Long StoryShort StoryAnecdote

Disguise / Disclose


 更衣室のロッカーを開けると、桜斗は小さく溜め息をついた。でも、この憂鬱な気持ちも、オレンジの作業着に身を包むのも今日で終わりだ。
 年が明けてからも、桜斗は同じビル清掃の仕事を続けていた。新美の言っていた通り、桜斗がエレベーター内で昏倒して深夜まで迷惑をかけたことは雇い主には告げ口されなかったらしい。
 おかげでこれといったペナルティもないまま夜間シフトを続けてこられた桜斗だったが、黒岩の態度は相変わらずどころか、悪い方向にエスカレートしていた。
 あの日、桜斗に迫ったことを誰にも言っていないかと桜斗に詰め寄り、これには桜斗も言うわけがない、と強く言い返した。
 あの日、黒岩に身体を触られた桜斗は一種のフラッシュバックのような感覚に襲われた。過呼吸に陥り、意識を手放して──あんなこと、人に話すわけがない。自分が情けなくて、草太と春日にも言わなかったのだ。
 すると黒岩は何を勘違いしたのか、桜斗はあの時言い寄られたことがまんざらでもなかったのだろうと勝手に思い込んだ。帰り際になると毎回のように桜斗に迫り、家に来ないかと誘った。
 この更衣室は警備員のいる事務所の中にあるため、さすがに力づくで妙な真似に及ぼうとはしてこなかったが、それでもぞっとして逃げるように帰ったのは1度や2度ではない。
 仕事のストレスのせいだろうか、夢見もよくない。ただでさえ青白い顔にクマを作っては、母親にも見咎められた。
 無理を押してまで続ける仕事だろうかと、はたと思い至った。会社には夏期休暇に入る前に辞めることを告げた。
 こんなくだらない理由で自分の方が引き下がらなければならないのは悔しかったけれど、アルバイトは探せば他にもある。
 黒岩にされている嫌がらせを雇い先に告発することの方が、桜斗にとっては精神的に苦しい選択だったのだ。
「冬月ちゃん、今日で最後なんだって? 残念だなぁ」
 噂をすれば、というタイミングでゴミ捨てから戻って来た黒岩は、つなぎのファスナーを下ろし上半身はTシャツになっている。
 ニヤニヤと笑いながら歩み寄ってくる黒岩に、桜斗はもう愛想笑いなど浮かべる気力もない。冷ややかに一瞥した後、視線を逸らすと硬い声で「お疲れ様です」とだけ言った。
「なんで辞めるんだよ。ここの夜勤、身入りがいいって冬月ちゃんも言ってただろ?」
「他の仕事をしたくなっただけです」
「へーぇ? 冬月ちゃんにできるお仕事ぉ?」
 黒岩は通せん坊をするように、桜斗の進行方向を塞いでロッカーに寄りかかる。
 桜斗は身を硬くした。
「なぁ、俺と付き合ってよ。金の苦労だってさせないよ。親が金持ってるんだ。なぁ、冬月ちゃんのことが好きなんだよ、マジで」
 桜斗は目も耳も塞いでしまいたい思いだった。黒岩の探るような視線が、まるで身体を這い回っているかのようで怖気が走る。
「……他を当たってください」
「俺じゃダメ? 好きなヤツでもいるの?」
 チリ、と胸が痛む。そんな人いない。自分にはもう、誰かを真に想ったり想われたりするような資格はないように思える。
 厚意ならいい。草太や春日、新美から感じられるそれを、桜斗は心の底からありがたく思っている。
 でも──黒岩から向けられている想いを、桜斗は拒絶する。
 世間で流行りのラブ・ロマンスで描かれる物語だって、美男美女が清廉に演じているだけで実際はこんな俗っぽい下心と変わらないのではないか。化けの皮を剥いだ時に何が出てくるのか──自分にはその真贋を見分けることができない。思うと、桜斗は恋愛に対してすらおぞましいと嫌悪感を抱いてしまう。
