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 仕事を探そうと店に貼られた求人案内(らしきもの)を見て気がついた。俺、数字しか読めねえわ。
 もう仕事は諦めよう。文字に住所に身分証にと障害が多過ぎる。いよいよアユミちゃん発のヒモ説が現実味を帯びて来たわけですが……。綺麗な女性は好きだが、金集めで忙しかった俺に手のひらでころころするようなスキルはない。諦めよう。人生諦めが肝心だ。諦めよう。
 諦めたら次に来るのは何か。余裕だ。せっかく俺の知らない国に来たのだから、いろいろ見て回らないのは損というもの。自分の足で移動すれば金のかからない場所はいくらでもある。そうと決まれば善は急げ。時間はいつでも有限だ。

 それがなんでこうなるかな?

「お兄さん、こんな所で何してるの?」

 川にデパートに図書館に……と無料で入れる場所をいくつか回った後、潜るつもりで戻ってきた河原にて昨日のスケボ少年に会った。俺の今の格好といえば、上着とブーツを脱いでズボンの裾を捲り、最後に腰のホルスターとリボルバーを外そうとしていたところ。どう見ても川に入ろうとしている不審者です。ありがとうございました。

「水生生物の生態調査だ」

 嘘は言っていない。完全に趣味の範囲だし許可もなんも取っちゃいねえが。
 少年は「へー!」と感嘆の声を上げ、スケボを抱え直して土手を下りて来た。このくらいの年はこうも好奇心旺盛なもんなのか。今朝のアユミちゃんといい、見知らぬ人間に対する警戒心が甘い気がする。

「この時期はもう川のお水も冷たいのに。ウェットスーツもなしじゃ風邪引いちゃうよ?」
「そうか? こんくらいの水温なら平気だろ。場所によっちゃ機材の持ち込み嫌がるところもあるし、慣れてっからなんともねえよ」
「へー! お兄さんは“いつも”こういうお仕事してるの? 学者さん? それとも先生?」

 このスケボ少年、やけに突っ込んでくる。にこにこと笑みを浮かべて、好奇心たっぷりな振りをして隙なく視線を走らせている。きょろきょろなんて可愛いもんじゃない。音にするならギラッギラッだ。昨日会ったときの視線にはまだ可愛げがあったのに。
 そんな少年が相手なんだ。腰裏の銃へ辿り着かれないわけがなかった。

「あれれー? 拳銃持ってるなんていけないんだー!」
「持ってちゃ悪いかよ」
「二丁も持ってるなん……重っ!?」
「あっ、こら! 当たり前だろ! 子供が持てるもんじゃねえっての!」
「いったあい!!」

 このガキ油断も隙もねえ。まさかホルスターから引っこ抜くとは思わなかった。拳骨をお見舞いしてくれるわ。
 俺の銃は大口径の44マグナム。子供が持って構えられる重さではない。落とされそうになった愛銃はすぐさま取り上げ、肩を叩くようにして遊ばせた。

「銃が危ないもんってことくらい分かるだろ。なんで触った」
「だ、だって、銃は持ってるだけで犯罪なんだよ! 許可とか資格とか例外はあるけど」
「銃所持禁止国か。弾はねえから大目に見てくれよ」

 実弾を込めれば人を殺せる凶器になる。俺の場合は念弾を込めれば左に同じ。だが、ここしばらくは厄介なストーカー野郎への対策としてシリンダーを空にしていた。とはいえ、銃所持禁止国は場所によっちゃパーツ持ってただけでアウトだ。ハンター協会加盟国ならライセンス見せて一発オーケーなのに、面倒臭いったらありゃしねえ。
 潜るつもりで脱いでいた上着を肩にかけ、ズボンの裾を下ろしてブーツを履く。仕上げに銃のグリップで少年の頭を軽く小突いてやれば、大袈裟なまでに慌てた顔がこちらを見た。

「少年にはスケボで遊ばせてもらった借りがある。見逃してやるから見逃せよ」

 後ろ手にひらりと手を振り、この場は退散するとしますかね。



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