Long StoryShort StoryAnecdote

傾いた家


ゆれる天井


A……15

 兄弟に与えられた二段ベッドは、もうすぐ高校生になろうという兄の篤(あつし)には少し窮屈になり始めていた。
 上段を占有する弟の弘(ひろむ)は、ギシギシと軋む下段の気配に耳を傾けながら思う。

 この家には弘と篤と父親の3人で暮らしている。
 母親は他に男を作り家を出て行ってしまった。弘がまだ幼稚園生の頃のことだが、元よりあまり家にいなかった母の記憶はおぼろげだ。
 兄弟はたったの2つ違いだったが、篤は小学生のうちから母親代わりとなって弘の送り迎えから家事までこなした。
 外遊びや習い事で忙しくする同級生の中、スーパーの特売日を気にかける篤をまわりの子供達は遠巻きにし、大人達は同情したが、篤はそれを気にする風もなく、何より家族を優先した。篤にとっては、母親のいなくなった寂しさを分かつ家族が何より大切なものだったからだろう。
 父に対しても日頃の仕事の疲れを労わり、難しい顔で塞いでいる時には優しく励ました。そんな良妻賢母のような兄を、弘は心から尊敬し愛している。
 でも──弘は眠れぬ夜を過ごしながら、寝返りを打つ。
 下段からは寝返りでは済まない衣擦れと荒い息遣い、必死に潜めた呼吸が時折漏れ聞こえてくる。
「とうさ……も、やめ……っ」
「篤……あつ、しぃ」
「ぁ、ン……やめっ……! ひろ、起きちゃ……んは、ぁンっ」
「しーっ。まったく、誘うような声を出して……お前はどんどんいやらしくなるな。もう少し抑えなさい」
 ふ、と声がこもって、兄の口が塞がれたのがわかる。同時に、ベッドの微かな揺れが一定のリズムを刻みはじめた。
「……ん、ぅ、……っ、」
「いい子だ……可愛いよ、篤」
 弘はそっと自分のズボンに手を滑り込ませると、性器を握る。すでに熱を帯びたそれは先端から微かに汁を滲ませていて、弘はその滴りを指に絡めると揺れに合わせて自慰をはじめた。

 セックスの意味は友達の家に落ちていた青年漫画で知った。男女のまぐわう絵を見て股間が熱くなったのを今でも覚えている。
 それを父と兄がしているのをはじめて見たのは2年前、11歳の時のことだ。篤もまだランドセルを背負っていた。
 ベッドの揺れで目を覚ますと、篤の微かな泣き声が聞こえた。父が兄を叱っているのだと思った弘はとばっちりを恐れて寝たふりをしたが、篤の泣き声は何か異様だった。手で口を覆われているようなくぐもった声。
 時間が経つにつれてその声は切なく甘くなり、終いには叱られるのを悦ぶように高く震えた。
 上段からそっと身を乗り出すと、俯せに寝ている篤に父がのしかかり、ゆっくり腰を揺らしていた。
「篤……お父さん、寂しいんだ。お前が必要なんだよ。だからごめんな。ごめん、ごめん……っ」
 篤はされるがまま身体を父に委ねて、ただ息を殺して泣いていた。
 父は呻くと身体を震わせ、しばらくじっと腰を揺らした後篤の上からどいた。自分のものとは違う大きなペニスからは透明な糸を引いて、それは篤の尻の穴からつ、と線を描いて消えた。
 男同士でできると知らなかった弘は、それが漫画で読んだものと同じ行為だとはすぐに分からなかったが、確かに父の性器は兄の後孔を陵辱していたし、果てにはまだ幼い身体の中に精子を吐き出す瞬間まで見届けたのだ。
 その夜が篤にとってはじめてのことだったかはわからない。しかしそれ以来、弘は知らぬふりを貫きながら闇に耳をそばだてている。