 桜斗の意識が揺らいだ隙を突くように、黒岩が桜斗の手首を掴んだ。思わず息を飲んだ桜斗だったが、強張った顔に黒岩が顔を寄せる。
「なぁ……優しくするよ。俺が忘れられない経験させてやるからさ」
 今にも叫び出しそうになったその時、ガチャッと更衣室のドアが開いた。弾かれたように黒岩の手が離れる。
「やぁ、お疲れ様」
「ぁ……、に、新美さん」
 桜斗が蚊の鳴くような声で名前を呼ぶと、新美は2人の緊張した様子に構う風もなくにこやかに笑った。
「よかった、まだいたんだね。今日が最終日だって聞いてさ。今から帰りなら、送って行くよ」
「あ……は、はい。ありがとうございます」
 桜斗は作業着のまま、私物を持って黒岩の脇をすり抜けると新美の隣に立った。半身だけ振り向くと、黒岩に対して申し訳程度に会釈をする。
「……お世話に、なりました」
 黒岩は苦虫を噛み潰したような顔をして2人を睨むと、唸るように低く言った。
「なるほどね。そのオッサンといい仲ってわけか。ケッ、せいぜい可愛がってもらうんだな」
 捨て台詞を吐いて黒岩は乱暴にロッカーを開けた。
 新美のことを愚弄された桜斗はカッと頭に血が上ったが、いかった薄い肩を新美の手が優しく押し留める。
「気にすることはない。行こう」
「でも、」
「いいから」
 新美の声は穏やかだったが、見上げると目元は笑っていなかった。桜斗は黙り、新美の後について行った。もう、黒岩の方には振り返らずに。

「本当に寂しくなるなぁ」
 桜斗の前を歩きながら、先までの緊張がまるでなかったかのように新美が言う。
 桜斗はその背中を見つめながら、小さく頭を下げた。
「さっきはすみませんでした」
「何?」
「あの……いえ、」
 新美が空惚けるので、桜斗は口を噤んだが、少しすると新美は小さくため息をつき、苦笑した。
「今日が最終日だって聞いたのも本当のことだけど、君があの青年に絡まれてるってやっさんから連絡をもらったんだ」
「やっさん……?」
「ほら、警備室にいる」
 エレベーター故障の時に世話になった警備員だ。本名は保田(やすだ)というらしい。愛想はよくないと思ったが、皮肉屋の類で根はいい人のようだ。
「それで君達の帰りを待ってた。それはまぁ、俺の勝手だけどな。大丈夫だった?」
 桜斗は俯き、ぎゅっと拳を握った。
「俺……、俺はいいんです、どうだって。でも俺のせいで新美さんまでバカにされて、俺はそれが悔しいんです」
 駐車場に着いた2人はドアの前で向き合った。
 頑なな様子の桜斗に、新美はカリカリと頭を掻いて、それからそっと桜斗の背中を押して後部ドアの方へ促した。
「ワゴン車の後ろを空ける。後ろで着替えたらいい」
 言われて、桜斗は頷くと後部座席の整理を手伝った。
 片づけながら、新美が言う。
「余計なお世話だろうけど、君が心配なんだ。……君のお母さんも。君は俺の大切な親友のご子息だ。放っては置けない」
「余計だなんて……思いません。本当にありがたいです。ただ、俺はいつも情けなくて……自分が恥ずかしいんです」
 言いながらも、今、桜斗の胸に去来するのは憤りと言った方が正しかった。
 黒岩に対してだけじゃない。どうして自分はうまくやれないんだろう。それなのにどうして優しさに甘えているんだろう。どうして、どうして。
 新美は桜斗を後部座席に乗せると、着替えが終わったら声をかけるように言い置いて運転席側のドアに背を預けた。
 煙草を吸わない新美は、手持ち無沙汰になりながらズボンのポケットに手を突っ込む。スマートフォンで忙しい情報を確認するようなタイプでもない。
 桜斗はそんな新美の後ろ姿を車内からチラチラと伺いながら、手早く着替えを済ませると後部座席から降りた。
