、イッちゃ……は、はぁ、んんんッ──〜〜!!」
ビクビク、ビクン、と2人の腰が揺れる。沖は御園の中にすべて吐き出し、御園は借り物のスカートの前を汚していた。
「あっ……あ、はっ……ぁ、すご、ぃ……きもち、ぃ……、」
そのまましゃがみこんでしまいそうな御園を壁に押しつけてなんとか支える。この狭いスペースに2人で座るような広さはなかった。御園の絶頂は長く、沖は鼻息を荒げながらその愛らしい痙攣をじっくりと味わう。他でもない自分に愛されて極める御園が可愛くて堪らず、文字通りこのまま食べてしまいたくなる。その肉欲をなんとか堪えるために、沖は御園の真っ赤なうなじや耳を甘噛みした。
「す、ごい……沖、さっき……口でしたのに、すごい出て……っ、」
まだ腰をひくつかせながら、御園はうっとりと言う。
「しっかり締めてないと溢れてくるぞ、」
耳元で囁くと、御園はその言葉にも昂ったらしくぞくぞくと身を震わせた。
「どうしよう、スカート汚しちゃった……洗って返さないと」
男子トイレで着替えを済ませた御園は汚れた制服を丸めてタオルに包み、鞄に詰め込む。その姿はすっかりいつもの模範的な男子生徒の姿で、沖は一時の夢から覚めてしまったような微かな寂しさのようなものを感じた。
元々自分は同性愛者ではなかったのだし、御園と付き合うようになってからもグラビアなどを見るのは人並みに好きだ。女性アイドルがフリルのついた衣装を身につけて華麗に舞い踊る姿には見入ってしまうこともあるし、やはりスカートなのか。腰の高さでヒラヒラと揺れる薄い布に、男は惹かれてしまうものなのか。
そんなくだらないことを考えていると、御園にじっと見つめられた。
「な、なんだよ……、」
「遥太、俺が女の子だったらよかった?」
「えっ!?」
「いくらなんでも俺の女装姿に興奮し過ぎじゃない、」
いつもの平坦な、何を考えているかわからない顔で問われて、考えていたことを見透かされた沖は一瞬焦ったが、いや、違う、とすぐに思い直す。
「す、スカートは……好きだ……っけど! 中身が創だったから!」
いつもの気取らない、そのままの御園創が沖は好きだ。けれどまったくの別人にさえ見えるような装いをして、それでもやっぱり御園に惹かれた。掴みどころのない性格のせいもあってか異性にこそモテているようには見えないが、さっきの連中だって御園のことを可愛いと持て囃していたし、御園が人目を惹く類の容姿なのだと今さら気づかされた。
自分の女装を御園に見られたらきっと幻滅されるだろう、そんなことまで考える。
御園はうんともすんとも言わず、感情の読めない真顔でじっと沖の言葉の続きを待っていた。沖は必死に言葉を探したが、なかなか上手い言い回しが出てきてくれない。
「だから……セーラー服姿のお前に興奮したけど、その、俺はやっぱりお前が好きなんだよ」
「何かそれ……変だよね?」
御園は拗ねた風でもなく、そう言ってふは、と笑った。そんないつもの御園がやっぱり大好きで、沖は深くため息をついた。惚れた弱味と言うが、きっとずっと、御園には叶わない。同じタイミングで思いを伝え合ったけれど、きっと自分の想いの方が強いのだ。いつも飄々とした御園に翻弄される度に思う。
「俺は遥太が女の子だったらよかったのにって思うことあるよ」
「はぁ!? ……なんだそれ、」
「うーん、なんでだろうね」
御園は悪戯っぽく笑うと、「それじゃあね」と言って教室を出て行く。さっきまでの濃密な時間は何だったのか、それこそ2度夢から覚めた心地で沖は慌てて後を追った。
2023/10/22
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