キュンとする



「ヘルメッポ少佐って口は悪いしお調子者だけど何気ない所作に品があるのがイイのよね〜、キュンとしちゃう〜!」

昼時の食堂で女性海兵の皆さんが集まってランチを楽しみながら盛り上がっていた。とはいっても、彼女たちも海兵なので大声で騒ぎ立てているわけではなく常識の範囲内の声量でお喋りをしているだけだったが、アルビダの海賊船で他人の顔色を見ながら生活していた時の名残か、周囲の話し声にこっそり聞き耳を立ててしまうのがぼくの悪い癖だった。
ダメだとは思いつつ、話題が話題だったせいでどうしても気になって仕方がない。ぼくはなるべく意識しないように注文したおにぎりを頬張って食事に集中する。早く次の話題に移ってくれないかなと自分勝手な願望を抱いてみたものの、むしろ彼女たちは更に話を広げていく。

「うんうん。それに意外と仕事できるし、こっちのミスとか気づかないうちにフォローとかしてくれるのもポイント高いよね!」

そうそう、ヘルメッポさんは周りをよく見てるんだよね。ぼくもいつも助けてもらってるし、それに対してありがとうってお礼を言うと「なんのことだか」って何でもないみたいに振る舞うのが格好良くてズルいんだよなぁ……。

「普段は偉そうにしてるけど根が優しいんだろうねー。あとは身だしなみに気を遣ってるのも素敵じゃない?あの着こなしはヘルメッポ少佐じゃないとできないと思うなぁ」

多分、ヘルメッポさんってひねくれてるから素直に優しくできないんだろうな。でも、やっぱり凄く優しくて面倒見もいいからみんな分かってくれるんだよね、なんだか嬉しい。

「わかる!スタイルもいいよね!あと髪もサラサラでうらやましいー!」

ヘルメッポさん、いつもお風呂上がりに髪の毛を乾かすのとかケアに一時間くらいかけてるもんね。隣にいるといつもいい匂いがするし、あとぼくはヘルメッポさんがいない間に枕に顔を埋めて残り香が香ってくるのが好き。いや、変態っぽい意味じゃなくて!安心するから好きなんだよ!…………少しも興奮しないかといえば嘘になるけど…………。
なんて、心の中で彼女たちの発言にうんうん、わかると逐一頷き相槌を打つ。

ーーーーどうしよう、すっごく……話に混ざりたい……!!

親友であり恋人でもあるヘルメッポさんのことを褒められて嫌な気はしない。むしろ、誰から見てもヘルメッポさんは素敵に見えるんだとわかって誇らしい気持ちでいっぱいになる。
しかし、同じ海軍とはいえ彼女たちとは面識もないし、立場でいえば一応ぼくの方が上官にあたる。話したこともない上官に突然会話に入ってこられたら誰だって嫌だろう。
ぼくは話に混ざりたくてウズウズするのを抑える。ルフィさんのことといい、気軽に話せる相手がいないというのは地味につらい。こういう時、ヘルメッポさんなら口下手なぼくと違って社交的だから自然と入っていけるのにと、今ここにはいない恋人の顔を思い浮かべる。
その瞬間、見えない豆電球にピカっと明かりが灯った。
「…………あ、話し相手ならいるじゃないか!」

善は急げ、ぼくの好きな言葉だ。ぼくはお皿に残っていたおにぎりを口の中に放り込み、しっかりと咀嚼をして味わってからゴクンと飲み込んで「ご馳走様でした!」とあと片付けをしてから食堂を飛び出した。

「と、いうわけでヘルメッポさんのいいところ、かっこいいところ、キュンとするところをお話したいと思います!」

「いやいやいや、おかしいだろ!?それ本人と話す話題じゃねぇよ!違う誰かとしろ!!」

「そんな……!ヘルメッポさん、ぼくが友達少ないの知ってるじゃないですか!ぼくにはヘルメッポさんしかいないんです、お願いします!」

わざとらしく上目遣いで見つめると、ヘルメッポさんは声を詰まらせながら「……仕方ねぇな」と不承不承受け入れてくれた。どうしてかはわからないけど、これをするとヘルメッポさんが言うことを聞いてくれるのだ。

「つーか、お前俺が女にキャーキャー言われててその……妬いたりしねぇの?」

「え?うーん……とにかくヘルメッポさんが褒められてるが嬉しくて、あんまりそういうのは考えてなかったなぁ」

「ふーん」

ヘルメッポさんは面白くなさそうに頬杖をついてそっぽを向いてしまう。普段はぼくに対して兄貴風を吹かせたがるヘルメッポさんが子供のように拗ねている姿に、先程の女性海兵の「キュンとする」という言葉と共に心臓がちいさく、それでいて確かに高鳴る。

「だって、どんなにキャーキャー言われていても、ヘルメッポさんのことを一番知ってるのはぼくですから。ヘルメッポさんのことに関してならぼく、負けない自信があるので……」

だから全然嫉妬はしませんでしたと告げると、ヘルメッポさんは手で顔を覆ったかと思うと急に天を仰ぎはじめた。具合でも悪くなったのかと心配して飛びつくと、ヘルメッポさんは「俺はお前のそういうとこにキュンとするよ」と頭を撫でてくれた。
ぼくがヘルメッポさんの話をするはずだったのにこれじゃ逆だなとは思いつつ、特に手入れをしていないぼくの髪をまるで宝物を扱うように優しく触れるヘルメッポさんの大きな手の感触が心地よくて、結局ぼくの昼休みはヘルメッポさんに頭を撫でられて終わったのだった。

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