「お待たせしてすみません」
「とんでもない。──ところで、この後もし時間があるならメシでもどうだい? ささやかだけど退職祝いとしてご馳走するよ」
「えっ……い、いいんですか? 退職祝いって、新美さんからお給料をいただいてるわけじゃないのに」
「だからさ。給料は労働への当然の対価。それとは別に、君の献身を労う大人が1人くらいいたっていいと思わないか」
 桜斗は恐縮して、胸の前で両手を振る。
「……そんな風にしてもらえるほどのことは何も、」
「言わせるなよ。このままさよならなんて寂しいんだよ、俺が」
「……わかりました。お言葉に甘えます」
 そう言われては桜斗も断れない。何より、桜斗自身も新美と離れ難く思っていた。この仕事を続けてこられたのも、新美がここにいてくれたからだ。桜斗を見かける度、気さくに声を掛けてくれた。
 遠慮がちな桜斗の退路を巧みな話術で断った新美は満足そうに頷くと、桜斗を恭しく助手席にエスコートした。
「遅くなるといけないから、君の家の近くまで行こうか。好きなお店とかある?」
「あまり……出歩かないので、詳しくなくて」
 桜斗くらいの年頃ならファストフード店なりファミリーレストランなりで、慎ましくも楽しい青春を謳歌しているのだろう。そうした経験のあまりない桜斗はやや気後れした気持ちで答えたが、
「じゃあ、今年のはじめに君のお母さん達と新年会をしたお店にしようかな」
 そう言って、新美はゆっくりとアクセルを踏んだ。
 新年会については桜斗も母親の菫から聞いていた。ちょうど、桜斗が草太と春日を家に招いた日のことだ。
 菫の元に、高校の同級生から新年会を開くという年賀状が届いていた。菫の同級生の子供は桜斗よりも少し年下が多く、近年になってやっと手が離れてきたのだろうと話していた。
 久しぶり過ぎて顔を出すのは気が引けるという母親に、新美を誘ってはどうかと提案したのは桜斗だ。
 2人が高校生当時、父親の克哉を交えて親しかったことは同級生なら承知のはずだし、菫から見て自身と同じかそれ以上に疎遠になっている新美がいれば、お互いに居やすいだろうと思ったのだ。
 それにも菫はだいぶ渋ったが、珍しく桜斗が積極的に話すので「先方が嫌なら断るわよね」と心に保険をかけて菫自身が新美に電話をした。新美は快諾し、当日は桜斗の家まで菫を迎えに来てくれた。
「団体で入ったけど、席の間隔が開いた静かで品のいい店でね。メシも美味かったし、酒もいろいろあったよ」
 俺はノンアルコールだけどね、と笑いながら、新美はナビゲートがなくとも慣れた様子でスイスイと車を走らせる。その様子に桜斗は安心して、先までの苛立ちを手放すことにした。
 もう、仕事は終わったのだ。黒岩のことを気に病む必要もない。
 それに、桜斗の肩や背中を押した新美の手は、桜斗に嫌悪感ではなく安心と勇気を与えてくれた。こんな風に思えるのはいつぶりだろう──父親の声が、耳の奥に蘇る気がした。
 店に着くまでの間、桜斗は新年会の話を聞きながら夜景を見ていた。その夜の夜景は、涙に滲むことはなかった。

「それじゃ、お疲れ様」
「ありがとうございます。お疲れ様です」
 言って、桜斗は新美とグラスを合わせた。と言っても2人共ウーロン茶だったが。
 時間が遅いせいか、店内はもうだいぶ空いていた。新美の話していたとおり、学生が来るには少し格式を感じる落ち着いた構えの店だったが、メニューを見る限りは高級過ぎるということもない。
「桜斗くん、食べられない物はある?」
「特には……あ、でもそんなに量は食べないので、新美さんのお好きな物で」
「そっか、じゃあ遠慮なく」
 新美はまるでファミリーレストランのようにサラダや唐揚げ、炊き込みご飯と腹を満たすための品を手早く頼む。
