わしが腕によりをかけて作ろうと腕まくりしたじいさんは、開幕五分で指を切って戦線離脱した。
「何から何まですまん……」
「いいって別に。俺は飯食わせてもらえるだけでありがてーし」
溶いた卵をフライパンの中で軽く混ぜるようにして焼く。軽く火が通ったところで一度ボウルに移し、全体をよくかき混ぜる。そしたらまたフライパンに戻して形を整えるように焼き、先に盛りつけておいたケチャップライスに乗せて完成だ。
「俺特製オムライス〜」
「おおお……!」
「ソースはお好みでどうぞ」
じいさんったらまあ、目をきらきらさせて喜んじゃって。現役美食ハンター直伝の簡単ふわとろオムライスレシピだから味は保証する。めっちゃ美味いぞ。
食卓の用意もそこそこに、じいさんはアイくんを呼びに行こうとキッチンを離れた。アイくんなら少し前からそこの影で電話中だ。言うと怪しまれそうなのでお口はチャック。俺は大人しく食事を並べることに勤しむ。
しかし料理を作るのには苦労した。何せ調味料の文字が読めねえ。「じいさん胡椒取ってくれねえか?」「ほいきた!」とかそんな感じで乗り切ったけども。
「さあ夕飯にしよう! 哀くんも呼んできたぞい」
じいさんの大きな体の影からアイくんと呼ばれた小さな女の子が現れた。ふんわりした赤毛に、少女とは思えない理知的で気の強そうな眼。出会えるなら十年後、いや二十年後の彼女に出会ってみたかったもんだ。絶対美人になる。俺の目に狂いはない。俺の目に狂いはないが、彼女の目にも狂いはなかった。完全に不審者を見る目をしていらっしゃる。
「彼が博士の言ってた“親切な外国人”?」
「そうじゃそうじゃ! 彼が……そういえばまだ名前を聞いとらんかったの」
苦笑で誤摩化し後ろ頭に手をやるじいさんだが、その肉厚な頬にはアイくんからの視線がぶすぶす刺さっている。名前も知らない不審者を家に上げたのかとでも言いたげな目だ。ごめんね不審者で。密入国・不法滞在・銃所持のトリプルコンボ決めてるけど害はないからプラマイゼロです。
少し大袈裟に咳払いをし、名乗るは本名アービィ=アイレ。職業は遺跡発掘調査および保護などなど。ここから先はでっちあげだが悪しからず。
「ニホンへは仕事の関係で来たんだが、半ば拉致されて来た上にその拉致った知り合いにも都合が悪いとかで放り出されちまった。荷物なんかも全部そいつの所だし電話は通じないし、他の知り合いもいないしで八方ふさがり。要は暇な外国人ってわけ」
ひょいと肩を竦めて溜め息を吐く。我ながら悲しい嘘だ。
アイくんは何事か言いかけたじいさんを手のひらで制し、口元に薄い笑みを引いた。
「じゃあ聞くけど、遺跡の調査に拳銃は必要? それも大口径のリボルバーが二丁も」
「おお、よく気付いたな」
「どこかの誰かさんが親切に教えてくれたのよ。“妙な外国人がうろついてるから気を付けろ”ってね」
思わず片眉を跳ね上げる。彼女は俺の視界に入る範囲から動いていないから、腰裏の銃を直接見たわけではないだろう。となるとタレコミ。さっきの電話がそうか。俺がこの国で愛銃を見られたのはスケボ少年だけだ。
つまりなるほど、そういうことか。
俺が会った子供は全部で五人。スケボ少年、アユミちゃん、おにぎり、そばかす、アイくん。たった五人でこの国の子供の平均をとるのもなんだが、まあ今は仕方ないので置いておく。
アユミちゃんとおにぎりとそばかすは俺の知っている子供と大差なかった。ちょっとマセているが誤差の範囲だ。しかし、スケボ少年とアイくんは明らかに違う。頭も口もよく回り、何より大人との薄暗い駆け引きに慣れている。早い話が似ている。同じニオイがする。なんらかの繋がりがあるのも納得だ。
ふむふむと一人納得して手を叩く。何がともあれまずは飯にしよう。小難しい話はそれからだ。じいさんの腹の虫も、目の前のオムライスをお待ちかねのようだしな。
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