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「おーい! 悪い遅れた!」
「あっサリー! そっかサリーもリーダーだったんだね!」
「いや、本当は年長者だし、凛月のやつにやってもらいたかったんだけど、あいつがやってくれるわけないしなあ……大神もそうだし、単に貧乏くじ引かされただけだよ」
「いーじゃん! サリーリーダー似合ってるよっ☆」
「あはは、んなこと言ってくれるのお前だけだよ……ってあれ、千夜先輩? どうしてここに」
体育館の入り口からぱたぱたと走ってきた真緒くんが、きょとんとした顔でこちらを見る。真っ先にTrick starの仲間の元に向かってきた彼に、「気づくのが遅いよ」なんて、わざわざ指摘するのは野暮だろう。翠くんが落ち込んでたからちょっとね、と簡潔に答えると、未だに蹲ったままの彼を見て、真緒くんは察したように苦笑いを浮かべた。
「情報早いな…。なんつーか…まあ頑張れよ、高峯」
「さっき鉄虎くんから連絡きたんで……。ハア…頑張れません……」
「つっても、もうすぐ卒業しちゃう三年生と対戦できるなんて滅多なことじゃないぞ?」
「ねえねえ、サリーのユニットはどことあたったの?」
「話をぶった切るなよなお前……。ともあれ、俺のとこは一年のとことだよ。仙石がいるとこ。確か…」
「『Coin Toss』ッスね……」
真緒くんが名前を口にするより先に、翠くんが声をあげる。そうか、CrescendoとCoin Tossが当たることになったのか。それはそれでなかなか面白そう…。いやむしろ、どことどこが当たっても確実に楽しくて面白いことにしかならないんだけどね!
「もう全ユニットの抽選会は終わったの?」
「全部終わりましたよ。つーか、多分千夜先輩には副会長からメッセージがきてると思います。さっきなんかスマホ弄ってたんで」
「え? あ、ほんとだ」
サイレントモードにしていたから気づかなかった。スマホを確認すると、確かに点灯したランプと共に、画面に敬人からのメッセージが表示される。そこには長々と各ユニットの対戦相手が表記されていた。それと最後に、「早く生徒会室に来い」の文字。そういえば抽選会が終わり次第、生徒会室に行く予定だったのをすっかり忘れていた! このところ生徒会室に入り浸っている気がするけど、実際やることしかないのだから仕方ない。
ちょっと行ってくるね〜なんてぼんやりと呟いて、それから翠くんの頭をくしゃりと撫でて、私はてくてくと歩き始めた。
「待って先輩! 俺たち『SASHIMI』はどこと当たったの〜!?」
背後から聞こえたスバルくんのそんな声に、私は振り返らず、それでも手をひらひらと振りながら言った。
「二年生のとことだよぉ〜」
*
「ええとですね! なんていうかやっぱり俺には無理だと思うんですよ。そりゃあひなたのやつは俺よりずっとすごいしパフォーマンスだって一年生のなかじゃ飛び抜けてるけど、そもそも三人ユニットが多い中『Color!』だけが二人っていうのもおかしいと思うんです。それに加えて対戦相手は北斗先輩がいる『8bit』ですよ? 無理です無理に決まってます! そりゃあ俺だってやれることはやりたいけど、まず北斗先輩の対戦相手っていうのがおこがましいんですよね。いやこれを先輩に言ったところでどうしようもないっていうのももちろんわかってますけどそれでも先輩はこのクラスマッチを牛耳っているわけですしもしかしたらなんとかなるかもなんて淡い期待を持って……いや無理ですよねわかってますああでもどうしよう俺が対戦相手だってわかったなら北斗先輩がっかりしてるかもしれない〜! やっぱり俺なんかより同学年、いや、三年生のほうが北斗先輩には相応しいんですよね……」
廊下で会った途端、これだ。このトンデモ人間が集まる夢ノ咲学院において、かなり冷静にツッコミができるはずの真白友也くんが、息つく間もなく、捲し立てるように言ってきた。さすが、彼の北斗くんに対する敬意は度を超えてすごい。こんなのお姉さん嫉妬しちゃうぞ。いやどうしたって私が北斗くんに敵うはずがないのは言うまでもなくわかってるんだけどね!
「ひとまず落ち着いて友也くん。私が決まったことをどうこうするのはできないけど、少なくとも北斗くんはがっかりなんてしてないと思うよ」
そう言うと、友也くんはぎゅっと下唇を噛み、どうしてそう言えるんですか、なんて上目遣いで言ってきた。なんだその技! いつの間に習得したんだそんな技ずるい! 可愛すぎるだろコンチキショウ! あまりの可愛さに思わず「私が何とかしてあげる!」なんて口が滑りそうだったが、危ない危ない、さすがにそんなことはしてあげられない。
「……ええと、とりあえずね。北斗くんは友也くんのことを大事に思って、実力だって認めてるから、むしろ楽しみにしてると思うよ」
「本当ですか……」
「ほんとほんと。これはおねーさんが保証してあげる。だから大丈夫。友也くんはひなたくんと全力を尽くして、楽しめばいいんだよ」
そうしてにこりと笑うと、彼は安心したのか、小さく息を吐いた。あ、ようやくいつもの友也くんの顔になった。一人の人間を一瞬にしてここまで変えてしまうんだから、人間の愛情というのは恐ろしいものだ…なんて、哲学者ばりのことを考える。それでもいつものように柔らかい笑顔でへらりと笑った彼はやっぱり可愛くて、私はまたいつものように友也くんの頭を撫でた。