「新美さんは、元々お酒は飲まれないんですか?」
 酒を好むのに自分を車で送るために飲めないなら申し訳ないと思った桜斗は、そう水を向けた。新美は首を横に振る。
「ああ、俺は下戸なんだ。新入社員の時に飲まされて、ぶっ倒れて、それきり。車がなくても飲まないよ。桜斗くんは?」
「俺は……少し飲めると思います」
「少し、て言うヤツは大体強いんだよ」
 図星を突かれて、桜斗は苦笑した。
 年末の飲み会、そして草太と春日と初詣に行った夜と、春には花見でも酒を飲んだが、案外アルコールの耐性はある身体らしい。血色や赤面症とは関係がないのか、酒を飲んでも顔が紅潮してしまうこともない。
 それに比べて草太はといえば、2杯目にもなれば瞼がトロンと落ちている。平気でグラスを空にしていく春日に対抗してか、草太も追うように飲むのだが、だんだん呂律も怪しくなる始末だ。
 いつもしゃんとしている草太がそんな風に乱れるのはなんだか微笑ましくて、桜斗はたいそう笑った。重い話をした後だけに、酒の力に感謝したものだ。
 その話を掻い摘んで伝えると、新美は優しい目で桜斗を見つめ、
「いい友達がいるようで安心した」
 そう言って笑った。
「初めて会った時、君が礼儀正しい好青年に見えると言ったのは嘘じゃない。でも──気を悪くしないで欲しいんだけど……初めて会った時の君はもっと、心細そうに見えたから。そういう友達がいるなら、俺が心配することは何もないな」
 そう言う新美の方がどこか寂しげに見えて、桜斗は口ごもった。
 こんな時、親子ほど歳の離れた自分が何を言えばいいのだろう。一瞬、そんな形式的なことを考えたが、次の瞬間口にしたのは桜斗自身も意外な言葉だった。
「あの、これからも会ってくれませんか?」
「……え?」
「いえ、あの……新美さんの言う通りです。俺があなたに初めて会った時、俺はとても心細かった。1番の親友だと思っていた人……あ、さっき話したお酒の弱い方の友達ですけど──彼に、幻滅されただろうと思っていた頃で……新美さんの存在に、すごく助けられました」
 桜斗は膝の上でギュッと拳を握る。
「俺は、過去に、人を……信じられなくなるようなことが、あって。……俺は、生きていたくなくなったことがあるんです」
 新美の表情が少し変わる。静かに箸を置くと、桜斗の話に耳を傾けた。
「父さんが病気で亡くなって、父さんはきっともっと生きたかっただろうに、でも、俺は……死んだ方がマシだって、何度も思った」
 理由を語る気はない。ただ、両親のことも含めた胸のつかえは、大人──それも、両親をよく知る新美でなければ話せないと思った。
「俺は幸せでした。父さんが亡くなってからもずっと、母さんの愛情はしっかり感じています。でも……だから、母さんにだけはそういう悩みを、知られたくなくて……」
 草太と春日に話した時は大丈夫だったのに。桜斗は溢れてくる涙に舌打ちしたい思いだった。
「俺が母さんを守るって、心に決めていたんです。立派な大人になって、いい家庭を築いて……漠然とだけど、多分子供の頃からそんな風に考えてた。でも……ある時、人間が怖くなった」
 心細そうに見えた──それを見抜かれていたと知った時、恥ずかしさや情けなさよりも先に、安堵があった。
「新美さんに会って、何度かお話をして……勇気をもらったんです。俺はまた、人を信じられるかもしれない。そうしたいって、思えるように」
「そんな……俺は何も」
 新美も、いつものおどけた調子ではなく、やや硬い声を出す。しかし、俯いている桜斗を見るとまた表情を柔らかくして、
「君は、背負い過ぎだよ。お父さんの分を自分で埋めようとして……君はもっと人に頼っていいんだ。信じられる人だって、きっと君のすぐ近くにいるよ」