「ふ、んっ、んっ……んふ、ふ、ぁ、」
 篤の喘ぎ声は潜められていたが、その微かな上擦りがかえって弘の興奮を誘った。弟に気づかれまいと必死に声を殺し、ベッドの揺れや軋みを気にして身体を強張らせているのだ。
「くっ、うっ……篤、篤ぃっ……!」
「ひ、んっ……や、」
「篤のおっぱい、美味しいよ。甘くて……」
「あっ、あ、やぁっ……!」
 チュバチュバと音が聞こえる。
 父は実の息子を犯しながらその乳首を吸うのを好んだ。篤が達した後も乳首を虐め続けるせいで、篤の乳首は敏感になってしまったようだ。
 昔は兄と一緒に風呂に入っていたのに、と弘は恨めしく思いながら手の動きを速める。
 いつだったか、兄からやんわりとこれからは1人で風呂に入るように言われた。弘とは目を合わせずに、後ろめたそうに。
 弘は父が虐める兄の乳首を想像する。その執拗な愛撫によって、自分が知っている頃よりも大きく赤く、突起はピンと張り詰めるようになっているだろうと。
 続いていた揺れが止んで、父の呻きが聞こえる。篤の中に射精したのだろう。弘が達したのはほとんど同時だった。
「ひっ……く、ぅ……」
 篤はいつものように、行為が終わると声を殺して泣いた。
 父はそんな息子にチュパチュパと音を立てて口づけるとベッドから引きずるようにして立たせ、部屋から連れ出した。風呂に入るのだ。きっと風呂場でもこの行為は続くのだろう……。
 風呂から上がった2人は明かりを消したままの居間でボソボソと会話をする。弘は足音を忍ばせ廊下に出ると、階上からその話に耳を傾けた。
 もうこんなことしたくない。弘が知ったらどう思う? 自分達は血の繋がった親子なのに、こんなの間違ってる。俺は母さんじゃない。
 篤が激情を抑えながらも涙ながらに訴えるのを、父は黙って聞いている。篤が言葉をなくすと、低く「すまない」と、一言だけ置いて父は自室へと下がった。
 篤の気配はしばらくそこに留まっていたが、弘がベッドに戻るとドアが開き、ガタガタと戸棚を漁る音がした。上から覗き見ると、胸にガーゼを貼っている。それが済むと脱がされたシャツをかぶり、それからしばらく真っ暗な窓をじっと見つめていた。

 翌朝、弘が起きて階下に降りると、篤はいつも通り何事もなかったかのように1番に起き出して3人分の朝食の支度をして待っていた。
「おはよう、ひろ。今日は寒いな」
 そう言って笑う目は少し充血している。
 父が篤の身体を求めるのは週末だけだったが、ほとんど欠かさずに肉体関係を強いられている。それなのに篤は弘の前では少しの弱音も吐かず、気丈に振る舞って見せる。弘にはそれが腹立たしくて仕方ない。
「兄ちゃんさ……、」
「ん? どうした?」
 キョロリとした丸い目が弘を真っ直ぐに見つめ返す。この世の汚いことすべて、何も知らないとでもいうような無垢な瞳。それが情欲に濡れるのを知っている弘は、ぎゅっと唇を噛んだ。
「俺、目玉焼き2つ食べたい」
「ああ、いいよ」
「おはよう。寒いな、今日は」
 その時、新聞を手にのそりと父が現れた。すかさず弘は兄の顔を見たが、篤の表情はいつもと変わらない。
「おはよ、お父さん。スリッパ履いて来なよ、足冷えちゃうよ」
 篤は言いながらフライパンに蓋をしてせかせかと父の寝室へ向かう。スリッパを持って戻ってくると、ダイニングテーブルにかけた父の足元に揃えて置いた。
「──なぁ、篤」
 屈んだ篤の頭を父の手が撫でる。その瞬間だけ、兄の肩がビクリと震えるのを弘は見逃さなかった。
「……何?」
「お父さんな、来週は出張になってしまったんだ。弘と2人で大丈夫か?」
「もちろん、大丈夫だよ。俺はずっと家にいるし……な、ひろ? 俺達だけでも平気だよな?」
 心なしか兄の声が弾んでいるように感じた弘は少し溜飲を下げる。父との行為を回避できるのを、兄は喜んでいる。
「平気だよ。兄ちゃんと遅くまで遊べるし」
「あまり夜更かしはダメだぞ」
 言ってコーヒーを口に運ぶ父に、篤は「はぁい」と子供っぽい返事をして笑った。

