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路地裏に置かれたビールケースに腰掛け、愛銃のシリンダーから銃弾を取り出す。スウィングアウトさせたシリンダーを元に戻せば鈍い金属音が建物の間で反響した。取り出した銃弾はスピードローダーという…なんかあれ、薬莢の後ろを引っ掛けて六発分まとめられるものにセットし、ポケットの中へと突っ込む。

俺にとって、実弾の装填はリスクだ。薬室が空になっていなければ念弾は装填できないが、リボルバーはどうしたってシリンダー内に空の薬莢が残る。だからこそ、普段はブラフ用に実弾を装填した銃一丁とシリンダーが空の銃をもう一丁持ち歩いていた。
ただまあ、今回は相手が悪い。銃や弾を切り替える時間があったら念弾の二、三発でも撃ち込むべきだろうと判断し、二丁全てすぐにカラフルバレットを使える状態にした次第である。

準備が整ったところで立ち上がり、転がる酒瓶を跨いで路地の奥へと足を動かす。家と家に挟まれ、細く伸びた月明かりの道を黒猫が横切った。
幸先悪ぃなちきしょーめ。



息を殺し、音を殺し、気配を殺し、ハントされないよう最大限の注意を払って影の中を進む。着信が入れば速やかにその場から離れ、電波の届かない地下を使いつつ逃げ回ること実に10時間48分、約11時間、ほぼ半日。その間ぶっ通しで神経は擦り減らしっ放しだ。そりゃあ朝日に照らされた頬も引き攣る引き攣る。

「舐めてたぜストーカー……。こんなに殺意漲る出会いはてめえで二人目だ……」

気分を変えようと買った缶コーヒーを飲み干して、いつぞやと同じように握り潰した。
さすがのストーカーもゲーム初日だし日付変わる頃には寝るだろうと思っていた。ところがどっこい。むしろそこからが本番と言わんばかりに奴はしつこくしつこく電話を掛けて来やがったのである。せめてストーカーに息子が付いていなければ「なるほどこれが最近流行りのヤンデレ彼女か」くらいに笑って流せたものを。何が楽しくて男、イケメン、二枚目野郎。溜め息の数も優に三桁を超えた。
はあ……俺の逃げた幸せはどこに行き着くんだろうね……。

そんなこんなでHPはガリガリ削られたがどうにかこうにかストーカーから逃げ切った。しっかり睡眠を取って全快した親父とも無事合流し、ストーカーの現在地を把握してようやく一息。これでまだ一日目しか終わってねえんだから笑える……わけねえだろ馬鹿野郎!

「俺、一週間以内に死ぬ気がする……」
「もう逃げるのは諦めてまともに掛け合ってやったらどうだ」
「まだ一日しか終わってねえんだぞ。そんな賭けは御免だね」

朝市が立ち始めた通りの脇で、親父が買ってきてくれたサンドイッチを頬張りながら眉根を寄せる。
魚屋のおっさんが氷に浸かった魚を運び、レストランの親父が顎に手を添え品定め。恰幅のよろしい主婦が商品片手に値切りをする横で、観光がてら足を伸ばしたらしいカップルが辺りの勢いに負けて身を竦める。獲物を品定めするようにゆったりと歩く猫がいるかと思えば、隙なく目を光らせる店主たちもいる。
こんな状況でなければ俺もあの中に身を投じて美味そうなもののひとつふたつは買ってみたいのに。生憎とそんな気力は微塵も残っていなかった。

そしてお約束の電話が鳴り出し、最後の一口を口の中へと放り込む。

『おはよう。気分はどう?』
「さいこー」

目は据わったまま、口の端だけが不自然に持ち上がった。

『それは何より。俺もちょーっとだけ本気出そうと思ってたからさ』
「は」
『今日も逃げ切れるかな?あはは』

耳障りな笑い声を残して通話が切れた。初めて、あいつの方から通話を切りやがった。昨日は全部俺から切っていたのに。
全身を覆う“嫌な予感”に舌打ちをすれば、それを裏付けるように「あと1km」と親父からのカウントダウン。胸の中が重いせいか、動かす足も重い気がする。



「……なかなか離れないな」

ストーカーにはリアルタイムでこちらの位置を知る術はないはずなのに、ハザードネットに表示された点を振り切ることができない。
おいおい待てよ、なんで電話切ってからも着いて来てるんだよ。発信器?んなわけねえよな、スタート以降ストーカーに会ってねえもん。じゃあ何か、推測で着いて来てるとか?こっちの動きを予想して?ちょーっと本気出しちゃったって?……マジで?

