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Disguise/Disclose




Disguise [ ディスガイズ ] 動詞、他動詞

1 )
If you disguise yourself, you put on clothes which make you look like someone else or alter your appearance in other ways, so that people will not recognize you.
人に自分とは気付かれないように、別の誰かのように見える衣服を着て、またはその他の方法で自分の外見を変えること。
(……を)偽装する、変装する、覆う、隠す

2 )
To disguise something means to hide it or make it appear different so that people will not know about it or will not recognize it.
人にあることを知られないように、または気付かれないように、そのことを隠す、または違って見えるように工作すること。
(人目をごまかす)偽り、誤魔化し、 口実



1.

 息を潜め、その教室へ近付く。1人が身を隠しながらドアのガラスを覗き込むが、中は真っ暗で何も見えない。
 ドア上方の札には視聴覚室とあり、校長の話だと防音壁を採用している。もう1人がドアに手を掛け、鍵が空いていることを確認すると、2人は目配せをし合い頷いた。
 勢いよくドアをスライドさせる。中に滑り込むと、手早く照明を点けた。
 パッと瞬いた蛍光灯の下、中に踏み込んだ2人の捜査官はすぐに、教室の中央に空間があるのを見つけた。
 ぽっかりと空いたスペースに近付くと、そこには体操用のマットが敷かれている。マットの上には長身の中年男性が俯せに倒れていた。
 男は首にネクタイを巻きつけ、片手はそれを掻き毟るようなポーズで白目を剥いている。一見すると絶命しているように見えた。
 中年の捜査官は男の近くに跪くと、すぐに男の身体を仰向けにし、首筋の脈をとる。かろうじて脈は打っていた。
「救急車だ」
「は、はい……」
 指示を出された若い男は、救急車を呼ぶのをわずかに躊躇った。何故なら白目を剥いた男は、下半身を露出していたからだ。おまけに腹や足には精液が付着しており、性交の痕跡が窺い知れる。
 若手が無線で応援を呼ぶ間、ベテランは素早く教室内を見回した。少しの段差になった教壇に上がると、教卓を覗き込む。は、と息を飲んだ。
 そこには、肩にブレザーを羽織った少年がしゃがみ込んでいた。襟にギリシャ数字の2のバッジがあるから、このブレザーが彼自身のものなら高校2年生だろう。少年は膝を抱え、組んだ腕に顔を伏せている。
「……電話をくれたのは君だね?」
 男の声に、少年はゆっくりと顔を上げる。その顔は涙で薄汚れていた。捜査官の顔を見る少年の大きな瞳からぽろりと大きな雫が溢れ、青褪めた唇が震えた。ゆっくりと、深く頷く。
「動けるかい?」
 少年は腕をほどくと、男の手を借りてそこから這い出た。若い捜査官は連絡を終えて教壇に上がったが、再び絶句した。
 教卓の影から姿を現した少年もまた、下には何も身に着けていなかった。内股をてらてらと濡らし、膝が震えている。肌蹴たシャツにボタンはなく、引きちぎられたらしい糸のほつれがあった。腹や胸には情痕のような痣が微かに見えるが、捜査官の不躾な視線に気づくと、少年は肩掛けにしたブレザーの前をぎゅっと合わせ握り締めた。
 この部屋で何が起きたのか、2人の捜査官の想像はすぐに一致した。
「おい、ブランケット」
「は……?」
「バカヤロウ、ブランケットだ! 早くしろ!」
 ベテランは若手をどやしつけると、一目散に駆けて行く背中を見送らないうちに少年の肩に手を置いた。もう一方の大きな手で、少年の黒い髪をぽんと撫でる。
「辛かったな。君は何も悪くないんだからな。ここで起きたことについて、絶対に自分を責めちゃいけない。我々に連絡をして、偉かった」
 言って、少年が左手に持っているスマートフォンの前に手を差し出した。少年は端末を手にしたまま、微かに身を引く。
「君を助けるための重要な、事件の証拠なんだ。それを渡してくれないか?」
 説得するように優しい声音で言うと、少年はそれを胸の前に持っていき、ぎゅっと握り締めた。
「……写真……」
「え?」
「……写真、撮られて……動画、も」
 震える少年の声に、男は痛ましいものを見る目で眉を寄せる。少年の肩に置いた手に、自然と力がこもった。
「大丈夫。俺達が全部なんとかする。君は心配しなくていいから。な、お願いだから、それを渡してくれ」
 もう1度言うと、少年は取り落とすようにして、その端末を捜査官の手に渡した。
「これは、あの男が持っていたものか? これで連絡をしたんだな」
 捜査官の言葉に、少年は小さく頷く。電源ボタンを押すと、まだバッテリーは半分以上あった。指紋認証式のロックがかかっているらしい。男は手早くパウチ袋に入れた。
「これから一緒に警察署に来てもらうよ。病院にも行こう。歩けるか?」
 少年が無言で頷くと、ちょうどブランケットを携えた若手が戻って来た。厚手のブランケットで少年の身体をすっぽりと包み込むと、少年を守るようにして教室を出て行った。
 教室に残った中年の男は苦々しい顔で、救急車を待つ男を睨めつける。
「まったく、なんでこんな日に……」
 捜査官は白髪混じりの頭髪をくしゃと掻き混ぜた。
 今日はクリスマス・イブ。この高校も、2学期末で最後の登校日だった。
 捜査官の息子も被害者少年と同じ年頃だが、いつも帰りの遅い父親には期待していないことだろう。父親の愛情が足りていない息子のことを案じながら、それでも今日、大人の手に傷つけられたあの少年よりはよほど幸福だと思い、深く溜め息をつく。
 今日まで善良な教師を演じていた男の、仮面の下を暴かなければならない。長い夜が、始まろうとしていた。

2016/09/25


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