包帯
患部の清拭と消毒、薬品の塗布を行い傷の観察も忘れない。血液と滲出液で汚れたガーゼを清潔なものへと取り替え、洗濯したばかりの真白い包帯を手に取る。初めて出会った頃よりも逞しくなったとはいえ、自分たち大人とは明らかに違う少年らしいほっそりとした腕や薄い胸板、腹部に丁寧に巻いていく。
キツすぎず、ゆるすぎず。慣れた手つきで無心に巻き付けていると、通りがかった看護師に「随分慣れていらっしゃるのね、いつも助かります」と礼とともに頭を下げられる。
「好きでやってるんで」
海軍でのし上がると決め、身元引受人であるガープに休みなく厳しく修行をつけられたせい……おかげで、怪我の手当がヘルメッポの特技の一つになっていた。だからというわけでもないが、海軍本部内の医療施設に療養をしているコビーの世話は看護師ではなくヘルメッポが請け負っていた。普段ならこんなことはまかり通らないが、マリン・フォードでの頂上決戦により負傷者の数が医師や看護師の数を遥かに上回ってしまい、海軍から衛生兵も駆り出されているものの対応が追いつかないのが現状。そんな第二の戦場では、たとえ一人でも手当やケアを任せられるのは有難いらしい。
包帯を巻き終え、肌蹴けさせたコビーの衣服を整えてベッドへと横たわらせる。ヘルメッポが手当てをしている間も昏昏と眠り続けるコビーの幼い寝顔を見ていると、酷い焦燥感に駆られてくる。
麦わらのルフィから受けた傷は致命傷ではなかった。骨は何本か折れていたものの、内蔵を傷つけることもなく、海軍の中で誰よりも若いコビーならすぐに快復するだろうと医師も話していた。
しかし、大きな傷を負ったのは身体のではなく、心の方だった。
「見聞色の覇気、ねぇ」
戦争の真っ只中、コビーが目覚めさせたその力は、真っ直ぐでひたむきで優しいコビーの心に深く消えない傷跡をいくつも刻んだ。師であるガープやボガードに覇気のコントロールの仕方を教わってはいるものの、本来であれば長い研鑽の末に習得する境地を一朝一夕でどうにかできるはずもない。
激化する戦争の最中に死にゆく海賊や海兵の恐怖、絶望、嘆き、救いを求める声が、僅か十六歳の少年の成長途中のやわい精神を蝕む。絶え間なく流れ込む誰かの声に、コビーはろくに眠ることもできなくなってしまい、こうして薬の力に頼って無理矢理睡眠をとっている始末だ。
こうして苦しむコビーを前にして、様々な感情がヘルメッポの胸中を渦巻く。またしても自分より頭一つや二つも飛びぬけた成長を見せる相棒への羨望と嫉妬だとか、どこにでもいるような少年に過ぎないコビーが戦争という個人ではどうしようもできない大きな悲しみを一身に受けて不憫に思う兄貴分としての気持ちだとか、終始コビーのそばにいたくせに何もできなかった自分自身の不甲斐なさや苛立ちだとか。
「…………心の傷も、こうして手当して治ったらいいのにな」
そうだったなら、自分がいくらでもしてやれるのに。
コビーの身体に負担がかからないよう、細心の注意を払って抱きしめる。一刻も早くコビーの傷が癒えるようにと祈りを込めながら、包帯の巻かれた指先にそっと唇を落とした。