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穢れた血


第2話


 広い部屋に響く、肌を打つ音、苦しげな喘ぎ声。
「は、ぁあっ! あうっ、ぅあっ……!」
 無理矢理後孔を押し開かれ異物を出し挿れされて、結合部から溢れる淫らな音は万里の耳までも犯す。感じたくないのに、時折甘く跳ねる声を堪えることもできない。
 万里はバイト先の倉庫で百名にレイプされ気絶した後、車に乗せられて百名のマンションに連れて来られていた。意識をなくしていた万里自身は目にしていないが、高級タワーマンションの最上階。点描のような美しい夜景を臨む寝室のベッドはキングサイズで、乱れる2人の男を抱擁するかのようだ。
 万里がベッドの上で正気を取り戻した時にはもう衣服はすべて剥ぎ取られており、抵抗できないようご丁寧に手首はタオルを噛ませて縛られ、頭上に固定されていた。百名は万里の目覚めを待っていたとばかり、まだ状況に動転している万里の上に覆いかぶさると、すぐに非道な行為を再開したのだった。
「や、ンあ、ああっ、ゃあーっ!」
 両膝が肩につくほど身体を折り曲げられて、上からの叩きつけるような抽挿。体躯のいい百名に押さえつけられては、細身の万里はひたすらその衝撃を受け止めるしかない。
「ひっ……! ひぐ、ぃだっ……ぁ"、」
「万里……すごいよ、もう根本まで入ってる。ふふ……いやらしい蜜を溢れさせて、はしたないな」
 百名は動きを止めると自身を深く飲み込んだ結合部をうっとりと見つめ、玉の汗が浮かんだ白い尻を撫で回す。ゆっくりと引き抜き、再び奥まで挿入されれば、奥に吐き出された精液と万里自身の分泌した愛液の混ざったものがごぷりと溢れて背筋へと伝った。ざわり、万里の背筋に快感が走る。
「ひぐっぅ、も、やだ……っやだぁ、」
 万里は子供みたいにしゃくりあげたが、百名はそれを冷酷に無視する。
「やだ、じゃないだろう? ここ、こんなにいやらしくうねらせて……お前も好いんじゃないか。可愛いよ」
 シーツに腕をつくとまるで万里の腹の中をかき混ぜるかのようにねっとりと腰を回し、万里は首を仰け反らせて悲鳴をあげた。
「っ……い"ぁ、や"あああ"っ!」
 万里の身体はその心を裏切って、与えられる快楽に降伏してしまう。百名の言うことが事実なら、それはオメガの受胎を望む本能とも言うべきものなのかもしれない。
「万里のナカ、悦んでるのがわかるよ。ほら、俺の精液を浴びて、疼いて……っ、」
「──ひ、ッ! や、いやぁっ!! やめっ……っ、──〜〜ッ!!」
 じりじりと焦らし、ゆっくりといたぶるような責めに、万里は仰け反り息を詰まらせる。
 百名の剛直は万里の弱点を次々に暴いた。その度に思考が霧散し理性が打ち砕かれて、百名の性器に捏ねくり回された粘膜が悦び吸いついているかのようにさえ感じられる。もはや最初の時の痛みはない。しかし痛みよりも耐え難いのが背中を駆け上がる快感──味わったことのないそれに翻弄され、拒もうという意識が奪われていくのが恐ろしい。
「嫌だっ──! もうやだっ……やめ、ン"あああぁ……っ!!」
 万里は涙を散らしていやいやと抵抗をして見せる。それがかえって、征服者の嗜虐心を煽るとも知らずに。
「ふっ……く! お前もすっかり感じやすくなったじゃないか、万里」
「ひっ、いっ! いやっ……やだっ……ッ〜〜!!」
 思い知らせるようにズン、ズン、とゆっくり、けれど強く奥を突かれると、万里の身体は歓喜するかのように震えてしまう。
「あぁあ、あ、……は、ぁ」
 信じられない。信じたくない。自分が男に、しかも大嫌いな百名に──犯されているだなんて。
「もう抜いて……、抜けよ、こんな、こと……っあ! ン"やぁ……!!」
 百名の野太い性器は、張り出した竿の部分が出入りする度に万里の好いところを強く擦り上げる。堪えきれない、ゾクゾクと這い上がる悪寒は疑いようもなく快楽と言えた。激しい突き上げに言葉にできないほどの恐怖と嫌悪を感じているのに、身体が悦んでいるのを否定できないのが万里の心を辱める。
