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「鬱だ死のう」
「まぁまぁ、生きろよ若いの」
「俺と千夜先輩って二歳しか変わりませんよね……」

抽選会が終わってから延々この調子な翠くん。とりあえず早まって屋上に向かわないように、体育館の隅で蹲っている彼を見つけ、隣に体育座りした訳だが。

「てか先輩、その格好だとパンツ見えませんかね」
「ぱんつ」
「何その幼稚園児みたいな反復」

ちょっとツボに入ったらしく、翠くんがちょっと笑った。憂いを帯びたまま少し笑う、それだけでも綺麗に見えるからイケメンってすごい。

というかパンツだよ! そうだよ翠くん、体育館だからつい体操服着てるノリで座っちゃったよ! もっと早く注意してほしい!

「あ〜〜〜っ! 千夜先輩がお姉さん座りしちゃった〜! くっそ〜、あともうちょっとだったのになぁ〜」
「スバルくん!? もうちょっとって何かな!?」
「冗談だよっ、冗談☆」

バチン! と可愛らしいウインクを一つ飛ばしてきたスバルくん。バスケのユニフォーム姿でそれをやると、ますます強そうに見えてくる。まあ、強化選手かな? みたいなダンクをバンバン決めてるからっていうのもあるだろうけど。

「てか、さっきからタカミンは何をそんなに落ち込んでるの? 今日はち〜ちゃん部長、来てないけど?」
「あれ、スバルくんは知らなかったの? 今日は、【クラスマッチ】のトーナメント抽選会だよ」
「えええっ!? 大変だ、俺抽選会なんか行ってないよ!?」
「あわわ、ちょっと待って! ストップ!」

今にも飛び出していきそうなスバルくんを慌てて捕まえる。

「ユニットの代表者が行けばいいだけだから、『SASHIMI』は神崎くんが抽選会に行ってたよ!」
「ああ、そういうことかぁ。じゃあ、『Infinity』はち〜ちゃん部長がリーダーってこと?」
「いや、リーダーは英智だけど……生徒会役員二人が抽選するのは駄目だし、泉はモデルの仕事があるからってことで、千秋が代わりに行ったんだってさ」

いや、ほんと『Infinity』から溢れる強キャラ感ならぬ強ユニット感ね。まあ少年漫画宜しく、彼らを打ち破るユニットは何処だ!? みたいな宣伝の仕方を放送委員会も考えているらしいし、当然ではあるか。

にしても……ユニット決めもくじ、対戦相手もくじ、と中々運を要するイベントだなあ。だからこそ、翠くんが鬱状態になったのもうなずけるというか何というか。

「ザキさんも今部活中なのかな〜? 何処と当たったのか今からワクワクしちゃうよ〜!」
「知らないほうが幸せってこともあるんすよ、明星先輩……」
「え? あ〜、もしかして『Ca*rrots』は三年生ユニットと当たったんでしょ! すっごい運がないね〜!」
「スバルくん、バッサリ切り捨てすぎだから!」
「ははは……いっそはっきり言って貰ったほうが楽っすね……いきなり三年生とか、本当面倒くさい……」
「ま、まぁまぁ。『チョコクロ』の皆は確かに個人個人は強いけど、『Ca*rrots』の皆は連帯感では勝ってると思うし。お客さんにも仲良さそうなとこを見せていく、っていうアピール方法もあるわけで」

活路がないわけでもない。

というか臨時ユニットなんだから、活路も袋小路も平等に用意されていると思うんだよね。緊急事態に対応することになったら、さすがにどのユニットも円滑にはいかないだろうし。

とまあ色々思う所はあれど、もうすぐ二年生の翠くんに一々説明するのも野暮かな。

「先輩の言う通りだぞ〜タカミン! 諦めたらそこで試合終了!」
「安西先生っすか……バスケじゃなくてユニット活動なんすけど……まあいっか……」
「うんうん、翠くん頑張って! 鉄虎くんと創くんも一緒なんだし、普段とはまた違った魅力を見せていけばいいんだよ! 例えば半ズボンとか!」
「それは嫌っすけど。……まあ、そこそこ頑張るんで……見ててくださいね?」

上目遣いでお願いなんて、後輩力1万はあるぞ翠くん……恐ろしい子! あとやっぱり、可愛い路線もそこそこ行けると思うよ!