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灰色の瞳


第3話−3


 男はささやかな抵抗を続けていた少年の手首をがっちりと片手で押さえ込んだ。もう一方の手で乳首を弄り、もうひとつの乳首にむしゃぶりつく。同時に腰の動きを再開すると、少年は高い悲鳴をあげた。
「ひあ"ぁッ〜〜!! ン"ッ、ン"いッ、いあ"ッ……!」
 少年はもう、足を広げて欲望を受け入れるしかなかった。内股は突き上げられる度に震え、乳首を甘噛みすれば中がきゅん、と締まる。
「い"や、や"らぁっ! たすけでっ、いや、いやぁっ!」
 顔を上げて少年の瞳を覗き込む。灰色の瞳の中には嫉妬に駆られた男の顔が映っていた。男はその滑稽さを自嘲しながらも少年を責め立てる。
「いやっ! あ"ぐっ、あ、あ、いやっ! もうやら、やめてくらさ、せんせ、せんせぇっ!!」
 根本まで挿入してゴリゴリと奥を突き上げる。少年はぎゅっと目を閉じて絶叫するが、苦痛ならまだしもあまりに強い快感に気を失うこともできない。
「らめっ、おにいひゃ、たひゅけてっ、いや、いやぁ〜〜ッ!!」
 微かな喘ぎや吐息だけを繰り返していたCDが台詞を吐いた。
<お前は中出しが好きだろ。俺の子供、孕めよ>
 少年の瞳が恐怖に凍りつく。
「い……や、やだ、やあッ! おにいひゃ、にいひゃあァッ!! 中はやだ、おにいひゃのしかやだ、たしゅけて、たひゅけてぇぇぇっ!!」
 呻いたのはCDの音源か、男自身か。
 男の射精はサックの先端にある穴を通して少年の体内にドクドクと注ぎ込まれた。あまりの勢いに男自身も性器に痛みを感じるほどに。
 同じくひどい痛みを感じているだろう、少年の性器を戒めていたリングを外してしまったのはほとんど無意識だった。
「ひ"あ"あ"ぁッ〜〜!!」
 ビュグビュグッ! ビュルルッ!! ビュグッビュル――ッ……。
 2人同時に達し、男の精液は少年の体内に、少年の精液は噴き上げて少年自身の腹や顔を汚す。新品の学生服にもドロリと白濁が散った。
 少年は眉を八の字に寄せ、唇を歪めたぐちゃぐちゃの泣き顔を見せまいと、必死に首を捩っていた。顔や身体全体が上気していたが殊に目のまわりは真っ赤に染まり、たくさん流した涙が耳の穴まで流れ込んでいる。
 肩を震わせ、少年は両手で目を覆った。
「ひっ、……うっ……やだ、たのに……おにいさんとしかしたくないのに……、なか、出されちゃった……っ」
<ふっ……我ながらすごい量だ……。お前の子宮にたっぷり俺の種を蒔いてやったんだ、しっかり孕めよ>
 CDの最後のセリフに、男は慌てて腰を引く。結合部からはどぷりと精液が溢れた。
「ひぐっ……やら……っこども……うみだぐな……ッ」
 少年が年齢よりもやや知識が遅れていることは認識していたが、本当に妊娠すると信じてしまったのだろうか?
 さすがに哀れになった男は少年の細い首筋に優しく口づける。濡れた耳元に唇を寄せ、言った。
「意地悪してごめん。最初からずっと、してるのは僕だ。この部屋には僕達しかいないよ。ちょっとオモチャをつけて遊んだだけさ。声はCDだよ。ほら、」
<気持ち好いか?>
 1度聞かせた台詞を繰り返し流す。同じ抑揚で繰り返される音声に耳を澄ました少年はゆっくりと顔を正面に向けた。しばらく放心状態だったが、少ししてパチパチと瞬きすると泣くのをやめた。
「……ほんと……?」
「ああ、本当。でも、僕以外は嫌だって言ってくれて嬉しかった」
「ほんと……先生、なんていなかった……?」
「うん、いないよ」