「そうか、万里はここが好きだな」
「ちがっ……違う……ッ!」
「嘘はよくない」
「あ"あっ!? やああっ、ぁっ!!」
 突かれる度に気をやりそうになる箇所を重点的に擦られ突き上げられて、万里はガクガクと太腿を痙攣させた。女のように達しながら、子をなすことを望むような胎内の動きをさせて。
「──はっ……ぁ、……は、」
「んっ……、堪らないな、そのいやらしい腰つき……これだけ感じてもらえるなんて光栄だ」
「ち、がっ……ンひっ!? ひ、いあっ……あっ、あふっ、ンン"──〜〜ッ!!」
 奥を責めながらも百名は万里に口づけ、舌を絡ませつつ律動を速くする。
「んふっ、うっ……ン"ッ! んんっ……、んっ、んっ、んっ!」
 上顎を舐られる。敏感になっている万里の身体はぞわぞわと鳥肌を立てながらも自身を侵略する熱をきつく締めつけ、引き抜くのを咎めるようにきゅうきゅうと縋りついた。
「っふは……、ああ、嬉しいな……、お前とこんなに身体の相性がいいなんて……っ!」
 百名は整った顔を優美に綻ばせる。本当に、運命の人との出会いに感激しているかのような純真さすら滲ませて言われても、万里はそうは受け入れられない。
「 んっ、はぁんン"ッ! いやっ、や"ぁぁぁッ……!!」
「万里、ああ好い、お前のナカ……もう俺の形を覚えてくれたのかな。こう、突くと、カリ首に絡みついてくる……っ!」
「くひっ……い、イッ!! いあ"っ……、ア"ッ……!!」
 同じところを執拗に虐められて、濁った声を抑えられない。万里はぎゅっと唇を噛む。
「ふっ、ン"ッ! ん、んぎっぃ」
「自分のよがり声が恥ずかしいのか? ふっ……素直じゃないところも可愛いが」
 万里は涙に濡れた目に怒りと憎しみを込める。感じてなんか──しかし、百名が巧みに腰を回すと、万里は咄嗟にその快感をやり過ごすことができず表情を淫靡に歪めた。
「あはっ……ぁ、」
「可愛いね」
 百名の熱い手で下腹を撫でられ、ぞわりと痺れるような快感に襲われる。押し開かれた太腿の内側はビクン、と突っ張った。羞恥に染まる肌を嘲笑うかのように、百名はツー、と指先で万里の腹をなぞる。
「んはっ! は、はぁっ……触る、なっ……、」
「諦めろ。お前の身体はもう俺の与える快楽には抗えないんだ」
「や、め──」
 ドチュッ、とより激しい動きで突かれて、頭の中が真っ白になる。
「ヒッ……! きぃっ……!」
「万里のここにまた、たっぷり子種を出してやるからな」
 嫌なのに──どうして。突き上げられるところがじんじんと熱い。もっと、もっと激しく突き上げて欲しい。そんな願望さえ万里の脳裏にちらつく。
「ひあぁっ……ンッ!! んひぃっ、いやだっ……!」」
「そんなに欲しがらなくてもくれてやるよ、万里」
「それは嫌だ、やめて……っ」
「さっき1度出したんだ。きっともうお前のここに、俺の精子は届いているよ」
「ひあ"あああぁっ!!」
 くすぐるように臍の中に指を入れられグリグリと捏ねられる。
「お、願いやめ……っ! 何でもするから中に、……出すのだけは……!」
 哀願する万里の頬に、百名が手を這わせる。そのねっとりとした動きも万里には耐え難かったが、またあれを味わわされるのだけは嫌だった。身体の中に広がる熱──嫌悪感。自分が、他者に征服され塗り潰される感覚。
「じゃあ、俺のを咥えて満足させて」
「え……? ん、あっ!」
 ズル、と急に性器を引き抜かれて腰が震える。百名は膝立ちになると、昂ったままの巨大な性器を万里の眼前に見せつけた。
「……、」
「何でもするんだろ?」
 百名の性器は大きくカリが張り出し、太い血管が浮き出ている。自身のカウパーと万里の愛液にまみれてテラテラとぬめり光るそれは、禍々しいと言っていいくらいだ。今までこれが、自分の中に──万里の身体が恐怖に震える。
「歯を立てるなよ」
 膝立ちになった百名が万里の眼前に聳り立つものを押しつけると、万里はぎゅっと歯を食い縛り、意を決したように口を開けた。
