05


「あ、やばいそろそろ行かなきゃ」

 思ったよりも早く進んでいた時計の針を見て呟く。どうやら予想以上にここに長居してしまったらしい。

「えー千夜先輩部活していかないの?」
「うん、ごめんね。今日は部活休むってことと、あと一応零さんにユニットは伝えとこうと思って顔出しただけだから……」
「行ってしまうのか〜? 嫌じゃ〜まだ行かないでおくれ〜! 年寄りを一人にさせないでおくれ〜!」
「何言ってるの、零さんにはこ〜ちゃんがいるでしょ」
「は? 押し付けんな!」

まとわりついてくる零さんを剥がしてこ〜ちゃんに押し付ける。私だってこのまま軽音室で駄弁っていたい……いや、部活をしたい気もあるけれど、今日はこれからKnightsとの打ち合わせがあるのだ。
 私も生徒会室へ戻らせていただきますね、という弓弦くんと共に、私は啜り泣く零さんを置いて軽音室を後にした。

「ねえ弓弦くん、英智は今日下校時刻まではいないよね?」
「そうですね……生徒会の業務はありますが、今日はfineのレッスン日ではございませんので、余程のことがなければ蓮見さまが早々にお帰しさせるでしょう。ドリームトラベルも終わったばかりですし」
「だよね。そしたらごめんだけど、さっきのご褒美の件、もしまだいたら一応英智に伝えといてくれる? 私も打ち合わせ終わり次第、資料確認とかも含めて生徒会室に行くけど、多分英智いない可能性のが高いだろうから」
「かしこまりました」

 そう言って、頼もしい弓弦くんは生徒会室へ向かう階段を昇っていった。私も早くスタジオへ行かないと。一応レオに遅れるとは伝えておいたけど、覚えているかもわからないし。ていうか今更だけど泉にメッセージ送っとけばよかったな。今からでも送ろうか……そう思った瞬間。

「千夜〜!」
「おぅっふ!」
「なんて声を出してるんだネ」

 背後からの突然の衝撃。抱きつかれたといえば聞こえはいいけど、実質タックルを受けてしまったのだからこんな声も出る。ともかく、振り向かなくても声の主たちが誰かだなんてわかる。

「けれどソラ。いくら屈強なねえさんでも、急に、しかも勢いよく抱き着いてはいけないヨ」
「まって夏目くん屈強なって」
「HIHI〜? そうなのですか〜? 悪いことをしたときは謝ります! 千夜、ごめんなさい!」
「許す」

かわいい。なんだこの生き物かわいい。ぱっと私から離れてすぐさまぺこりと小さく謝った宙くんを許さない人間なんているだろうか。いや、いない。ただし屈強なとは一体どういうことかね夏目くん。

「千夜はどうしてここにいるんですか? ゲー研に遊びに来てくれたな〜?」

え、ゲー研? 確かにこの二人はゲー研だけど……と考えて、ようやくここがゲー研部室の前だと気づいた。くっ……ここまで宙くんがかわいいと遊んでいきたい……が、さすがに仕事をおろそかにするわけにはいかない。

「ごめんね宙くん、ここは通りかかっただけなんだ。これから打ち合わせに行かなきゃいけないから」
「HOHO〜残念……。千夜とたくさんお話したかったな〜……。でもわがまま言っちゃいけません! でも、どうしてもこれだけ言わせてほしいんだな! 千夜、クラスマッチを企画してくれてありがとう!」

 そうして今度は先程より優しくぎゅうっと抱きつかれる。え、と思わず夏目くん見ると、「企画したのはキミだろうとソラに教えてあげたのサ」と当然のように言った。

「ソラ、クラスのみんなと歌って踊れることができるときが来るなんて思わなかった! とってもとってとhappyな〜! もちろんししょ〜とセンパイも大好きだけど、クラスのみんなも大好きだから! ゆうちゃんと光ちゃんと歌うの楽しみな〜!」
「そっか、宙くんはその二人となんだっけ」
「うん! 『Bound』って、ゆうちゃんがユニット名を決めてくれた!」

bound、弾む……。なるほど、三人にぴったりのユニット名だ。まだ始まってもいないのに宙くんのこの喜びようを見ると、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。

「ねえ、夏目くんは誰とユニットを組むの?」
「どうせあとで資料を見るんだろウ? 今ボクがここでねえさんに教える必要は無いネ」
「ええ〜夏目くんのけちんぼ!」
「失礼な言い草だネ。先に明確な答えがあるのに、それに辿り着く前に不透明なものに頼ろうとするのはねえさんらしくないヨ」
「……こんなくだらないことで夏目くんは嘘をつかないでしょ」
「さァ? どうだろうネ? ヒントをあげると、ボクはTrick starの誰かと一緒だヨ」

にやりと笑う夏目くんは底意地が悪い。ていうか2Aトリスタ3人いるからそれじゃヒントも何も無い。まあ確かにどうせ後で確認できるだろうからいいんだけどさ!

「それよりねえさん、こんなとこで無駄話をしていていいのかイ?」
「え?」
「打ち合わせ」
「……ああああ!!!」