13


 忙しければ忙しいほど、日が経つのを早く感じるものである。なんていったって今回のクラスマッチは夢ノ咲全体を巻き込んでの大きな行事だ。二年生の転校生ちゃんを今回はお休みにしている分、私に仕事が回ってくるのは言うまでもなく、気づけば当日まで数日を切っていた。

「あ〜……」

 眠い。授業と授業の合間の十分休み、私は情けなくもでろりと机に突っ伏していた。もちろん健康管理は自分なりにしっかりとしているし、睡眠もなるべく摂るようにしている。特に体調が悪いという訳では無いのが、とにもかくにも眠い。今日は幸いにもプロデュースの予定はないし、やることやったらさっさと帰って寝よう……。

「何千夜、体調悪いの」

 そんなときに上から降り掛かってきた声。聞きなれた、けれどこの場所には似つかない声に、私は思わずここが自分の教室かと確認した。ここ、3Bであってるよね?

「……心配しなくても、ここは3Bであってるよ」
「ああ良かった! びっくりしたよ、凛月がいるからてっきり知らない間に防音練習室かガーデンテラスか、はたまた獣人が住む異世界に紛れ込んだかと……」
「寝ぼけてるの? まあそんなこと言うくらいなら元気そうだねぇ……」
「ご心配どーも。眠いだけで、この通りぴんぴんしてまっせ! んで、凛月は何の用?」

最近は昼間に起きていることが多くなったとはいえ、こんな早い時間から彼がしゃっきり起きて、しかもわざわざ他学年の教室に来るなんて珍しい。すると彼はふふん、と少し得意げに笑って、私の前の席にがたりと座った。

「俺たち『Crescendo』のパフォーマンスもほぼ出来上がってきたからねぇ、一回あんたに見てもらおうと思って」
「ああ、そういえばようやく真面目に練習し始めたってこ〜ちゃんから聞いたけど……」

もうほぼ完成とは、さすがである。

「ふふ、なんてったってCrescendoだからねえ……徐々に本気を出していくのが俺たちのスタイルって感じ?」
「テキトーなこと言わないでよ、そういう意味で付けたわけじゃないでしょそのユニット名……」

彼が言うとなんだか本当にそう思えてくるから不思議……いや、厄介だ。凛月、真緒くん、晃牙くん。2Bのこの三人のユニット名は『Crescendo』。簡潔に言うと音楽用語で「だんだん大きくなる」という意味だ。三人のうち誰がこれをつけたのかわからないけれど、初めてその名前を目にした時はうまくまとまってるな、と思わず感心してしまった。

「ていうかわざわざそんなことを言いにここまで? スマホのやりとりで良かったのに」
「俺もそう思ったんだけどねえ、ま〜くんが「この忙しい時に頼み事をするんだから、なるべく直接言え」って……。そういうま〜くんは生徒会で、コーギーはなんか見つからなかったから仕方なく俺がきたってわけ」
「ええ、そんな気ぃ遣わなくてもいいのに」

真緒くんって男は本当に律儀だなあ。そういうところめちゃくちゃモテそう、なんて彼のこの幼なじみの前では絶対に言わないけど。
 それじゃあ今日の放課後でいい? そう言いかけた時だ。

「いだっ!?」

突然びしり、という音とともにおでこに痛みが走る。なんてこった、あろうことか彼は私にデコピンかましやがった。

「ちょっと凛月……! 何を」
「まあでも、直接来てみて良かったよ。こんな疲れきった顔したプロデューサー、付き合わせたところで役立たずでしかないもん」
「は……」
「じゃあね、千夜。睡眠は大事だよ〜」

 そうしてひらひらと手を振り、教室のざわめきを抜けて、凛月は廊下へと姿を消した。