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ぐしゃり。手の中でスチール缶が潰れた。

「また会ったね」

そして潰れたスチール缶をそのままいつかのクソ野郎に投げ付けた。クソ野郎はスチール缶を難なく躱し、何事もなかったかのようにこちらへと歩み寄ってくる。“念のため”いつでも反撃できるよう銃に手を伸ばしかけて……やめた。手がコーヒー塗れだ。それにほいほい能力を見せるのは賢い奴のやり方ではない。

「……奇遇だなあ。一週間振りか?」
「正確には六日だけどね。約束通り、今度は違う仕事を持って来たよ」
「誰も頼んでねえし俺今仕事中」
「終わったところでしょ?」
「家に帰るまでが仕事だ」

約一週間前、俺はチケットを取るだけ取って国外へは出ず、隣町へと移動した。こいつの為になんで俺の方が移動しなきゃなんねえんだよと考えて腹が立ったからだ。それでも用心して拠点を隣町に移したというのにこの仕打ち。奴の言動から察するに、どうにも仕事から何から把握されていたらしい。どんなストーカーだよ。あ、鳥肌立った。

ストーカークソ野郎はまた紙切れ一枚を取り出すなり仕事を受けて欲しいとのたまう。俺は受け取る振りをして、手についたコーヒーをその紙で拭き取って、くしゃくしゃに丸めて、投げ返した。もちろん内容なんか見ちゃいない。
奴も奴で口では酷いと言う割に、顔には相変わらず百点満点の笑みが貼り付けられていた。

「他当たれよ。もしくは自分でやれよ」
「俺は君に頼みたいんだよ」
「俺はやりたくねえし、意地でもやらねえ」
「どうして?」
「お前が嫌いだから」
「はは、まだ名前すら知らないのに随分嫌われたもんだ」

その口振りに片眉が跳ねる。「何も知らない癖に」みたいな言い草がかちんと来たのだ。
そうだ。俺はこいつのことを何ひとつ知らない。直感で“合わない”と思った時点で知る気は失せた。これからも知ろうとは思わない。知りたくもない。それをはっきりと態度で表しているにも関わらず、こいつは俺の領域にずかずか踏み込んでくる。実に不愉快だ。
今回の依頼人伝いに次の仕事の話も出ていたが、キャンセルしよう。今度こそ本当にこいつから離れたい。

俺は嫌味ストーカークソ野郎にも分かるよう、目の前で次々に飛行船のチケットを予約していった。現在地のヨルビアン大陸内はもちろん、遠く海の向こうのアイジエン大陸行きまで手当り次第に。チケットの予約数が三十を越えた辺りで携帯電話を閉じ、奴の顔を見ながらふんっと鼻を鳴らす。惚けたような瞬きが二回。次いで弾けるように笑い出した無神経嫌味ストーカークソ野郎に、腹の底のうずきが増すのを感じた。

「っはははは!たしかにそこまでされたら追うのは大変そうだ!」
「分かったらもうどっか行けよお前。営業妨害で訴えるぞ」
「どうぞご自由に?」
「もうお前あれだ、そこでちょっと万引きしてこい。そのまま突き出してやるから」
「えー、それで捕まるのはちょっとなあ」

わざとらしく顎に指をかけて作られたポーズにまた腹が立つ。人通りが少ないとはいえ、ゼロではない以上通行人には擦れ違い様に不思議そうな顔を向けられる。
上がる体温とオーラに乗って安いコーヒーの香りが強くなった。アスファルトの上、吸い切れなかったコーヒーが色を変えていく。しかし、透けた黒のせいでその変化は目に留まらなかった。

奴は最後に、かすかに感情を乗せた笑みを浮かべてこう言った。

「俺の名前はシャルナーク。次は仕事の代わりに手土産を持ってくることにするよ。アービィ」

全てがわざとらしい。強調するように告げられた自分の名前に、舌打ちを返すほかなかった。



03

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