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結論から言おう。俺はまんまとクソストーカー……長い。ストーカーから逃げ仰せて親父と合流することに成功した。やはり世の中とは往々にしてどうにかなるようにできているようだ。ざまあみろ。

トタン屋根から落ちた後、考えるより先になんの付加効果も乗せていない念弾を辺りに浮かせた。そして俺自身は絶に切り替え、穴から降りて来たストーカーと入れ替わるように窓から屋根へと上がる。
念ならば迂闊に触れない。それにまだ近くに潜んでいる可能性もある。そう思わせることができたならば足止めには十二分。
かくして、意味のない警戒線を張るストーカーをプークスクスしながらその場を後にしたのである。



「鬼ごっこの手伝いなんて聞いてないぞ」
「いでででで!」

近くでタイミングを見計らっていた親父と無事合流し、状況を説明した途端にそんなことを言われ、どつかれ、つねられた。いい年の親父がいい年の息子の頬をつねるというのもなかなかに滑稽な絵面だ。現に隣の席のカップルもくすくす笑っている。
俺は全然笑えねえけどな!

垂れ気味の目を眇めた親父の左手には蜘蛛柄のタブレット。画面に映し出されているのは一匹の蜘蛛を中心に展開された蜘蛛の巣状の格子。その間をいくつもの光の点が動き回っており、蜘蛛の巣に付いた水滴に見えないこともない。
しかし、水滴もとい光の点から出た小さな吹き出しには“殺人経験あり、複数回” “裏組織、上役” “闇商売、売人”など物騒な言葉が並んでいる。つーかこんな奴らが近くにいるのかよ。物騒な場所だなここ。
まあ、これが親父の能力『千里眼を持つ蜘蛛(サーチネット)』だ。正しくはその内のひとつ『臆病な蜘蛛(ハザードネット)』だが細かいことは気にしなくていい。どうせ俺も制約だのなんだの詳しくは知らん。平たく言えば範囲限定型の探知能力であることは間違いないが。

「で、エルマを起こす方法に関するものってなんだ?」

頬をつねっていた手が離れ、一度下ろされた瞼が再び開くと熟練ハンターらしい鋭い目がこちらを向いた。俺は肩を竦め、痛む頬を摩りながら冷えたコーヒーに口を付ける。

「分かんね。けど除念師じゃないことは確かだな」

良くて除念師の一つ手前、悪くて薬とかそういうの、ましなら“起こす”能力者。頭の中で仮説を並べてみたが、結局は情報をもらうまで何も分からない。考えるだけ無駄だろう。
とにかく、今はゲームに確実に勝つことが最優先。付かず離れず、ハザードネットに掛かる半径5km以内で距離を保つのがベスト。飛行船は駄目だ。搭乗記録から追い詰められる可能性が高い。国を越えるのも駄目。出入国の記録が残る。となると、

「意外とぎりぎりのゲームになりそうだなー」

まとわりつく鬱陶しさを振り切るように伸びをする。親父も親父で怠そうに首を鳴らした。

「なら、そうならないように上手く逃げるしかない」
「相手はストーカーだぜ?」
「……前から聞こうと思ってたんだが、お前は一体何をして男に追われる身になったんだ」

そんなのこっちが聞きたいわ。
最初に会ったのもいつだったか忘れたし、どうして未だに付きまとってくるのか皆目見当もつかない。おまけに今回のゲームを呑ませるためとはいえ携帯の番号を渡してしまっている。愚策だった。ストーカー相談窓口の番号でも渡しておけば良かった。

不意に、後悔に駆られる俺をあざ笑うかのように携帯が鳴った。震えながら机の端へと進んで行くサブ画面には知らない番号が表示されている。出ないのかと目線だけで親父に催促され、俺は渋々通話ボタンを押した。

「はーい。こちらストーカー相談窓口でーす。息子ごと爆発しろ」
『うざ!ねえ、本気でゲームする気あるの?ちょっとアンフェア過ぎるんじゃない?』

電話の相手はやはりストーカーだった。声には微かに苛立ちが込められている。あと殺気もか。記憶より幾分早口になっている言葉を右から左へ聞き流し、カップの底に溜まった砂糖をティースプーンでつつく。

「俺とお前の実力差を考慮したまでですー」
『ふーん。格下だって認めるんだ』
「そんな分かりやすい挑発には乗らねえぞ。一週間後覚えてろ」
『乗ってるだろ、それ』

軽く鼻で笑われ、米神に青筋が浮かぶ。握り締めた携帯からは金属の軋む音が聞こえ、不快感に任せて通話を切った。ストーカーと話すといつも押し問答になってこの上なく腹が立つ。あいつマジで息子ごと爆発しねえかな。いらんストレスが増えただけじゃねえか。
愚痴を聞いてもらおうと開いた口。しかし出た言葉は当初の予定と違うものになった。親父が神妙な顔で何かを“検索”していたからだ。

「ちょっと待ておや、」

じ。言い切る前に人差し指を立てられ、反射的に口を噤む。次いで人差し指が向かったのはサーチネットの画面で。検索されていた“アービィに仕掛けられた盗聴器” “アービィに仕掛けられた発信器” “アービィに念能力を掛けた者” “アービィに以下略”と続く文字にひくりと頬が引き攣った。
おいおいおい、まさかそれって。

「……該当はゼロだ。だけど近付いて来てる」
「マジで?」
「あと1.5kmを切った」
「さすがストーカー」

目と目が合って一秒。オープンカフェの日に焼けたテーブルに代金を叩き付け、早足でその場を離れるのに五秒とかからなかった。

考えられるとすればひとつ。さっきの電話だ。盗聴でも発信器でも念能力の類いでもないなら、さっきの電話の受信位置かなんかを調べたのだろう。あいつも器用なもんだな。その才能と労力をもう少し別の方向へ向ければいいのに、これだからストーカーは……。
ぶつぶつと文句を言いながらも足は止めない。ハザードネットに表示されたシャルナークの点は先程までいた場所へ向かっており、奴がリアルタイムでこちらの現在地を把握しているわけではないと分かった。つまりあれだ、ストーカーからの電話にさえ出なければ問題ないということだ。ちょろいちょろい。

……などと考えていたこの時の俺とこんなゲームを持ち掛けたあの時の俺をぶん殴ってやりたいと思う、数時間後の俺なのであった。



06

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