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「――はっ!?」

ぱち、と目が覚める。

凛月にああ言われたので、さっさと帰ろうと思ったのだ。そうして廊下を歩いてる途中、確か零さんに偶然会って、軽音部室へ引きずり込まれて……そこから先の記憶がない、だと……!?

「くっ……責任取って幸せにするよ零さん……ってうおわああああ!?」

冗談のつもりでそう言ったのに、実際零さんが隣で寝てるってどういう状況? というかここはどこ? わ〜真っ暗! 何も見えないよ〜!

「というか、狭くない?」

真っ暗とかそういう問題じゃない。
隣にすぐ壁。手を上に伸ばそうとするも、すぐに天井にぶち当たる。……もしやここは……棺桶の中?

「だ、誰か〜? というかひなた君ゆうた君〜? 笛吹いて、零さん起こして〜!」
「にょわっ! び、びっくりしたりょ……この声は千夜ちん?」
「みたいだな。つーことはよ、朔間もこん中か?」

紅郎くんとなずなの声がする。ちょうどよかった、紅郎くんならここを開けることが出来るはずだ。

「気が付いたら棺桶の中にいたの! 出して〜!」
「ホラー映画かよ。まあいい、待ってろ千夜」

呆れた声が聞こえた……と思った次の瞬間、ズズズ……と鈍い音が耳に飛び込んできた。真っ暗だった棺桶の中に、蛍光灯の光が徐々に差し込んでくる。

「め、目が! 目がァァァ! 誰かバルスって言って!」
「いや、言わねえよ」
「てか、台詞の順序が逆だよなあ。千夜ちんも呑気すぎるというか……普通棺桶の中に居たら、もっとパニックにならないのか〜?」

いやー。この棺桶の中に引きずり込まれたのは一度や二度じゃないので何とも。一人で閉じ込められたら泣く自信があるけど。

というか、なんで私は棺桶に零さんと詰め込まれてたの?

「ふっふっふ……それは勿論、零の愛に他なりませんよっ!」
「うぶっ」

頭上から大量のバラが落ちてきた。物理的に何も見えなくなった私は、薔薇の洪水に耐えかねて棺桶へ再びダイブ。

うお、棺桶にバラが敷き詰められてる……オタクの好きな構図によくあるやつ……! なんてひそかにワクワクしていたのは秘密だ。

「うぶぶ……溺れる、溺れるから薔薇止めて」
「渉ちん、その辺にしとけよ〜!? バラで窒息死とかシャレにならないぞ!?」
「ああっ、それはいけません! バラで人を殺すのはローマ皇帝だけで十分ですよねぇ!」
「居るのかよ、そういうやつが……お前の知識の出どころは未だに謎だな」

渉の奇行を止めにかかるなずなと紅郎くん。クラスでよく見る光景だ。

む? クラス……ということは、ああそうか。彼らはクラスマッチで同じユニットだった。確かユニット名は――

「『Role』じゃよ、愛し子よ」
「ほわぁっ! み、耳元でささやかないでよ……」
「くっくっく、すまんすまん。薔薇の雨で、さすがの我輩も目が覚めてしもうてな……。起き抜けにおぬしの疑問の声が聞こえた故、つい反射で答えてしまったという訳じゃ」

ふああ、と欠伸を一つした零さんが伸びをする。……もしかしなくても、棺桶に私を突っ込んだのは彼だろう。

「ねえ、凛月との会話聞いてたの?」
「うん? そうじゃなあ……好きなものと好きなものの会話って、つい聞きたくなるじゃろ……♪」

ふふん、と得意げな顔。いや、どこで聞いてたんだこの人。

となると、彼は早急に私を眠らせるため、わざわざ棺桶に招き入れてくれたのだろうか。……だとしたら有難い。

「気を遣わせてごめんね。『Role』のプロデュース、そういやまだ一回もしてなかったのに……」
「いや、構わんよ。今日はおぬしに一度だけ、我らの演目を見てもらいたかっただけじゃ。一回ゆっくりと寝て、はっきりした意識で見てもらいたかったからのう」
「おいおい、朔間。そういうのは先に説明しとけよ」
「そうだぞ零ちん、俺たちも呼び出された理由分かってなかったんだからな!」
「まあいいではないですか! 各々自分の『役割』をこなしさえすれば、必ずや勝利は約束されるでしょうし……☆ 勝者の余裕を持って臨みたいものですよねぇ、零?」
「うむ。そういうことじゃのう」

いや、零さんは単純に、スマホの使い方が分からなかっただけじゃ……と口を挟むのは野暮なので、黙っておこう……。