落下注意
空から光の塊が落ちてきた。
まだ日が高いというのに流れ星の類だろうかと眺めていると、それが光を纏った童子であることに気づいた瞬間、センゴクは能力を発現して駆け出していた。
「おいっ!君、大丈夫か!?」
間一髪、地面に叩きつけられる前に受け止める。落下地点が高ければ高いほど衝撃が大きくなることを見越して能力を使ったが、腕の中に落ちてきた身体が小さいことを差し引いても凡そ質量という概念のない童子の存在に、どこか薄ら寒さが背筋に奔った。
「あっ、センゴクさぁん」
まるで何事もなかったかのように、童子は細い目をさらに細めてセンゴクに笑いかける。白い水兵服を纏い、ニコニコと愛想よく振る舞う童子がセンゴクが跡目を譲った元帥、サカズキが『保護』しているボルサリーノという少年であることに気づき、智将と謳われたセンゴクは次の展開が予想できてしまった。
ひゅるるる、と。何かが風を切る音が頭上から聞こえる。つられるように見上げると、予想通りまるで隕石のようにマグマの塊が一直線にこちらに落ちてくるではないか。
ボルサリーノを抱えたままその場から飛び退くと、マグマの塊……もとい、サカズキは凄まじい衝撃と熱で地面に大きな穴を開けて着地した。お前、移転したばかりの本部の敷地を無意味に傷つけるのはやめろと怒鳴りつけたくなったが、子供のいる手前それはよくないとグッと堪える。
「サカズキ、お前……」
「ボルサリーノ!おどれ、あれほど落ちるから気ぃつけよと言っちょったんに……!大丈夫か、怪我はしとらんか?!」
サカズキはセンゴクからひったくるようにしてボルサリーノを奪い取ると、無遠慮に服の裾を捲ったりズボンの中を確認し始めるので、思わずギョッと目を剥いてしまう。いくら男の子とはいえ、こんなところでやめんかと止めたが、サカズキはセンゴクの言葉に一切耳を貸さないうえ、ボルサリーノ本人がまったく気にしていないようで、センゴクの怒声は虚しく霧散していった。
「ごめんねェ……でも、わっしはろぎあだから大丈夫だよォ〜」
「おどれが謝る必要はないけぇ……そもそも、あんなけったいな欄干作らせたモンが悪い。どうなっとるんじゃセンゴクさん?!」
「いや、私のせいではないだろう!?」
「あんたあの時はまだ元帥じゃったろうが!あんなスカスカの欄干作らせよって……!」
なんという八つ当たり。そもそも、サカズキがまだ小さいボルサリーノを私情で元帥室に連れ込んでるのが諸悪の根源だろうに。
「すぐに隙間のないモンに作り替える必要があるな……」
「待て待て、どこにそんな金があるんだ?!海軍は人手も資金もカツカツなんだぞ?!」
「あんたは黙っときんさい!!そのぐらいわしの金でいくらでもやったるけぇ!」
「金の問題だけじゃないからな!?私情で本部の建物を改築するな!!職権乱用だぞ!!」
「ボルサリーノがまた落ちたらどう落とし前つけてくれんじゃ、ええ?!」
「だから、子供を元帥室に連れ込むんじゃない!子守りでも雇うか、寺子屋にでも通わせてやればいいだろう!この子だって友達が欲しいだろうに……」
「そんなもんは必要ない。わし以外の人間は極力ボルサリーノには近づけさせん」
誰も盗ったりしないというのに、ボルサリーノの小さな身体を二本の逞しい腕で隠すように抱き締めたサカズキは、その瞳に異常なまでの執着心と独占欲を宿している。サカズキがボルサリーノにどんな感情を向けているのか、二人の関係がただの保護者と保護対象のそれとは違うことをセンゴクは知っている。
どうせ言っても聞きやしないだろうし、触らぬ神に祟りなし、それに自分は既に隠居した身だ。
センゴクはちらりとサカズキの腕の中で大人しくしているボルサリーノに目を向ける。すると、ボルサリーノは紅葉のような手のひらをこちらに向けて無邪気に振ってくる。
こんな年端もいかぬうちに厄介な男に囲われる童子に哀れみを覚えつつ、センゴクは大きなため息をついて二人に背を向けたのだった。