終末
扉間は天井へと溶けていく紫煙の行方を目で追っていた。ふう、と深く吐き出せば色付くように濃く、そして淡くなり消えていく。
決裁しなければいけない案件は全て終わった。先程まで途切れることなく響いていた押印の連打が止み、全ての音が絶えている。
吸い殻を灰皿へと落とす。分厚い硝子の中は吸い終えた残骸の灰ばかりが積み重なるように溜まっていく。
水でも飲むか、そう思い扉間は立ち上がる。次の間へと続く戸は閉まっていた。そちらへと足を向けながら、不意にまだ足音を立てていたことに気が付いた。
――わざわざ音を知らせてやる必要はもう無いというのに。
ふ、と乾いた笑いがこぼれる。
戸を開ける。今や仮眠室と化したその部屋はあの頃とほぼ変わりはなく、空席となった机もそのままに置いてある。ただ一つ変わったことと言えば、机上の隅に万年筆が置かれてあることだ。
窓から白々とした光が差し込んでいた。星屑のような埃の粒が、音も無く舞い落ちている。万年筆は白昼の光を浴び、螺鈿の影を木目へと描いている。
かつてそこにあった空白をなぞるように、指先で丁寧に撫でた。
給仕場で水を飲み、席へと戻る。書かなければならない書簡が溜まっているのが億劫だった。
書き物を続けていると肩が凝る。溜息を吐きつつ、眉間による皺を指で押し上げる。書き上げたばかりの文字を改めて目で辿った。
「……汚いな」
答えるものは誰もいない。ただ無音へと溶けていく。
筆を取り、青黒い墨を含む。誰にでも読めるように、僅かに心掛けて扉間は悪筆を書き連ねていく。
書き終えた草案だけが淡々と積み上がる。また一枚、扉間は新しい書類を手に取った。