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 昨日のRuleのパフォーマンスが頭から離れない。一年生がエネルギッシュでキラキラしたパフォーマンスとすれば、彼らは経験を積んだ労力と蓄積による弾けるようなパフォーマンスだといえるだろう。ああいけないいけない、色々やることがあるのに、ひとつのことに考えを集中させてはいけない。クラスマッチは始まってすらいないのだから。
 ……そう思っていたのがほんの少し前。じゃあ今はと問われれば、正直そんなこと…というのが語弊があるが、目の前に広がるこのカオス空間を見れば吹っ飛ばざるを得なかった。

「ぷか、ぷか……☆ 『みずあび』は たのしいです〜」
「わははは! おまえほんと変な奴だな! いいぞ変な奴は大好きだ! ああ〜降りてくる! 霊感が降りてくる〜!」
「深海くん風邪引いちゃうから噴水から出てください〜! 月永くんも今作曲するのはやめてください〜!」

……これぞまさに、『CHAOS』だ。やっぱり私の付けたユニット名は何も間違っていなかった。私ってば天才かも。いや、この三人を知っていれば誰だってその単語が思いつくか。

「ああ千夜ちゃん! 来てくれたんですね助かりました〜! クラスマッチの最終調整をしようと集まったのに、二人ともこの調子で!」
「いやあんな『助けてください』って一言だけ送られたメッセージ見たら来るしかないよ」
「ああそうか! すごい大変なことだと勘違いしちゃいますよね? すみません俺っていつも言葉足らずで」
「いやいい! 大丈夫だから! こんなの誰だって助けてくださいってなるから!」

縋ってきたつむぎを剥がして、私はずかずかと噴水に向かう。すると奏汰はいつも通り私を引っ張ろうと腕を差し出してきた。が、引きずり込まれるわけにはいかない。腕を掴まれたり、逆に手を掴んだりしてしまえばそこで終わりだ。私はその腕をうまい具合にかわしながら言い放った。

「奏汰〜? この時期はまだ少し冷え込むから風邪ひくよ。クラスマッチ控えてるのに風邪なんか引いてられないでしょ?」
「む〜……でも さいきん『あったかく』なってきたので、『かんそう』しちゃいます……」
「そしたら私が霧吹きで水かけてあげるから、とりあえず一回あがろう?」

霧吹きなんかで言うこと聞いてくれるかな、と少々不安だったけど、霧吹きで妥協したのか、それとも風邪をひいてみんなに迷惑をかけてしまうことを危惧したのか、奏汰はしぶしぶと噴水からあがってくれた。よしあとはレオだけだ。

「レオ、レオってば」
「うるさい! 今話しかけるな! ……ってあれ、千夜? なんでここに?」
「つむぎに呼ばれたんだよ。ほらレオ、もともとクラスマッチの調整の為に集まったんでしょ? 今はちょっと我慢しよ?」
「でも今書き上げないとおれの傑作が消えちゃう!」
「じゃあ五分以内になるべく書き上げて。書ききれなかった分は歌ってくれれば私が頑張って覚えておくから」
「ほんとか! さすが千夜だな! じゃあすぐ書き上げるからまってて!」

そうして再び譜面と向き合ったレオに、ひとまず安堵する。ああは言ったが、五分というありえないくらいの短かさでもレオならきっとなんとかして書き上げてくれるだろう。私もメロディを覚えるとは言ったし。……まあ完璧に覚えられる自信なんて正直ないけどね!

「さすがですね〜助かりました千夜ちゃん」
「つむぎもなかなかしんどいポジションだよねえ、お疲れ様ッス!」
「それ絶対思ってないですよね!?」

思ってる思ってる。同時に面白いとも思ってるけどね! それにしても最終調整か。私は自分のクラスのユニットに関しては実はあまりプロデュースをしていなかったんだけど、まとまっていないというか、その名の通りのカオスなユニットでもその段階には達しているんだなあなんて。彼らも立派なアイドルだ。見くびってしまうのは失礼にあたるだろう。
 どんな感じに仕上がってるんだろうな、と呟くと、察してくれたのか、つむぎがそれなら、と思いついたように言った。

「見てみますか? 俺たちのパフォーマンス」
「いいの?」
「むしろ 『みせたい』です〜」
「深海くんや月永くんに俺だけ追い付いてないですけど……それでも個性をうまく伸ばしたいいものができてるって実感があるんです」

照れるようにつむぎが笑う。こんなことを言われてしまえば、見るしかない。むしろクラスマッチまで待ちきれない! 昨日今日と見てばかりなような気もするけど、いいよね私仕事頑張ってるし!

「じゃあお言葉に甘えて見させてもらおうかな」

そう口にした瞬間、できた! というレオの叫び声が辺りに響き渡った。

「千夜、全部書けたから歌って!」
「ええ? 書けたなら歌う必要ないじゃん」
「やだ! これは『CHAOSに乱入してきた千夜の歌』だから!」
「意味が分からない……」

けれど譜面に書かれたメロディはなんとも心惹かれるもので。にこにことこちらをみるつむぎも奏汰も、そして譜面を差し出すレオも、明らかに私の歌を待ち望んでいるようで。まあ少しだけならいいか、なんて気の緩んだ私は、その軽快なメロディをひとつひとつ口ずさむのだ。