 舌で先端に触れる。変な味がして、それだけで吐きそうになる。唇で甘く食み、少しずつ口の中に入れると、恐る恐る舌先で先端をチロチロと舐めた。
「やり方を知らないのか。これから覚えるまでやらせるぞ」
「んグッ!?」
 百名は万里の頭を掴むと、強引に前後に動かした。万里はぎゅっと目を瞑ったまま、されるがままになるしかない。
「ふぐっ! んぶっ! ぐ、んむッ!」
 時折喉の奥にまで届いて、胃液が迫り上がってくる。男の性器を扱くのに、自分の口腔を使われているのだと思うと悔しくて堪らない。
「ほら、舌も巧く使え。裏筋を舐めて……そう、そうだ。ああ、上手いじゃないか。さすが、奉仕の才能がある」
「ん……ふ、む……っ」
 休憩のように動きを止めると舌での愛撫を求められ、少しするとまた頭を揺さぶられる。万里の顎は強引に大きく開かされ揺さぶられて、もう舌を動かすこともままならない。顎が外れてしまいそうだ。
「そら、口の中に出してやる。全部飲み干せよ」
「ンッ、ンンッ!? ぐ、げっ……ッ!」
 鼻の奥がツンとしたと思うや、男の亀頭部が喉の奥の窪みを抉じ開け、捩じ込まれる。呼吸もできないほど深く、喉の奥にそれを押し込まれた瞬間、熱い液体が迸った。百名が性器を引き抜くと同時に万里はゲホゲホと激しく噎せ返し、しまいには嘔吐した。そのほとんどは百名の精液で、あとは胃液くらいだったが。
 百名の濃い精液はそれだけに留まらず万里の髪や顔面にも飛散した。
「好い顔だ」
 精液で汚された片目を閉じ、唇は白濁混じりの吐瀉物を垂らしている。
「……ゲ、エッ……オェ、ぐっ……」
 万里は唾液を垂らしながら喘いだ。
「どうだ、俺の子種の味は。美味しかったか?」
 万里はもはや、恐怖で震えていた。この男は異常だ。自分をこんな風に搾取し、屈服させてどうしようというのだろう。
 青褪め震えている万里に、百名はもう1度問う。
「美味しかったかと聞いているんだ。答えろ」
「ぉ……いし、わけなぃ……っ」
 百名はニコリと笑い、ドロドロになった万里の顔を近くに落ちていたシャツで拭った。それからキッチンでグラスに水を注いでくると、口の中を濯ぐように言われ従う。
「ふっ……ん」
 きれいになった口内にまた舌を入れられて、ゾクゾクと背中が震える。万里は抗うこともできずに口内を嬲られた。
「万里は強情だな。そんなところも気に入ったよ」
「ふっ! ん……!」
 再び秘部に指を挿れられ、グチグチと弄られる。快感を引き出されるのが嫌で、万里は腰を捩った。
「ふ、ナカがヒクついてる……欲しがりだな」
 トン、と胸を押され、万里の身体がベッドに沈む。
「な、なんでっ……約束が……、ああっ!」
 違う、と続ける間もなく押し入ってくる熱。無遠慮に中を擦られ、奥に叩きつけられる。出したばかりだというのに百名のものはすでに硬さを取り戻し、万里を苛む。
「ひ、あっ! あ……! まっ、とま、て……あ"ぁっ、あぁぁああ"──〜〜ッ!!」
 激しい突き上げに万里はあっという間に達したが、それにも構わず止まない律動に責め抜かれた秘部は何度目とも知れない絶頂の飛沫をあげた。
「満足したら、と言っただろう? あんな拙いフェラで好くなれるものか」
 万里の喉にたっぷりと白濁を吐き出しておきながら、百名はしゃあしゃあと言ってのけると万里の腰を掴みさらに律動を速くしていく。
「ほら、ほら! お前もこれが欲しかったんだろう! 子宮が喘いでるぞ!」
「ふあっ! あ、あっ、いや、やだやだやらっ、や"ぁああぁっ!!」
 万里の身体は激しい突き上げに困惑し緊張しながらも、腹の奥は躾けられるように従順になっていく。侵略者の望むようにうねり、絡みついて、万里の口からは苦痛だけではあり得ない甘い悲鳴が。
「はあっ、あ"〜〜っ! あ、あ"んっ!! いや、ンア"あぁ……っ!!」
「俺の形をしっかり刻みつけてやる……そして、俺との子を孕むんだ!」
「ひ、いっ!! やら、……やっやめ、あっ! ンああっ!! やめぇっ……!」
