ある日の子ボルちゃん



道端に少年が蹲っていた。
柔らかそうな黒髪の短髪に、まるで微笑んでいるかのように細く垂れた目元と、思わず触りたくなる丸い頬、特徴的な唇。簡素だが良い素材の使われた浴衣を身に纏った少年は、見るからに困り果てたというふうに膝を抱えている。

「坊や、どうかしたのかい」

少年に声をかけると、パッと花が咲いたような可愛らしい笑みを浮かべてこちらを見上げてくる。

「わっし、一人で歩く練習をしてたんだけど、疲れて動けなくなっちゃったんだよォ……早く帰らないと、旦那さまが心配しちゃうのに……」

薄い眉をへにょりと八の字に下げて萎む様は、本人には悪いが酷く愛らしい。

「おじさんの家、この近くなんだ。お茶とお菓子でも食べて少し休憩してから送ってあげるよ」

「ホントォ?……でも、旦那さまが知らない人についていっちゃダメだって言ってたしなァ」

「旦那さま……君の奉公先のご主人かな?大丈夫さ、坊やが内緒にしていればバレないよ。だから、おいで」

少年の腕を掴む。首も腕も脚もとても細くて、少し力を入れれば簡単に折れてしまいそうだ。

────やはり、幼子はいい。こちらが生殺与奪の権を握って好き勝手できるからだ。

困ったように笑っている少年を、少々強引だが抱き上げて連れ去ろうと腕に力を込め…………、

「あ、旦那さま」

背後に視線を向けた少年が、喜色を帯びた表情を浮かべる。

「おどれ、誰のもんに手ぇ出しとるつもりじゃ」

地を這うような、ドスの効いた低い声がすぐ後ろから鼓膜を震わせた。振り返る勇気などなく、少年から手を離して一目散に駆けた……つもりだった。

「あ…………?」

どさりと、上半身が地面に倒れ込む。足が縺れたわけでも、蹴躓いたわけでもないのに。そっと己の下肢へと目を向ける。すると、そこには本来あるべき両脚がなかった。代わりに、ドロドロに溶けた紅い何かが、肉の焼けた臭いを発しながら地面にへばりついていた。

「ぇ……あ?なに、なんで……」

自分の置かれている状況がまるで理解できない。
混乱したまま壊れたようになんで、と繰り返す男が最期に見たのは、真っ赤な岩漿と少年のやわらかな笑みだった。

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