↑ Aha, but that's just my imagination ↑
02
「椿って、なんかちょっとネルに似てるね」
「それ髪型じゃなくて?」
「うん。それはそう。切ったら絶対兄妹に見えるよ」
「ネルさんがお兄ちゃん?ちょっと嫌だなぁ、ソレ」
「なんで?」
「完璧すぎてコンプレックスになりそう」
「そうかなぁ」
――眩しい。まぁるい目を細めるメルに対し、椿は思う。
椿が『メルさん』と呼ばなくなったのは、町へ出てからものの五分が経ったころ。『そうですね』が『そうだね』に変わったのはそれから数分後のこと。
「お待たせしましたー。お先、お飲み物です」
「ありがとうございますー」
「あ、メルさんじゃないスか。ネルさん元気?」
「久しぶり。ネルなぁ……そうでもないかも。昨日も仕事ばっかり」
「ありゃ。っと、そっちの子は……?」
「お客さん。海の向こうから来たんだって」
「え!?めっずらしー……海はヤバかっただろうけど、ライアールは結構いいとこだからさ、ゆっくりしてってよ」
椿は、店員に軽く会釈を返した。
「っていうか、メルのそれ、なに……?」
「ドラゴンフルーツソーダ」
涼しげな縦長のグラスに、半透明の、マゼンタの液体とシアンの液体が層になっている。スライスレモンの上に、ブルーベリーが幾つも乗っかっている。子供のイタズラで作った、嘘の飲み物みたいだった。
「映え≠カゃん」
「蝿?」
「んーん。映える、の『映え』。絵になるっていうか、目を引くっていうか」
「はえ…………」
「いや、覚えなくていいからねこんなん」
しみじみと呟く彼が面白くて、椿は笑った。
「いただきまぁす」
クリームソーダ。多分、どう『食べる』のか一番悩む飲み物。まずは、先がスプーンになったストローでバニラアイスをつつく。余計にちょっかいをかけたり、アイスを食べるのに時間を掛けると、アイスが溶けてグラスに残ってしまう。それがあんまり美しくない姿だから、椿は一番最初にアイスを食べることにしていた。
「おいし?」
「うん」
「よかったー」
口の中でゆるりと溶けていくアイスクリームを味わっていると、先程と同じ店員がビー・エル・ティーサンドと、エビアボカドサンドを盆に乗せてきた。思ったよりも少しサイズが大きくて、食べ方に悩む。
「ネルって意外とよく食べるからさ、いっつも二個注文してるんだよね」
「へぇ、細っこく見えるけどなぁ」
「筋肉あるしねぇ」
メルとの会話の中には、そこかしこに『ネル』のことが散りばめられている。椿は、香りの強いアボカドを咀嚼しながらそれを聞く。
苦痛ではなかった。当初感じていた妙な不安のかたちはゆっくりと薄れて、どうしてか消えていった。椿はその間ずぅっと、三年前に模倣された作品のことを考えていた。
目の前の彼らは、絵か、映像か――はたして。少なくとも、文章ではない。
「椿はさ、なんでそれにしたの?」
「何が?」
「エビアボカド」
「あー、そうね……うーん。普段食べないからじゃないかなぁ」
「そうなの?」
「うん。リューンってあんまり魚介料理見ないし、アボカドもぶっちゃけ食べたこと無かった」
「おいしい?」
「うん」
「そっか。よかった」
外で具材がゴロゴロしているものを食べるのは、少しだけ緊張する。具材がパンの間から転がり落ちてしまわないか、やたらと慎重に食べてしまう。気の置けない友人と外食をしていると、ついおしゃべりの方に気がいって、食事が疎かになってしまったりするから、口に物が入っている時にじぃっと飲み込むのを待ってくれるメルとの会話のテンポは、椿にとってはとても有難いものだった。
「椿って、結構髪長いよね」
「うん。まぁまぁ邪魔かなぁ」
「切らないの?」
「今のところは。ほら、周りからの印象変わっちゃうでしょ。冒険者って信用商売だからさぁー。変に切っちゃって、威圧的になっちゃったりとかすると、ね」
「ふぅん。髪結ぶくらいだったらすっごいカワイイと思うけどな」
「そ?」
「うん」
『じゃあ、そうしよっかな』と呟いたのは、なんの気まぐれか。傍に夏目がいないから、それくらいなら良いかと思ったのか。兎に角椿は、メルに促されるまま、腕に付けていたヘアゴムをテーブルに置いて、何度か手ぐしで整えた後、一息にそれを纏めた。ポニーテールにしても長いそれの毛先を人差し指でくるりと巻きとって、軽いため息をつく。
「……ねぇ、シュシュ買ってきていい?」
そう言ったメルは、椿が引き止める間もなく席を立ち、向かいの雑貨屋に飛び込んで行った。
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