 必死に拒絶の言葉を吐くのは、自分に言い聞かせるためでもあった。気持ち好くなどない、と。しかし、寄せた眉や潤んだ瞳、半開きの口から溢れる自分のものとは思えない甘えた高い声──百名のニヤついた顔を見れば、万里のそうした反応を愉しんでいるのは明らかだった。
「あ"あぁあっ!! いあ"あっ!! あ、あぁ、あ──ッ!!」
 万里の声が高く跳ねる箇所が知られてしまえば百名は的確にそこを責め立てる。快楽に支配されていくのに抗えず、万里は顔を歪めながらも甘く鳴いた。
「ああっ! らめ、そこっ……掻き混ぜないでぇっ、あんっ! ひっ! ひあ"ぁっ!」
「お前のここは俺が、こう、する度に……痙攣して悦んでるぞ」
 ビクッ、ビクンッ! と、百名の言葉に応じるかのように万里の腰が跳ね上がる。
「ひうっ! やら、も、ゆるひてぇ……っ!!」
 屈辱と快感がない混ぜになって、涙が止まらない。腹の奥が熱く疼き、種を欲してビクビクと痙攣していた。
「おねが……っ、からだ、へん……なる、ずっと……イッて……、」
「やめて欲しいか? ナカに出したら終わるぞ」
「……っ」
 万里の瞳が絶望に曇る。それを望めば終わるのか──けれど万里はぎゅっと唇を引き結び、ゆっくりと首を横に振った。
「まったく……本当にわからず屋だ」
 腕の拘束を解かれ、身体を返されたと思うと万里の身体がベッドの上で乱れる。俯せにされると上に体重を感じた。そして──。
「っ──!? あっ、」
 腰を持ち上げられ、獣の交尾のような姿勢にされた途端にズンッ!! と下腹に重く響く突き上げ。とどめとばかり、百名は再び万里のうなじに噛みついた。
「が……!? ぅっ……ひ、ぎぃ……っ!!」
 頭が真っ白にスパークし、全身が粟立つ。
「ああ、イッてるね……身体は正直なんだ。愛してる……これからもっと、骨の髄まで愛してその強情な心まで溶かしてやるよ」
「はっ……ぁっ、待っ……ン"あ、ぁっ……!?」
 長くて大きい、硬いものが万里の奥を激しく突き上げると、万里の声にこれまでにはない甘えた響きが混ざった。
「ひあ"あぁンッ……! ふぅ……っひび、く、……おくに響くぅ……っ」
「はは、好いんだな、万里! きゅうきゅう締めつけて……っく、」
 百名の顔もまた、快感で歪む。万里はただひたすら甘い声をあげながら泣いていた。
「はひっ、ひあっ、うぐっ! うぁっあ、あ、あ"ああ……っ」
 噛まれたうなじの傷もズキズキと痛む。下腹が痺れる。ああ、この男の言う通りなんだ──万里は思った。この身体は、番になった男の精液を貪欲に求めている。そのうち心までも征服されてしまいそうだ。
「い、い……イくっ、のや、きもち、ぃの、やぁ……っ」
「よく吠える子犬みたいなお前も可愛いけど……素直な万里も可愛いよ」
「んっ……ふ、うっ……!」
 唇を合わせられても、万里はそれを素直に受け入れてしまう。脳が蕩けたように思考停止し、快感だけに理性までも支配されてしまったかのように。
 両の乳首を指で捏ね回されるとまた達した。熱い剛直を食んだ箇所がビクビクと痙攣して、万里の口内に百名の低い笑い声までもが注ぎ込まれる。
「──またイッた」
「ひ、ぃっ! あン、そこ……らめ、ら、……ン"ぁあっ!!」
「ここ、ここが好いのか?」
「好いぃ……っ! 好き、そこぉ……ッンあ!」
 乳首の先端を爪でカリカリと虐められながら奥の弱いところを甘く、時に乱暴に責められると、万里は自ら腰を振りたくって甘い悲鳴をあげた。
「んひぃいっ! ひあっ!! あっそこっ、そこだめぇえっ……きもち、すぎてらめっ、ら、あっ、あっ、あ"ッ──〜〜!!」
「イけ、万里……イき狂え」
「ひっ、イくイくイッ……イッてる……ひ、ぃ……っ!!」
「万里、お前のナカに出すよ……俺の子を孕んでくれ……っ!」
「ひはっ! あっ、欲し、ぃ……っ、もっと、あ、あ、はぁあ"ああ──〜〜ッ!!」
 奥を突き上げられ中に出される瞬間、万里も極め射精した。百名はその倍以上の勢いと熱量を持って万里の体内に──ドクドクッ、ビュク、ドプッ、ドプッ、ドプン……!