 男は少年の手を取ると、少年もよく覚えた自分の頬や顎を触らせ、そこから首筋、胸、腹……と辿らせた。臍から茂みに辿り着くと、その先は少年へと繋がっている。結合部を自分の指でなぞった少年はヒクン、と震えた。
「ひ、どい……ひどい、ひどいっ!」
 少年は拳を握ると男の胸や肩、頬を叩いた。まだ力は弱いとはいえ、顔に当たれば痛い。男は慌てて少年の拳を包み込む。
「ごめん、本当に悪かったよ。あんまり可愛くてつい、」
「ひどいよっ……こんなのひどい」
 少年の混乱はまだ止まなかった。抱き締めようとする男の身体を押し退け、身体を捩る。いつになく強情な様子に、男もたじたじとなった。
 少年は手探りでブランケットを手繰り寄せると、上手く閉じることのできなくなった両足にかける。
 拒絶のオーラを纏ったまま黙り込んでしまった少年を前に、男はがっくりと項垂れた。
「――申し訳ない。悪さが過ぎた」
 ポリポリと頭を掻く。少年はまたはらはらと涙を落した。
「僕、目が見えないんだよ……おにいさんとするのだって、いつも不安なんだ。それなのに……僕のこの目をからかうなんて」
「そ、そういうつもりじゃなかったんだ!」
 とは言っても何の説得力もない。確かにこの悪ふざけは少年の盲目を利用したものだった。それも周到に性具や音声CDまで用意して。
 男は少年の元ににじり寄るとその手を取り優しく包み込んだ。涙で濡れた頬に口づけ、目元の涙を吸った。
「……僕、ショックだった。もし本当におにいさんじゃない人でも、あんな風に……なっちゃうんだ、きっと」
 少年の目にまた水膜が張る。
 快楽に弱い身体は激しい責め苦にも応じる。言葉では拒絶しながらも、無理矢理挿入されれば抗えない。少年はその事実にも傷ついているのだ。あまりの健気さに、ズキリと胸が痛む。
「誰にも絶対にこんなことさせない。僕が君を守るから」
 ぎゅっと手を握る。少年はその手の辺りに視線を彷徨わせながら言った。
「僕はおにいさんが好きだよ。誰かに何か言われても、他の誰かに何をされても……それだけは本当だから」
 ――だから、信じて?
 人を信頼するのは少年の方が怖いだろうに、自分は心を試すようなことをしたのだと、男はその言葉で気付かされる。本当にひどいことをしたのだ。
 男は自分の浅はかさが呪わしくなり、唇をきつく噛んだ。
「――ごめん。僕は……僕はなんてことを……」
 出会った最初の時からひどいことをしている。その自覚はある。けれど、だからこそ少年の優しさや包容が自分にだけ許されたものなのかと疑ったのだ。最初の時みたいに突然誰かに襲われたら、身体を許した相手には心も許してしまうのではないか、と。
 何もかも、行動に移さないとわからない自分は馬鹿だと男は思う。
 男はベッドを下りると少年の前で土下座した。
「もう2度としない。この通りだ、ごめん!」
 パン、と手を合わせた後、ゴツンと額を床に擦りつけた。このまま部屋を出て行ってくれても構わない、そう思いながら。
 ややすると衣擦れの音があって、探るような手が男の丸めた背中に触れた。たどたどしい手はやがて男の頭を見つけるとポン、と軽く叩く。
「……この通りって、どの通り?」
 男はパチリと目を開けると恐る恐る顔を上げる。少年は涙を浮かべながらも微笑んでいた。
「僕、見えないからわからない」
「あ……ごめん、ごめんね、本当にごめんッ」
 男は少年の身体を強く抱き締めた。苦しいよ、と苦笑する声も構わず、強く、強く。
「制服はちゃんときれいにしてよね」
 それだけ言って、少年は子供にするように男の頭を優しく撫で続けた。

2018/06/03


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