奇妙な男
02
そして、ガリカはなんの躊躇もなく言う。
「俺のスタンドは『人を操る能力』。名は――マイ・フェア・レディだ」
ポケットに手を突っ込んでもいない。自分の指から抜いたのでもない。突然現れた宝石つきの指をピンと弾いて、ガリカはそれをテーブルに転がした。
ガリカが『だからこそ』能力を明かすべきだと言ったのは、「操る」という彼のスタンド能力に由来している。
例えば、ウン十年と仲が良い友人や、恋をして付き合った男女がいたとするだろう。その片方が突然――「俺は洗脳することができるんだ」と言い出したら、どうだろうか。君は疑わずにいられるだろうか。何年も積み重ねてきた親愛を。友情を。「もしかして俺は洗脳されていたんじゃあないか?」と、あれやこれやと記憶を探られずにいられるか?
ガリカが思うのは、自身の能力は隠していれば隠しているほど、バレたときの信頼の失墜が大きいということだった。ガリカは、それこそ取引でもなければ不用意にスタンドを使うことは無かったが、ネタバラシをされた友人や恋人たちの拒絶のリアクションには、飽き飽きしていたのである。だから、彼はリゾット・ネエロに真っ先に明かした。
特に暗殺チームなんかは、ダルい≠アとになると思ったのだ。
「操る――というのは簡単な説明でね。正確には『必ず契約を守らせる能力』なんだ。例えば、100億リラ持ってこい≠ニか靴を磨け≠ニか。そこのボールペン拾ってくれ≠ネんてくだらねェことにも使える」
「……その、『契約』というのは?」
リゾットの言葉は端的だったが、ガリカはその意図を汲み取って片眉をあげた。自身のスタンド能力を説明する時に、いつも聞かれる事だからだ。
「一方的に俺が何でもお願いできるなら『命令』って言うんだけどな。俺のマイ・フェア・レディはそうじゃあない。契約一つにつき、俺は一つ何かしらの『代償』を支払わなくちゃあならない。なんてったって、『契約』――取引だからな」
ガリカは、テーブルに転がした指輪と全く同じデザインの指輪を身につけていた。ガリカの指が、まるで愛おしむようにそれに触れる。
「代償は、契約達成の難易度よって大きく変わってくる。ボールペン拾ってくれ≠ネんてものじゃあ精々『足の小指の感覚が無くなる』くらいだが、百億リラ持ってこい≠ネんて無茶な契約は、きっと強盗とかの犯罪をさせることになるから、ソイツの良心が強ければ強いほど代償はデカくなる。そうだな……『視力を失う』とか『何も聞こえなくなる』とか、その辺だろうな」
「それは、一時的なものなのか?」
「あぁ。そうじゃなきゃ、俺は今頃半身不随だよ。契約が達成されれば払った代償は元に戻るから、時と場所を考えれば多少の無茶は命令できるぜ」
ガリカは、変わらず仏頂面のリゾットにゆるりと笑ってみせた。
「発動条件は、誰かが『この指輪に触れる』それから、『俺が同じものを指に嵌める』。この二つだ」
「触れるだけでいいのか?」
「あぁ。女の子が相手なら俺が手ずから嵌めてやるんだが、男相手だと場合によっては「何やってんだ」とドン引きされちゃうからな。スタンドの指輪を拾って貰うとか、そういう方法をとる事が多いよ」
ガリカが、パチンと指を鳴らす。
すると、テーブルに転がった指輪は空気に溶けて消えたのだった。
「こんな能力だからな、君たちの仕事に役立つかは分からない。俺はどっちかっていうと殺し≠謔闖報収集だとか、取引だとか、その辺に向いてると思うんだ」
「……これまでの経験は?」
「普通に生活してたら暗殺なんて経験しないぜ」
すると、ガリカは人当たりの良い顔で笑って見せた。目の前の男に、つい先日部下を殺されたとは思えない笑い方だった。
感情の理解が追いつかない不信と、自分のことをおっぴろげに話す信頼が両立する――奇妙な男だと、リゾットは、そう思った。
「……明日。任務に出ているメンバー以外をアジトに呼んでおく。場所はメールして置くから、指定した時間になったら来い」
「了解。あー、……それって昼?」
「?……そうだな。夜には別の仕事が入っているから、昼間になるだろう」
「…………Si(わかった)。なんとかしよう」
なんとかしよう――というのは、勿論『日光』の事である。吸血鬼であるガリカの体は、当然太陽の下で活動することは出来ない。だがリゾットや、きっと他の暗殺チームの面々に仕事があるのにも関わらず、わざわざ頼むのも気が引けて、ガリカは「なんとか出来ないことはないし、大丈夫だろう」と頷いたのだった。
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