04
「失礼致します。千夜さまはいらっしゃいますか」
ゲラゲラと笑っていたちょうどその時、自分の名前を呼ばれてはっとする。振り返ると、そこに立っていたのは――
「弓弦くん」
「はい、こんにちは千夜さま。申し訳ありません、突然お訪ねして。いまお取込み中ですか?」
「あ、ううん。軽音部でだらだらしてただけだから」
思えば誰一人として楽器を触っていなかった。こんなことで良いのか軽音部。
こんな体たらくを前にしても、とくに弓弦くんは呆れた表情を浮かべた様子もなくニコニコした笑顔のままだ。さすが執事、ポーカーフェイスだなぁ。
「それは良かった。実はわたくし、今回の【クラスマッチ】について少しお尋ねしたいことがございまして――」
「あ、別の部屋で話す?」
プロデュースの話とあれば、他のユニットに聞かせるわけにはいかないだろう。そう思ったけれど、弓弦くんは首を横に振った。
「いえ、個人的な話ではないので問題ありません。わたくしがお聞きしたい話は、全員に共通するお話ですから」
「全員に……?」
「はい。単刀直入に申し上げます」
――優勝したユニットに与えられる景品は、何でございましょうか?
にこり。至極丁寧な質問ののち、素敵な執事スマイルを送られる。
【クラスマッチ】では、優勝クラスには報酬として校内資金を全員に与えることになっている。しかしそれとは別に、トーナメントで優勝したユニットに所属する生徒には、プラスで報酬を与えることになっていた。
ふむ。確かにそれは当然の質問……と思っていると、晃牙くんが突然、
「あ〜? 優勝する気満々ってか? ずいぶん自信あるじゃねえかよ、『Gothic』は?」
「大神さまを煽る意図はないのですが……」
「チッ、お高くとまりやがって。頼むからテメ〜のユニットと俺のユニット交換してくれってんだよ。やりづれえったらありゃしねえ!」
「あはは……確かにアレはいやだよねえ、さすがの大神先輩も」
「おれとゆうたくんの間に入るみたいなもんだよねぇ」
「嫌っつーよりか、リッチ〜が延々衣更に甘えてレッスンが始まんねえんだよ。これじゃ練習できねえだろうが!」
うん、こ〜ちゃんは相変わらず真面目だなあ。練習したいからメンバーを交換しろって……まぁそんなことはできないんだけどネ!
「困ったことに、『Gothic』もそう順風満帆ではないのですよ」
「そうなの? 『Gothic』は、弓弦くんと……」
「影片さま、鳴上さまで構成されております」
「へぇ〜……あっ、わかった! 執事とアンティーク人形と騎士、って中世っぽいアイドルが集まったから、ゴシック様式……『Gothic』なんでしょ!」
三人全員テーマもまとまりやすいし、晃牙くんの言う通り戦いやすい面子ではありそうだ。
「その通りでございます。正確には執事と人形と『乙女』ですが」
あっ、はい。
――閑話休題。
で、景品についての話だが。実は、目星がついていない訳じゃない。まだ英智に相談してないから確定ではないけど、と前置きをして、私はみんなの前に五枚の紙きれを差し出した。
「じゃじゃ〜ん! コズプロ系列の企業の優待券で〜す!」
「コズプロじゃと? おぬし、まだ『Eden』に絡まれとるのかえ?」
「零さん怒った?」
「怒ってないぞい……☆」
「何も知らない朔間先輩とオタクの千夜先輩の間でネタが成立してる……」
「あっ! これ知ってますよ! コズプロが出資してる遊園地とかにも入れるんでしょ! 某ネズミーランドとかも!」
ひなた君が突然、嬉しそうに叫んだ。そう……この券はすごいのだ。これさえあれば大体どこでも入れちゃうんだから! 景品としてはなかなか上物じゃない?
「ふむ……二枚ずつ配分すれば、鳴上さまと影片さまも意欲が湧きますかね」
「鳴ちゃんは椚先生をデートに誘いそうだし、みかくんは宗とどっかで出かけたりするかもね!」
「前者は難しそうですが、まぁ焚きつける理由にはなりそうです。ありがとうございます、千夜さま」
さらっと酷い事言ってるよ、弓弦くん。