「新美さんが思わなくても、今俺が友達と笑ってられるのは新美さんのおかげでもあるんです。それに、信じられる、頼れる人として、新美さんとこれからも繋がっていたい」
 桜斗はおしぼりで涙を拭うと、思い切ってそう言った。
「これからも、俺と友達でいてくれませんか?」
 困らせるかもしれないと思った。でも、もし離れてしまうならば言わずにはいられなかった。
 案の定、新美は「参ったな」とでも言うように俯き、苦笑を浮かべて頭を掻いた。けれど次に顔を上げた時、新美の目も潤んでいるように見えた。
「……克哉と菫さんによく似た顔でそんな風に言われちゃ、断れないな」
 そう言って親指で目頭を押さえる。
 それから、2人は連絡先を交換した。桜斗が知っていたのは名刺に書かれていた新美の会社の直通電話と社用携帯の番号で、自宅に菫を迎えに来てもらう時もそれでやり取りをしていたが、今度は完全にプライベートなものだ。
「こんなの、久しぶり過ぎて緊張するな」
 照れ臭そうにそう言って、新美は桜斗の端末に「よろしく」と書かれた画像を送った。
桜斗は「ありがとう」で返すと、やはり照れ臭くて笑う。
「また、母にも会ってください。新美さんと会って、新年会にも行って、あれから母も前より明るくなった気がします」
 菫は、繊細過ぎるということもなかったが、自分から広く打ち解けるというタイプでもなかった。夫が亡くなり、祖父母もいなくなってから、気づくと近しい存在は数えるほどになっていた。
 パート先にはそれなりにつき合いもあるようだが、桜斗のこともあって気兼ねなく遊ぶということもしてこなかった人だ。
 それを申し訳なく思っていた桜斗は、菫の笑顔が見られることが何より嬉しい。
「そうか……桜斗くんがそう言ってくれるなら、……でも、嫌じゃないか? その、別にやましい気持ちがあるわけじゃないけど、俺だって男なわけだし」
「え……ああ、そういえばそうですね」
 黒岩のことは忌避したのに、菫と新美がもっと身近になることをどこかで望んでいるのは、桜斗自身驚くところだったが、思わずそのままの気持ちを素直に言葉にしてしまっていたことに気づくと、慌てて頭を下げた。
「すみません、失礼なことを」
「はは、いや、いいんだよ。でも、そうだな。君にはまた克哉の話もしたい。……菫さんともね」
「本当に仲がよかったんですね」
「うん。そういう人は、克哉くらいだったからな。だからさ、君と友達になれるなんて、俺としてはこの上ない喜びだよ」
「はい。新美さんは、俺の家族3人の友達です」
 気恥ずかしく笑い合いながら、2人は改めて握手を交わした。
 車が家に着くと、玄関の外に菫が立っていた。桜斗を迎えると、新美にもにこやかに微笑む。
「またお世話になってしまって、ごめんなさい。夕飯までご馳走になったんですって?」
「いやいや。桜斗くんとは友達になったんだ。友達として当然のことをしたまでさ」
「えっ?」
 きょとんとする菫の顔がおかしくて桜斗は笑った。
 ただいまを言ってから、玄関口で世間話を続ける2人を残して家に入る。背中で2人の声が弾むのを聞きながら、桜斗はこれからのことを考えた。
 春日にはアルバイトを紹介してもらおう。明日、昼休みにでも話を聞いて、できるなら夏期休暇から始めたい。
 早くお金を貯めて、この家を出よう。この家にはいずれ、菫と菫を笑顔にしてくれる人が住んでくれたらいい。その想像は、桜斗の胸を不安よりも期待で満たした。

2020/10/08


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