奇妙な男

03

「ひとつ、聞きたいことがあるんだが」
 すると、リゾットがふいに口を開いた。

「なんだ?」
「…………三日前のことだ」

 ガリカの頭に過ぎったのは、転がった部下の遺体と自身を襲った激痛。ガリカは、ちょこっとだけ眉を顰めた。

「あぁ、何か?」
「……俺は確かにお前の足を切断した。喉を破るほどの攻撃もしたが、お前は直ぐに立ち上がり、電話口で怒鳴る余裕もあった。その回復力も……スタンド能力か?」
 
 探るような視線。
 白目を覆うほどの大きな黒目に、まるで黒目のように鎮座する赤い瞳。冷静で淡々としていながら、獣のように警戒を顕にしている威圧の感情。色素の薄い睫毛の合間から覗く彼の瞳は――過大評価無しに、ガリカは美しいものだと思った。

「(ガーネットみたいだ)」

 彼の瞳に見蕩れている間、それが何秒だったか。いつまでも口を開かないガリカに、痺れを切らしたリゾットは眉を寄せた。

「…………オイ」
「っと、すまない。あれはスタンド能力じゃあないよ。俺の……うん。特異体質だ」

 ――まさか、突然「俺は吸血鬼です」なんて言ったって、頭のおかしい奴だと思われるに決まっている。ガリカはそう思い、肩を竦める。

「何があっても死なない、というワケじゃあないんだが――並大抵のことじゃあ死にきれない。そういう体なんだ。ただ、痛覚は普通にあるから、めっちゃ痛いんだぜ。君のスタンドもべらぼうに激痛だった」

 べ、とガリカは舌を出す。口の中から飛び出す鉄製品の味ったら最悪だった。

「………………そうか」
 リゾットは、きっとガリカの言葉の全てに納得しているワケでは無かっただろう。けれどもそれ以上を語る様子のないガリカに諦めたのか、やがて静かに頷いた。

 ガリカの去り際に、リゾットは――もう一つ、聞きたいことがあると思って、引き留めようかと考えた。しかし、そんなことに意味などないだろうと直ぐに考えを払拭した。ガリカは、タクシーを拾ってさっさと家に帰ってしまった。

 「チャオ」と後ろ手を振る仕草は、リゾットがいつぞやに見た姿と全く同じだった。

 ――そう、同じだったのだ。
 リゾットが、きっと一番最初にガリカの姿を見たのは、七年前のシチリアだ。

 人を飲酒運転で轢き殺しておいて、たった四年の懲役でシャバに出てきた男を殺した直後だった。彼が強烈にガリカのことを覚えているのは、リゾットが殺した男を一瞥して、彼は「可哀想な男だ」と言ったからだ。言葉こそ端的だったが、声と表情に込められた感情は真摯な哀れみそのもので、リゾットの、腹の中の疼きを加速させた。あの瞬間のことを、リゾットは、七年経った今でも鮮明に覚えている。
 
 リゾットは、一目でガリカを『あの時の男』だと見抜いていた。それは、七年前と寸分違わぬ姿で己の目の前に現れたからだ。特別老いを見せない体なのか、それとも。リゾットは、切断した足を回復して見せた数日前の光景を思い出して、「怪物みたいだ」と――思った。

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