 翌週の金曜日の朝、父は大きなカートを引いて仕事に行った。海外出張で、帰ってくるのは翌週の日曜になるという。
 金曜日の夕方に学校から帰ると、すでに帰宅していた篤は何だか落ち着かない様子で部屋の掃除などしていた。
「兄ちゃん、今日の夕飯は出前にしない? お父さん、多めにお金置いていってくれたしさ。いつも料理してもらってるし……たまには兄ちゃんもゆっくりしようよ」
「でも、スーパーで食材買ってきちゃったし、」
「それはまた明日にしよう。俺も手伝うからさ」
 篤は少し弱ったような顔をしたが、そうだね、と笑うとピザの配達を注文してくれた。

 夕飯の後、普段家事に急いている兄とはあまりできないテレビゲームや、他愛もない学校の話をして過ごした。
 篤は同世代の子供よりも大人びている。大人びていると言えば聞こえはいいが、老成している、くたびれているというところがあった。実際、弘とひとしきり話した後、ほとんど無意識に篤はフー、と溜め息をついた。
「ごめん、疲れた?」
「あ、いや。なんかこういうの新鮮だな。たまにはいいよな、こういうのも」
 ──たまには。
 弘はぎゅっと唇を噛む。
「……たまに、でいいの?」
「え?」
「俺はもっと兄ちゃんと遊んだり喋ったりしたいけど」
 2つしか違わないのに、ずいぶん甘えていると思う。けれど、体感として篤は大人だった。
 篤はまた弱ったような顔をしたが、すぐにくしゃっと笑い、
「俺も。ひろとこんなに話すの久しぶりで……楽しいし、もっとしたいよ」
 それならさ、と食い気味に持ち掛けて一瞬息を止める。それからもう1度ゆっくりと、言った。
「それなら、久しぶりに2人で風呂入らない?」
 篤はきょとんとしたが、それからふわりと優しく笑った。
「いいな、それ」

