終わりにしたい



「もう終わりにせんか」

珍しく緊張を滲ませた固い声で、サカズキが切り出す。
これがただの雑談であれば、会話をしたいならちゃんと主語を言えと軽口を叩くのだが、今はそういうノリが許される場面でないことはよく分かっていた。

────ついに来たかァ……長かったなァー……。

サカズキが終わりにしたいものとは、ずばり自分との関係だろう。
誰にも言ったことはないが……というより、誰にも言えないのだが、サカズキとは海軍学校で初めて出会ってから今日まで、良き友人であり同僚であり、そして所謂セフレだった。
何故そんな関係に至ったのかを詳しく話すと長くなるので割愛するが、まぁお互い若かったことと海軍学校という閉鎖的で厳しい制限下に置かれた環境が生真面目で硬派なあの男を狂わせたのだろう。
若い頃から潔癖故にセックスができる相手がかなり限られてしまい苦労していたボルサリーノとしては、自身の難儀なハードルをクリアして、なおかつ身体の相性も抜群なうえに思い立ったらいつでも相手をしてくれるサカズキを手放すのは惜しいが、三十年もの貴重な時間を付き合わせておいて引き止めるのはさすがに酷というものだ。

────あーあ、また新しい相手見つけないとだなァ……戦桃丸くんとかストロベリーは頼んだらOKしてくれそうだけどこれって絶対にセクハラ案件だよなァー。思い切ってセンゴクさんってのもアリ……な訳ないか。大仏姿で張り倒されそう……ん〜〜、やっぱ無難にクザンあたりに頼もうか……?

「すまんかった。わしはおどれが何も言わずともそばにいてくれるから、つい甘えてしもうたようじゃ。三十年も待たせたケジメはきちんと取るけぇ……もうセンゴクさんら上にも話はつけちょる」

「…………えっ?なんの話ィ?」

次のセフレ候補を頭の中で取っかえ引っ変えしていたところに、突然サカズキが意味不明なことを言い出すので、ボルサリーノは悟られないよう平静を装いつつ、内心では混乱していた。
なんとなく、このまま放っておいたらマズイ気がする。
しかし、一旦落ち着こうとボルサリーノが提案するよりも先に、サカズキはそんなボルサリーノをみなまで言うなと言わんばかり制すと流れるような仕草でボルサリーノの手をとり、ジッと熱い眼差しが注がれる。
意図的なのか、無意識なのか。ボルサリーノの手を包むサカズキの両手がボコボコと溶解し、燃え盛る真っ赤なマグマへと変わっていく。ボルサリーノの両手も光になっているので熱さを感じることもないし振りほどくこともできたのに、まるで縫いつけられたかのようにその場から動けず、当事者であるはずなのに成り行きを見守るほかなかった。

「わしと一緒になれ、ボルサリーノ」

"なってくれ"ではなく"なれ"なのがなんともサカズキらしい。
ボルサリーノが断るとは微塵も考えていなさそうな自信に満ちたその表情が可笑しくて、気づけば「いいよォ」と首を縦に振っていた。

────セフレを続けるよりも結婚しちまった方が効率的な気がする、多分。ま、これからも末永くよろしくねェ〜、サカズキ。

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