 叩きつけるような射精の勢いに、万里はガクガクと腰を跳ね上げ絶頂する。
「あ、あっ……! は、はうぅっ……ン……! ぁ、奥まで……っ出てるの……、きもち……ぃ、」
「は、はぁ、……はは、どうだ万里、言ってみろ。お前の腹の中は今どうなってる?」
 万里はこれまでにない恍惚とした表情で、夢見るように言葉をこぼした。
「はっ──、あ、あっ……、な、か……に出て、あつ、ぃ……のがっ……ドクドクって、いっぱい……、」
 白濁に汚された媚肉が、ビクビクと震え歓喜している。薄い腹を震わせるとまさに砕けたとでも言うようにガクンと腰を落としてシーツの海に下腹を押しつけた。
「すごいよ万里……はは、こんなに泣いて、」
 言いながら百名が拭ったのは万里の涙ではなく、ヒクヒクと震える万里の太腿だった。そのしなやかな内腿は百名の吐いた精液はもちろん、万里自身が何度も絶頂し吹き出した潮でもあった。
「俺のものを搾り取るみたいにいやらしく締めつけてくる……」
 亀頭球が張り出し、性器を引き抜くことはできない。その間も長い射精は止まず、万里の中もそれに応じるようにビクビクと震えていた。
「は……、はぅ……ぁ……?」
 深い快感に飲まれ快楽の沼を揺蕩っていた万里だったが、不意に己を取り戻すとさっと青ざめた。
「は……、え、あ、ぁ……っ? やだ……や、だ……ぁ、あっ……なか、ださな……っ、」
「まだまだ……止まらないな」
 胎内に男の性器がドクドクと脈打つのを感じる。乳飲み子のように百名の精液を搾り取る自身の肉襞の動きさえも。
「やだ……っ、や、あっ……!」
 万里はゾワゾワと這い上るような嫌悪と快感に塗れて泣くことしかできなかった。ぎゅうとシーツをきつく握りしめ、額を擦りつける。
「はぅ……ンひぃっ……!」
「感じてる万里の声……すごく可愛い」
「も、抜ぃてぇ……っ、」
「しばらくは抜けんさ。受精するまでたっぷり注いであげるよ」
 ヒク、ヒクン、と痙攣する結合部の甘い痺れに羞恥と屈辱を感じながら、それすらも今は快感に上書きされてしまう。
「ああ、万里……愛してる、万里……」
 百名はそう囁きながら、万里の体内に子種を蓄えていく。例の瘤で堰き止められたために、万里の下腹は少し張ってしまっていた。
「は、ぅ……っ、……っく、うっ……ひっく……ひっ……や、だ、やだやだ、やぁっ……」
「好い匂いだ……甘い、匂い……」
「ま…………ほまれ……たすけ、て……っ、ほまれぇ……っ」
 噛まれた首筋は、射精されてからさらに強く痛んだ。自分の身体が支配されていく感覚を否定したくて、万里は朦朧としながらも恋人の名前を呼んだ。
「いいかげん諦めろ、万里。お前はもうわたしのもの……他の男には指1本触らせない」
「ほま、……んはぁあ……っ!!」
 瞬間、万里の身体の弱みを知り尽くした百名が万里の耳の中を舐め、同時に乳首を捏ねくり回す。万里の呼吸は甘えるように乱れた。
「どうやら徹底的に躾けられないとわからないらしい。よそで尻尾を振れないように、とことん快楽漬けにしてやる。他の男の名前は2度と呼ばせない」
 百名は性器を引き抜くことなく、そのまま野獣のように窓の外が明るむまで万里を犯し続けた。

「歩くのもままならないかもしれないが、諦めの悪いお前のことだ……念には念を、というやつだな」
 執拗な愛撫を受け続けた万里は浴衣のような寝具を着せられると、その右手首に手錠をかけられた。抗う力もなく虚ろな目で床を見つめる。まだ全身に百名の手が這っているような感覚さえして、ゾクゾクと襲ってくる怖気を振り払うように目を瞑った。
「お前の保護者には俺から連絡をしておく。お前がオメガだということも、俺と婚姻することも」
 呆然としていた万里は、その言葉に顔を上げる。
「婚姻……? 何を言って……俺は男だ」
「ああ、オメガのな。アルファとオメガの婚姻に男女は関係ない」
「ふ……ざけるな……、俺はあんたのものになった覚えはない!」
 掠れた声を振り絞り、必死に噛みつく。しかし百名はそんな万里を嘲笑うかのように目を細め、
「腹の子はどうするつもりだ?」
「え……?」
「堕胎するにも金はかかるぞ。家族や学校に俺から知らせてやってもいいが」
 ゾッとする思いで、万里は自身の薄い腹に触れた。妊娠……まさか、本当に? そんなはずはない、という気持ちがまだある。けれど、もし自分が本当にオメガならば──中に出された時の感覚が蘇り、身体が震えた。
「や、やめて……ください……っ! そんな……子供、なんて俺……できるはず……っ」
 嫌というほど突き上げられ植えつけられた甘い疼きが、まだそこに残っている。ここに、新しい命が宿っているというのか? 今から避妊薬を飲んでどうにかなるのだろうか。気は急くのに頭が働かない。
 誉──彼とは、どうすればいい?