 父に抱かれた夜から1週間経っている。
 先に風呂場で待っていた弘は、後から入って来た篤の胸元に注視した。
 さほど目立って特徴があるわけではない。紅色の、ささやかな突起。昔に比べて当然背は伸びたけれど、長細い首筋や浮き出た鎖骨やあばら、狭い肩幅など骨格からして華奢な造作はまだまだ中性的だ。
 それもこれも、父親が抱いて女にしたせいではないかと思った弘の胸にチリ、と痛みが走る。
「ひろと風呂に入るなんて何年ぶりだろうな。すっかりでっかくなっちゃって、狭いったらない」
 篤はクスクスとおかしそうに笑いながらシャワーを浴びる。
 艶のある黒い髪は水に濡れるとさらに煌めいて、水滴を残した量の多い睫毛は束になった。
 弘は母親のことは覚えていなかったけれど、父はよくベッドの中で母の名前も呼んだ。篤は母親似だったのだろう。
「2人で入るのはさすがに無理じゃないか?」
 言いながら、すでに弘が浸かっている湯船にそろりと爪先を落とす。
 父親に絶頂させられる時、ピンと伸びる爪先。
 これから高校生になろうというのに篤の脛はつるりときれいなもので、股間の影にかえって違和感を感じるほどだ。
「はー、まぁ、ギリギリだな」
 肩を出すくらいに身を沈めると、篤は目を閉じて深く息をついた。
 薄い肩は父が掴み、揺さぶり、その鎖骨に顔を埋めていた。今は鬱血痕も残っていないが、時々痕跡を残しては父は悦んでいた。
 ほんのりと頬を上気させはじめた兄は目を閉じて幸せそうに入浴を楽しんでいる。その様があまりに愛しくて、同時に、目の前にある裸体が父に汚されている悔しさに、弘は衝動的に兄の唇を奪った。
「んっ……!?」
 少しの間があってから、バシャ、と水を叩く音がした。すかさず兄の両手首を掴む。水中で、足で股間を弄ってやると驚いたのか悲鳴のような声が唇から漏れた。
 そのまま壁際まで追い込み壁に押さえつける。股間の刺激で身動きが取れないのか、篤はあまり抵抗しない。のぼせたのかもしれない。
 篤の肌が真っ赤になるまで唇を塞いで、ようやく離すとバシン、と頬を叩かれた。
「な、にす……っ」
 篤はほとんど涙目だった。怒りに震えながら、欲情しているのは明らかな潤んだ瞳。
 弘は叩かれた頬を庇いながら、俯いたまま呟くように言った。
「……いつも、してるだろ」
「え……?」
「お父さんとこういうことしてるだろ」
 瞬間、篤はひゅっと息を飲んだが、弘は兄の股間に手を伸ばし首筋に顔を埋めた。
「や、やめっ」
「いつも俺にやらしい声聞かせてたくせに、今さら何?」
 指で胸の突起を虐めると細い腰がビクンと揺れた。誘ってる──そう言った父親の言葉に、今になって納得する。
「やめ、な、に言って……弘っ」
 弘は勢いに任せて篤の身体を湯から引き上げると、のぼせてよろける身体を壁に向き合わせる。後ろから股間に手を這わせるとその手に取り縋ってきたが、大した力はなかった。それをよしとしてすでに昂ったものを兄の尻に押し当てる。
「ひっ……!? ひ、ろ……何、考えて」
「わかるだろ? いつもしてるんだから……さ!」
 慣らしもしていないそこは、しかしまだ幼い弘のペニスを難なく飲み込んだ。一気に根元まで食まれた弘は堪らず愉悦の声を兄の耳裏に注ぐ。
「は、あっ……! 兄ちゃ……の、ケツのなか……っ」
「あ、ぐっ……、ひろっ……!」
「すご、い……キツくて、熱くて……っ!」
 ──弘が起きちゃうから、声を出しちゃダメだよ……。
 そう言い聞かされてきた篤は必死に声を殺すが、弘の方は突き上げる度に大きな声を上げ、それは浴室にひどく反響した。
「ああっ! 兄ちゃん、兄ちゃんっ! きもち、ぃ……! すご、いよぉっ!」
「ふっ、ん! あ、……んっ!」
 激しい突き上げに足元の覚束なくなった弘は、繋がったまま兄を風呂の縁にもたれさせる。上半身だけ外に出した状態で、篤の尻を突きまくった。
「すごい、俺の……キツく締めつけて、奥の方までチュウチュウ吸いついてくるっ……!」
「ひ、はっ! あ、あ、あ、ああっ!」
 きっと、夜を忍んでする行為とは激しさが違う。速度も速く、ガツガツと奥を抉るような強い突き上げに篤の口からもやがて日頃では出ないような嬌声が溢れ出した。
 篤はいつも、父に対して潜めた声で懇願もしていた。

