いただきます



「いただきます」

小さく両の手を合わせて呟くと、ヘルメッポさんは左手に茶碗を、右手に箸を持って昼食というには随分遅い食事に取りかかる。
ヘルメッポさんが選んだのはBランチ。丸々と太った秋刀魚の塩焼きを主役に、小鉢には切り干し大根と小葱の乗った冷奴、きのこのサラダ。磯の香りのするあおさに花の形をしたお麩が浮かぶお味噌汁、ツヤツヤの白米がこんもりと注がれている和風のメニューだ。
ぼくは自分の頼んだAランチのハンバーグプレートを口に運びながら、黙々と食事を進めるヘルメッポさんの姿を盗み見る。食事中にジロジロと見るのは失礼だとはわかっているのだけど、ぼくはヘルメッポさんがご飯を食べているのを見るのが好きだった。
普段はハーフアップにしている金色の長髪は食事にかからないようにお団子で一纏めにされ、背筋をピッと伸ばして小骨の多い秋刀魚を器用にほぐして口に運ぶ。秋刀魚を食べたらご飯、ご飯を食べたら副菜、そしてまたご飯とバランス良く食べていく。ぼくはよく「食いっぷりがいいな、見ていて気持ちがいい」なんて言われるけど、ぼくなんかよりヘルメッポさんの方が上品で綺麗で見ていて気持ちいと思う。
本人は黒歴史だからと苦い顔をするけど、普段のちょっとした所作なんかに育ちの良さが垣間見えることがよくある。食事なんて特にそれが顕著で、普段は仕事中でもおしゃべりなのにヘルメッポさんは食事の時はこうして静かに集中して食事を摂るのだ。あとは、食べ方がとても綺麗だ。ぼくも魚は好きだけど、身だけを綺麗に取って食べるのが下手くそで、最終的に「骨もカルシウム!」と豪語するガープ中将に倣い、無理のない範囲で骨ごと食べている。でもヘルメッポさんの手にかかると秋刀魚だって身を全部綺麗に食べて、残った骨が今にも泳ぎ出しそうなくらい見事で、まるで魔法みたいだって本気で思っている。
休日に二人で街で人気のハンバーガーショップに行って、分厚いパティとトマトやらレタスやらタマネギやらチーズがこれでもかと挟まれ、ぼくの顔くらいあるんじゃないかというボリューム満点のハンバーガーを食べた時も、後ろからソースや具材が溢れてしまい悪戦苦闘しながら食べているぼくを尻目にヘルメッポさんは手を汚すこともなく平らげて、ソースで手がベタベタになっているぼくをニヤニヤしながら眺めていた。
アルビダの海賊船で雑用をしていた二年間、海賊たちの機嫌を損ねて食べ物を奪われないように身を縮め、とにかく胃に収めなくてはと味なんか気にもせずに早食いをするのが癖になっていた。海賊船の埃っぽい船倉や拠点にしている小屋の外で一人で食べる食事は、残飯だったことを差し引いてもひどく味気なかったように思う。
それに比べて、今はしあわせだ。海軍本部の食堂のご飯が美味しいのはもちろん、食料を奪われないかと怯えなくてもいいし、食事中だろうと呼びつけられて雑用をさせられたりもしない。何より、こうやって好きな人と一緒に食べるとさらに美味しく感じる。

「なにニヤニヤしてんだよ」

いつの間に食べ終えたのか、ヘルメッポさんはお茶を啜りながら不思議そうにこちらを見ていた。まだ半分以上残っている自分の皿に、どれだけヘルメッポさんのことを見つめていたのかと自分でも恥ずかしくなって、慌ててハンバーグを口に運ぶ。

「お前、いつも飯食ってると俺のこと見てくるよな……あ、別に責めてはねぇからな?そんなに見てておもしれぇか?」

それとも俺様のハンサムな顔で飯が進むのか?と揶揄うような口調でヘルメッポさんが続ける。

「いや、顔はそこまで……ただ、ヘルメッポさんに食べてもらったらしあわせだろうなぁって」

相変わらず綺麗に食べるな、と空っぽになった皿の上に残った秋刀魚の骨を横目で見ながら思ったことを口にする。すると、ヘルメッポさんは「はぁ?!」と素っ頓狂な声をあげてガタガタと椅子を揺らした。

「お前な……人がいるところでそういうこと言うんじゃねぇよ!まだ仕事だって残ってんのに……いや、コビーがどうしてもっていうなら頑張るけどよ……」

「?」

赤い顔でゴニョゴニョと独り言を言っているヘルメッポさんを不思議に思いつつ、付け合わせのミニトマトを口の中に放り込む。ほんのりとした甘さと酸味がハンバーグで重たくなった胃をさっぱりとさせてくれる。

「ごちそうさまでした!」

お腹もいっぱいになったし、午後も二人で仕事を頑張ろう。

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