『で?もちろん謝罪の言葉以外にも何かあるんだろうね?』
こいつが息子ごと爆発してくれるなら、俺何億でも注ぎ込んじゃうかも。
割と真面目にそんな言葉が頭の中を通り抜け、携帯を一旦耳から離して深呼吸をした。クールになれ。こいつは友達のいない可哀想な奴なんだ。俺が大人になってやらないでどうする。そう、こいつは謂わばクソガキ様と同じようなもんなんだ(言葉が上からな気がするのはご愛嬌である)。
現在地、廃墟から一時間ほど車を走らせた所にある繁華街のファミレス。ハンバーグにあまりいい思い出がなかったので今日はパスタだ。正面にはにやにやと凶悪な笑みを浮かべるフィンクスがいる。
俺は冷えた水を喉へと流し込み、再び電話口の相手へと向き直った。
「飯を奢ってやる。千ジェニー以内で」
『安っ』
「どうせ近くにいんだろ。なんでもいいからとっととライセンス返せよ」
残りの少なくなったグラスを手の中で揺らせば、涼し気な音を立てて氷が回った。
『ま、折角だし行こうかな。聞きたいこともあるし』
「ふーん」
質問によっちゃ答えないし殴るけど。とは言葉にしない。
そのまま通話が終わり、向かいに座っていたフィンクスが「場所は?」と片眉を上げるので「逆探知」とだけ言って返した。「ああ……」と納得したような呆れたような声を出すのには黙って頷き、パスタを巻き取る作業に戻る。カルボナーラうめえ。
クソストーカー野郎がやって来たのはそれから二十分ほど経ってからだ。入り口付近で店内を軽く見回すあいつにフィンクスが軽く手を挙げ、俺は挨拶代わりに中指を立てる。瞬時に親指で首を切る仕草を返されたので、こちらは親指を突き落とすように床へと向ける。
「お前ら実は仲良いだろ」
とのフィンクスの言葉には中指から親指を落とすところまでの三セットで返しておいた。
まあそんなことはどうでもいいとして……。
「ラ、イ、セ、ン、ス」
「持ってきたよ」
「じゃねーよ。返せっつってんだよ」
フィンクスの隣に座り、メニューを眺め始めたクソストーカー兼盗人野郎を睨みつける。ばんばんテーブルを叩いていたら店内ではお静かに、だのともっともらしいことを言って念を込めたフォークを投げられた。お前はお静かに以前の問題だと思う。
指で挟んだフォークを揺らし、もう片方の手で頬杖をつく。すでに食べ終わったフィンクスは盗人野郎にこれもついでに頼んでくれと横からメニューを指さした。俺の見間違いでなければ、フィンクスはすでにハンバーグとパスタとドリアを食べ終わっている気がするのだが。こいつの胃袋は底なしか。
「で、聞きたいことってのは?」
「んー。端的に言うとなんで生きてるのかなあと思って」
「端的過ぎて意味分かんねえよ」
「ああ、なんで俺がアービィを殺さなかったのかって意味だ」
「物騒過ぎて意味分かんねえよ」
思わずフォークを落としそうになった。二人は仲良く「だってそういうことだしなあ」と頷き合っているが、普通そこに共感は生まれない。こいつらどこで常識と倫理観を落としてきた。俺だって一般人からすれば若干欠けている方だが、それにしたってこいつらほどではない。当たり前って大事。今ものすごく身に沁みて感じた。
一人自分の世界に入る俺を置いて、二人の会話は進む。
「気でも変わった?俺が離れる前は結構ノリノリだったと思うけど」
「おう。お前らが不憫になってな。気が削がれた」
「はあ?何それ」
盗人野郎の不機嫌かつ不服そうな声。フィンクスは意地悪く口の端を持ち上げる。置いてきぼりにされた俺はベーコンの欠片をフォークで掬いながら話の行方を窺った。
「アービィ捕まえんのに随分苦労したみてえだな」
「……あっそ!そういうこと!」
不機嫌、不服、それに不満。いろいろひっくるめたように顔を顰めた盗人野郎は腕を組んでふんぞり返った。反対にフィンクスは頬杖をつきながら喉を鳴らすようにして笑っている。どうやら盗人野郎の中で質問の答えは出たらしい。
「おーい。聞きたいこと聞いたんならライセンス返せよ」
「はいはいお望み通り!」
話が済んだのならと本題を切り出すと、ぷんぷんという擬音が聞こえそうではあったがポケットからハンター証を取り出した。良かった、まだ金に変わってなかった。それだけのことに感動した。
さあお帰り俺のライセンスちゃん、と手を伸ばす。しかしライセンスは俺の指先を通り越し、腕を躱し、その脇にあった……。
「あ゛ーっ!!てめ!水に入れる奴があるか!!こら!!」
「アービィが悪い」
「んなわけあるか!!この泥棒!ストーカー!磁気がイカレたらどうしてくれんだよお……!!」
クソイカレ野郎のお冷に浸かったハンター証を慌てて取り出し、ティーシャツの腹で水気を拭う。
腕組んでそっぽ向いたってちっとも可愛くねえんだよ!お前の腕の筋肉がこれっぽっちも可愛くねえんだよ!
ちょっぴり涙目になっている気がしないでもないが男の面子として力一杯睨みつけた。人生七回遊べるジェニーを水没させるなんて信じられん。常識、倫理観に加え金銭感覚まで腐っているらしい。人間やり直して出直して来い。
「ははは、やっぱお前ら仲良いだろ」
「「良くない!!」」
フィンクスの妄言にお約束の如く声が重なり、盗人野郎と無言で睨み合う。前々から思っていたがこいつとはとことん合わない。水と油、胡椒と砂糖くらい合わない。胡椒と砂糖の相性が実際のところどうなのかはよく知らないがとにかく合わない。
第一、なんで金髪の野郎ばっかりがここに揃ってしまったんだ。同じ金髪なら鷲鼻のお姉ちゃんがいいと声を大にして言いたい。花だ、このむさ苦しい場に一輪の気高き花が要る。
「というわけでこの前の鷲鼻の姉ちゃん呼んでくれ。お前らの顔はもう見飽きた」
「誰が呼ぶか」
「変態。エロガッパ」
「よっしお前ら帰ってよし!ただし自分で食った分は払って行けよ!」
器ちっちゃいとか懐狭いとかこそこそ言うな。堂々と言われても腹が立つからそういう言葉は心の中にしまっておけ。
わざとらしく説教臭い口調でそんなことを言ってやったが、奴らはウェイトレスのお姉さんに追加注文をしていて聞いちゃいなかった。まあそんなもんだ。こいつら息子ごと爆発すればいいと思う。
11