スケボ少年と別れたのち、川は諦めて町中をぶらついていた。あわよくば魚を仕留めて食費を浮かせたかったのに、とんだ誤算である。
やっぱりヒモか。ヒモ狙いしかないのか。周りがアイジエン系の顔ばっかりだから、俺の顔は正直浮いている。コンビニで会計した時も店員の肩が強ばっていた。こんな調子じゃ麗しのレディを引っかけるのは無理そうだ。ちくしょう。
そうしてやや気落ちしながら歩いていたら、数メートル先でふんふん唸ってはへばり、ふんふん唸ってはへばりを繰り返す老人を見つけた。放っといたら死ぬんじゃねえかと思った俺は、お節介にもその肩を叩いたのである。
「じいさん大丈夫か?」
俺の声にじいさんは額に汗を浮かべ、惚けた顔で振り向いた。その手にはぱんぱんに膨らんだ買い物袋が握られている。
「あ、あんまり大丈夫じゃないかのう……」
「また随分買ったな」
「そうなんじゃ。運動をかねて車を置いて来たんじゃが、ちょいと買い過ぎてしまってなあ」
「なら俺が持ってやるよ。どうせ暇だしな」
「こりゃすまん。助かるわい!」
じいさんが下におろしていた買い物袋三つを代わりに持ち上げる。中身は牛乳に小麦粉、キャベツなどの野菜類に新品のフライパンまである。こりゃ確かに重いわ。じいさんは全部持たせるのは悪いと狼狽えたが、どうせ一つも二つも俺にとっては大差ない。俺がくたびれるまで休んでいてくれと突っぱねた。
じいさんの家はここから歩いて二十分ほどの所にあるらしく、家に着いたら茶をごちそうすると言ってくれた。良い人だ。昨日からろくなガキに遭っていないからとても癒される。胴回りなんてキュートなもんじゃないか。
「それにしても、君はずいぶんと日本語が堪能なんじゃな。留学生か何かかね?」
出たよ“ニホン”語。もうこの言葉の不思議に関しては思考を止めたい。
「いんや。言葉はもともとさ。仕事柄いろんな国の奴らが混じるんだが、これが公用語ってことになってる」
「ほう! ちなみに、どんな仕事をしとるのか聞いても?」
「遺跡の発掘及び調査」
正確には遺跡ハンターの親父の手伝い兼マネーハンターってとこだが、そこまで言う必要もない。ニホンへも遺跡探しに来たのかと聞かれたのには、まあそんなところと曖昧に流しておく。この辺は年の功だ。じいさんは深く触れずにいてくれた。
それから歩くこと二十三分。お高そうな住宅街にじいさんの家はあった。お隣の洋館は庭も広く、金持ちのニオイがぷんぷんする。門を開けながら「結局最後まですまんかったのう」と謝るじいさんに続き、玄関までのわずかな道のりを歩いた。
「変わった造りの家だな。研究所みてえ」
「ほっほっほ! こう見えてわしは天才科学者なんじゃ!」
そう言ってじいさんは自慢げに腹を突き出す。胸を張っているんだろうが前に出ているのは腹だ。
玄関には大人物のサンダルと女の子の靴が一足ずつ並んでいた。帯の伸び具合からしてサンダルはじいさんのものと分かるが、女の子の靴は大きさからして六〜八歳くらい。孫でも遊びに来てんのか?
「おーい、哀くーん。帰ったぞーい」
家の中から返事はない。じいさんは「研究室にこもっておるのかもしれんから、先に買った物を片付けてしまおうか」と言って一階の中央にあるキッチンへ向かってしまった。
ちょっと待て。十にも満たない幼女が研究室? ろくでもないガキの気配を察知。ここはやはりさっさとお暇するべきか……。
「そうじゃ、もうこんな時間じゃし、夕飯も食べて行ってはどうかね?」
おいおいじいさん天使かよ。現在進行形で食糧難の危機に瀕している俺の天秤は、あっさりと反対側へ傾いたのであった。
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