「誉……」
 でも、万里の身体はもう百名にひどく汚されてしまった。誉の前に立つことすら後ろ暗い。
「ほま……」
 溢れてくる涙を止められない。どうしたらいい。どうすれば。左手で目元を覆い、前髪をくしゃりと掴んだ。
「何も気にするな。他の誰が拒んでも、俺はお前を受け止める。お前が俺を憎もうと、俺はお前を目に留めた時から運命の相手だと悟っていた。これから俺との幸福を考えればいいだけだ。そうだろう?」
 神に選ばれた者の考えだ。働かない頭で、万里はそう思った。
 過去、社会を大きく変えてきた者は自分の信念を曲げず、運命にさえ抗って志しを全うした人だ。貧困のため、人種差別のため、戦ってきた歴史上の偉人を、社会派の自認がない万里でも何人かは名前を挙げることができる。彼らのことを、神に選ばれた人のように万里は思ってきた。
 けれど、神に選ばれた者は、神ではない。そして百名は、自分自身を神だと錯覚しているだけの愚かしい人間だ。まわりのことなどどうでもいい。想う相手の心さえも。百名にしてみれば自分の選択に不正解の文字はあり得ないのだろう。こんなことをしてまで他者を手中に納めて得意げな顔をしている。
 アルファが生物として創造主に望まれた存在だとしても、百名はその力の使い方を誤った男だ──万里はギュッと拳を握った。
「……俺はそんな風に思わない。確かに、あんたといれば金に苦労することはないんだろう。それに従って生きる……そういう人間もこの世にはいるだろうさ。でも、俺はそんな差し出された偽りの幸福に溺れるなんてさらさらごめんだ……っ」
 震える声でそう告げると、百名はフッ、と鼻で笑った。
「やはり気に入ったよ。お前の、簡単には手中に納められないところ。でも……うなじを噛んでやった時の乱れようときたらどうだ?」
 ギクン、と万里の心臓が跳ねる。頭が真っ白になり、思考が肉体に奪われたあの時──おぞましいのに、百名の種を求めて浅ましく腰を振りたくり、甘い悲鳴をあげて……。
 ──欲しい、もっと。
 ──奥まで出てるの、気持ち好い。
 快楽に溺れた自分の声が思い出されて、万里の顔が羞恥に染まる。
「あ、れは違……、」
「偽りの幸福、と言ったか? お前の身体がすっかり俺に服従して歓喜に喘ぐのも時間の問題かもしれないぞ」
 ひたり、百名の手が万里の頬を撫でて、万里はガチャガチャと手錠を鳴らしてまで身を捩った。
「離せっ……! 触るなっ!! 」
 百名は噛みつかれるのを避けるように素早く手を引くと何度か見せたようにニヤリと笑う。万里はその整った顔を睨みつけ、それからフイと顔を逸らした。
「お前が孕むまでこれから毎晩可愛がってやるよ、万里」
 絶望的な宣告を見舞うと、百名は青い顔をした万里を残して部屋を出て行く。
「……そだ、こんなの……嘘だ……っ」
 広いベッドの上で不自由な右手で枕を殴りながら、万里は自身の膝を抱えた。

2022/1/27


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