↑ Aha, but that's just my imagination ↑
03
サンドイッチをぺろりと平らげたメルが、グラスの半分まで減ったソーダを飲み、そう言った。
「え、普段あんまり喋らん方?」
「そー、……う、でも、ないと、思うんだけど」
きょろ、きょろ、と大きな目が戸惑いに揺れる。しまいには、眉が「んー」と寄っていってしまう。椿は『久しぶりにたくさん喋った』のは、寧ろこっちの方だと思っていた。
「君と居ると新鮮で、なんか楽しいなぁ」
「……っちょ、ちょっと照れるぞ、そういうの」
メルは、特別な意味を込めてそんなことを言ったのではない。椿はそれをわかっていたが、あまりにストレートに感情をぶつけられると、椿にはそれを受け止める器がなくて、戸惑った。
「あは、顔真っ赤!」
指摘されると、余計に顔に熱が集まる。椿が、照れ隠しに唇をぐっと噛んだ。
「でも、なんか意外だ。メルって色んな人とお喋りする人なんだと思ってた」
「そう?」
「そう見える」
――意外だ、なんて。椿の口から、そう落ちる。天と地がひっくり返るような出来事だった。彼のひとつひとつを決めて選んだのは椿で、意外に思うことなんて、ある筈がない。けれども。
「あんまり、自分から喋らない人なんだ」
「メルが?」
「ううん。ネルのこと」
それには納得。ネルは、酷く寡黙な人間である。
「ネル以外とは、あんまり喋らないの?」
「…………たぶん?」
「なんで疑問形なんだよ」
椿は半笑いでエビアボカドサンドの最後の一口を飲み込んで、喉に突っかかりそうなそれを、ソーダで一息に押し込んだ。満腹感はちょうどいい。もうちょっと、の欲しがりもないし、苦しくもない。
しかし、『多分』と言ったメルは、暫く眉を寄せたままだった。ネルのような全てを訝しむ表情ではなく、どうして雲は青いのか=Bそんなことを考えている顔。
「――――――――――そういえば、」
ふと、椿はこの町で初めて大きな通りに出た時に、思い出した言葉が頭をよぎった。
「何年も、だれとも、喋っていなかったような」
―― 町は、波のように生きている。
index OR list