 ──お父さん、……ねが、い……もうやめて。
 ──おとうさん、おとうさん、おとうさんっ。
 ──お願い……弘には絶対にこんなことしないで……。

 篤は健気にも、弟を守るために父の劣情を一身に受け止めてきたのだ。弟がこの受け入れがたい現実を知らずにすむよう、そしてこんなことが弟の身にまでも降りかからなくてすむように。
 その弟が、自分の頭上で性器を扱いていたとも知らずに。
「やめ、やめろひろっ、やめ、ぇ、あっ! あん、ああっ!」
「エロい声出して、お父さんとずっとしてたんだろ? 好きなんだろ、セックスが!」
「ちが、ちがうっ……そんなっ──俺は……お前を、守りたく、て、」
 湯は温み、身体もだるくなってきた。
 弘はぐったりとした兄からペニスを一旦引き抜いた。勃起したまま兄を引きずって浴室を出ると、全裸の状態でリビングのカーペットに転がす。
 上背は篤の方がある。けれど、骨格的にいえば弘の方が分がいい。おまけに今は篤はすっかり湯あたりして全身を真っ赤に染めている。
 改めて正面から向き合いゆっくりと挿入すると、中もトロンと熱く、切なげにきゅうっと弘のペニスを締めつけた。まるで、それを待っていたかのように。
「はああぁ……んっ」
「くうっ……! た、まんね……っ、兄ちゃん……兄ちゃん……!」
 ぐぷ、ぐぷ、と出し挿れしながら、抵抗の力をなくした篤の乳首をしゃぶった。篤は必死に唇を噛み締めていたが、ガリ、と乳首を噛むとついに口を開いた。
「ああっ! はンッ、ンッ! あんっ! やだ、やっ! あああ、あっ! いや、やだ、いやだぁっ!!」
 パンパンパン、バヂュッ、バヂュンッ。
 激しく肌を打つ音。父のペニスには質量的には及ばないが、その分弘は闇雲に、無我夢中で篤の中を掻き回す。
「んはっ! やめ……ひろ、ひろぉっ」
 甘えるように名前を呼ばれる度、股間に血が集まる感覚がした。自分の下で乱れる兄は、父親に抱かれている時よりも高く甘い声で鳴いている。その愉悦に酔いしれ、弘の腰使いもどんどん淫猥に、相手の限界を試すような調子に揺れる。
「やだっあーっ! そこ、だめ、だめぇっ……! ッ〜〜!!」
 押し広げた両足、太腿のつけ根がビクビクと痙攣する。篤のペニスは緩く勃ち上がっていたが射精はせず、中の快感だけで極めているようだ。
 その時の顔は、いつも気丈に振る舞う篤が弟には絶対に見せないもので、弘は堪らない気持ちになった。思わず、達しているところを容赦なく責め立てて連続絶頂を強いると、篤は兄としてのプライドも何もぐちゃぐちゃに放擲して淫らによがり狂った。
「ああっ、いあ、らめ、あああっ! そこっ……おかしくなっ……ひぁ、あっ、あっ、あ"っ!!」
 はぁ、はぁ、はぁ、と、弘は言葉もなく兄のアナルを突き上げ続ける。
「ああ、あ、あ、あ、あぅッ! ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
「──ああ、イく、イくッ! 兄ちゃん、中に出すよっ……!」
「や、あっ! だめ、だめ、やめっ……あ"あ"あ"ッ〜〜!!」
 びゅぐびゅぐ、と勢いよく射精し、篤の体内に弘の出した精液が流し込まれていく。腸内に広がり、やがてそれは兄の身体全体に染み込んでいくのかと思うと弘は興奮して、ぎゅうっと篤の身体を抱き締めた。
「ぁ……あ……、」
 荒い呼吸が重なり、くちゅ、と舌を絡める。頬を伝う涙に気づいて拭ってやると、篤はふいと顔を反らした。
 いまだドクドクと脈打つものが、兄の体内できゅん、きゅん、と痙攣する肉襞に締めつけられ愛されている。
 母の胎内に、戻った気がした。

 その後も弘は続けて行為を再開し、篤の中に何度も精を注いだ。篤は抵抗を諦めてされるがまま抱かれたが、しまいには心までもすべて、弟に明け渡した。
 ペニスを引き抜かれると、どぷり、大量の精液が後孔から溢れ出して尻を伝い、カーペットを汚した。
 家族を大切にしたかった。
 母親に捨てられたのはショックだった。父も弟もきっとそうだろう。自分がその代わりになることで2人の、そして自分自身の寂しさを埋められるならと、必死にやってきた。
 でも──はじめて父に身体を求められた時、何かの歯車が狂ってしまった。
 その行為を認めたわけじゃない。けれど──母なら。父の妻であるなら、その行為を耐えることでこの家族の絆が保たれるなら……耐えようと、そう思ってしまった。
 今ならそれが間違いだったとわかる。けれど──父だけでなく、弟にまでも犯された篤は虚ろな瞳で天井を見上げていた。
 父に抱かれる時、天井はいつも揺れていた。強引に腰を抱かれて、太く長い、硬い肉棒で奥を突き上げられて頭も身体も揺さぶられて。ベッドの天井が揺れているのは、自分の身体の内側だけのことだとどこかで錯覚「しようと」していた。
「……気づかないはず、ないじゃないか……」
 ベッドよりもずっと距離のある暗い天井を見上げながら、篤はひとり、声を潜めて嗤った。

2019/01/31


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