「おいおいおいおい!聞いてねえよそんな頭脳派とか!馬鹿だと思ってたのに!馬鹿だと思ってたのに!」
「あと500m」
「マジで!?」
「を切った」
「大事なことは最後までしっかり言ってくれ!」

500m切ったとか目視できる距離じゃねえか!冗談じゃねえ!

俺は親父が能力を発動している状態のため、通常の纏で走っていた。だがここまで接近されるとストーカーの現在地の把握することより、こちらの現在地を把握させないことの方が重要になってくる。
俺が絶に切り替えるなり、意図を汲んだ親父もサーチネットを消して絶へと切り替えた。

走って、走って、飛ぶように駆けても妙な威圧感が消えない。そこに微かな“見られている”という感覚も追加されれば舌打ちのひとつもしたくなる。
これ、確実につけられてるよなあ。気配がだだ漏れだからストーカーじゃねえとは思うけど。そしたら何か、金で雇ったのか。……いや、ストーカーはそんな金の掛け方をするタイプには思えねえから違う。

「本気の底が見えねえな。何企んでやがる」

ほぼ反射的にその場から飛び退いた。同じように身構えたはずの親父は俺よりも更に遠くにいた。相変わらず“逃げ”の一手に関してだけは誰よりも上手だ。
そして、先程まで俺達がいた場所には銃弾がめり込んでいる。

「親父は先行け」
「おう」

腰裏から愛銃を二丁取り出し、スリーピングバレットを装填しながら建物の間を反復するように駆け上がる。先程の弾道を辿れば発砲した人物はすぐに見付かった。次いで放たれた弾をオーラで強化した銃身で弾き、もう一方の銃でスリーピングバレットを撃つ。念弾は当然、額に命中。傾いていく体の横に着地し、一息ついた。

「これが本気っつーんならちゃんちゃらおかし……うおっ!?」
「本気?そっチこそコレが本気ジャないダろうね?」
「は!?なんで寝てねえんだてめえ!」

寝かしつけたと思ったのに、男は倒れた体勢のままこちらを見て引き金を引いた。つまり起きてる、寝てねえ、スリーピングバレットが効いてねえ。転がるように銃弾を躱し、先程よりオーラを込めたスリーピングバレットを撃ちこむ。命中した反動で首が仰け反る。が、それだけ。不自然に揺らぐ垂れ流しのオーラが緩むことはなかった。

「寝ないんなら、やり方変えりゃあいい話だろ」

ふらふらと安定しない腕から放たれる銃弾なんぞ恐れるに足らず。必要最低限の動きだけで躱し、今度は付加効果のない念弾を込める。狙うは奴の持つ銃。弾き飛ばせばそれで終いだ。
半身を引いて銃弾を避けると同時に右腕を突き出し、引き金を引く。狙い通り男の持っていた銃を弾いた、ところまでは俺の予想通りだった。違ったのは何故か男がそのまま倒れて動かなくなってしまったことだ。
おかしいだろ、スリーピングバレットは時差式じゃねえしこのタイムラグはあり得ない。じゃあ他の外的要因があるは、ず、

「ほラ、後ろガがら空きダッテば」
「なっ」

また、敵が現れた。突き出されたナイフを躱し、スリーピングバレットを撃つもやはり効果がない。仕方なく腕を折ってナイフも折り捨てればまた次の敵。どう考えても罠じゃねえか!冗談じゃねえぞ!

「おいストーカー野郎!!これがてめえの本気か!!正々堂々勝負しやがれ!!」
「どの口が言うのサ」
「このお口」
「ウっざ!」

違う奴が出てきても口調が一貫している。制約は分からねえが十中八九操作系だな。人間操るなんざ趣味の悪い能力だ。
やっぱりとことんいけ好か、



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