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Disguise / Disclose




Disclose [ ディスクローズ ] 動詞、他動詞

1 )
Exhibit fact and a secret to many people.
事実や秘密を大勢の人に公開すること。
(……を)発表する、開示する、明らかにする

2 )
I make them expose the one from which I hid, make it bare.
隠れていたものを露出させる、露わにすること。
暴露する、打ち明ける



1.

 20歳の誕生日を迎えてすぐ、草太は春日の望み通り、バスケのサークルに入った。と言っても、春日の誘いに根負けしたというのは建前で、本当は少し桜斗と距離をおきたかったからだ。
 夏休みに入ると、桜斗は桜斗でオフィスの清掃スタッフのアルバイトを始めた。手袋とマスク着用で仕事ができるし、関わる人も少なくていい。
 桜斗が望む限り、草太はバイクを出すのを惜しまなかったが、草太がバスケの朝練を蹴っていることを春日から聞いたらしい桜斗は、送り迎えを辞退した。
「いつまでもべったりって、やっぱりちょっと変だろ」
 自分から身を引こうとしたのに、桜斗の口からそう言われるのは少しショックだったけれど、草太は表面上は平静を取り繕って桜斗の意見を飲んだ。

 それからというもの、3年のブランクを取り戻すべく、草太は朝練にも熱心に参加し、バスケに打ち込んだ。
 久しぶりのスポーツは楽しかった。プレイしている間は身体を動かすことだけに集中できる。余計なことを考える時間がなくなると同時に、思い切り汗をかいて飯を食べ、快い眠りにつくのは気持ちがよかった。
 中学以来の春日との相性も抜群だった。当時の2人の背丈は同じくらいか、春日の方がやや小さいくらいだったが、今は春日の方が15センチほど高い。草太から春日へのパスは通りがよく、2人の得点力はチームの要となった。
 夏休み中にあった試合は、桜斗も観戦に来た。さしてスポーツに興味がないだろう桜斗も、草太と春日の活躍を目にすると顔を紅潮させて喜んだ。草太は誇らしく、嬉しかった。
 そんな風にして、2人の送る日々にお互いが介在する時間はごく自然に、緩やかに減っていったが、草太は本来の自分を取り戻していくのを感じていたし、桜斗もそれは同じだろうと信じた。
 ──きっと、これでいい。
 小学生の頃から確かに仲はよかったが、中学で離れ離れになるとそれぞれに違ったコミュニティを築いて楽しくやっていた。これが、本来の自分達のあるべき姿だ。
 草太は自分にそう言い聞かせ、前を向いて歩き始めた桜斗から努めて距離を置いた。

「来週のサークルの忘年会、冬月も声掛けたぞ」
 練習を終え更衣室で着替えていると、春日が不意にそう言った。
「えっ?」
「前に話しただろ? イブに大所帯でやるって」
「でも……桜斗は関係ないだろ」
「いいんだよ。みんな彼女とか他の学部の仲いい連中とか、好き放題呼んで来るんだ。そこで新しい出会いがあるかもしれないし?」
 ニヤッと笑いながら言う春日に、草太はムッと口先を尖らせる──なおさら呼びたくない。
 草太は汗を吸ってびたびたになったシャツを脱ぐと、床に広げたスポーツタオルの上に投げつける。
「桜斗は初対面の人が大勢いる場所、苦手だと思うけど」
「まぁ、確かに最初は気乗りしないって感じだったけどさ。お前が来るって言ったら、参加してみるって」
「……ふぅん、」
 それを聞いて、ますます口先を尖らせてしまったのは不満からではなく、今度は照れ隠しだった。隣でニヤニヤと笑う春日はそれがわかっているのか、見透かされたような気がした草太は、ふいと背中を向ける。
「お前ら、喧嘩でもしたのかと思ってたけど、そういうわけじゃないんだな」
「え? 何で……」
「だってほら、最近はてんで別行動だろ? つっても、昼飯は一緒に行くし、冬月は俺達の試合の応援にも来てくれたけどさ。でもそれってなんていうか、最低限のルールみたいだ。俺にはお互いが妙に避けてるように見えたんだよ」
 相変わらずこの男は鋭い。草太は内心ひやりとしながら、横目で振り返って長身の友人を盗み見た。当人は草太の動揺にまでは気付いていない様子で、着替えのシャツに腕を通している。
「去年なんか朝から晩までべったりだったのにさ……あ、ほら、ガーディアン秋山!」
 かつて春日が草太につけたあだ名だ。草太はばつが悪く、汗ばんだ髪を乱暴に掻き混ぜる。
「桜斗の病気のことが心配だったんだよ。でも、桜斗はよくなってきてるし……もう俺の助けはいらないさ」
「……ふぅん、」
 春日は何か言いたげだったが、草太は春日が言葉を次ぐ前に乱暴にロッカーを閉めると、逃げるように更衣室を出た。
 背中に春日の視線の余韻を感じながら、あの天然の洞察力の鋭さが苦手だ、と草太は思う。春日自身は決して自覚的ではないだろう、それがなおさら嫌だった。いつ、どんな場面で自分でも知らない自分の内面を暴かれるかわからない。
 少なくとも桜斗への特別な想いだけは、誰にも知られるわけにはいかなかった。


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