プレゼント
くぅくぅと仔犬のような寝息をしっかりと確認してから閉じていた目蓋を上げる。灯りを消した部屋の中は真っ暗でまだ目が慣れないが、すぐそば……自分の腕の中で眠るコビーの安らかな寝顔はよく見ることができた。
仕事が終わってから俺たちの隊ごとガープ中将の屋敷に招かれ、ボガードさんやガープ隊のみんなでクリスマスパーティーを楽しんだ。
酒が入った樽が山のように積み上げられ、行きつけの飯屋のケータリングのオードブルに混じった冗談みたいに大きな鳥の丸焼きやケーキを食べ、クリスマスとは全然関係のないどう考えても出来レースなガープ中将との腕相撲大会が開かれたりと主催者と同じく自由でハチャメチャなパーティーだったが、コビーは終始口を開けて笑っていて本当に楽しそうにしていた。
突如始まった野球拳でボガードさんが頑なに帽子だけは死守しているのを見ていたコビーの年相応の無邪気な笑顔を思い出し、つい笑みが零れてしまう。
明日が仕事のため今日のうちにクリスマスを満喫した俺たちだったが、むしろ俺のクリスマスはここからが本番と言える。だってそうだろう?東の海にはこんな言葉がある、恋人はサンタクロース、と。
コビーも十八歳だ、さすがにサンタクロースの存在を信じてはいない。が、ガープ中将に引き取られた年のクリスマス寸前。雑談の最中、生まれてから一度もクリスマスにプレゼントを貰ったことがないと何でもないことのように話すコビーに、俺を含め周りの大人たちが「今年はコビーにうんとプレゼントをあげよう」という結論に行き着くのは必然だった。
サンタクロース役で揉めるガープ中将とボガードさんを必死の思いで宥めすかし、イブの夜にこっそりとプレゼントを枕元に置く役目を勝ち取った俺は嬉々としてちょっといい釣り具を用意して見つからないように隠してコビーが寝入るのを待った。
しかし、この時の俺はまだまだ爪が甘かった。まず、コビーが少しの物音や人の気配ですぐに目が覚めてしまうということをすっかりと失念していたこと。次にこちらはある意味で嬉しい誤算だが、俺とコビーは毎日ひとつのベッドで一緒に眠っている。なので、この日も例に漏れずコビーを抱きしめて床に就いたら、寒さもあいあまってかコビーが俺にしっかりと抱き着いて眠っていて、とてもじゃないがこっそりと抜け出せる状態ではなかった。
プレゼントを渡したい、でも今動いたらコビーを起こしてしまう。でも、いや……等と、葛藤を続けること一時間。俺は苦肉の策としていつ緊急の連絡がきてもいいようにとそばに置いていた小電伝虫をなんとか掴み、ガープ中将に電話をかけて――――もちろんコビーが起きないように超小声で――――俺がしまっておいたプレゼントをわざわざ枕元に置いてもらうよう頼んだことでとりあえず事なきを得た。
そんな去年の失敗を糧に、今年こそはスマートにプレゼントを贈ってみせると今日まで密かに計画を練っていたのだ。
俺はそっと枕の下に手を差し入れ、用意していたものがちゃんとそこにあることを確認する。
もう一度コビーが眠っているかを確かめた後、慎重にそれを取り出す。
細長い長方形の箱を開けると、上品な光を放つシンプルなネックレスが、丁度カーテンの隙間から入り込んだ月の光を受けてキラリと輝く。
そう、今年のクリスマスプレゼントはネックレスだ。
コビーは若いくせに物欲があまりない。その分、食欲や向上心は旺盛なのだが、プレゼントを選ぶ身としては中々に難易度のある相手だった。
正直俺があげれば何でも喜んでもらえるという自惚れと自負はある。なにせ、親友であり相棒であり恋人なので。誰よりもコビーのことを理解しているつもりなので、贔屓にしている作家の最新作の小説だとか、よく行く定食屋の食べ放題券だとか、新しいバンダナだとか。コビーの好きそうなプレゼントの候補はあったのだが、敢えて一番興味がないであろうアクセサリーを選んだ。
暗い部屋の中、器用に留め具を外してコビーの首元にネックレスを飾り付ける。チェーンが肌に擦れた際にコビーが小さく声をあげたが、覚醒することはない。共に過ごすうちに、眠りの浅かったコビーが自分がそばにいる時だけは安心して眠れるようになったのだ。
それだけでも優越感で口元がにやけてしまうというのに、今しがた自分が贈ったコビーの胸元に輝く首飾りは更にそれを増長させた。
――――確かにコビーはアクセサリーなんか興味ねぇよ、そんなこと海兵なら誰でも知ってるだろうさ。でもな、だからこそいいんだ。つまり、誰が見てもこのネックレスは俺が贈ったものだって……コビーが俺の恋人だってひと目でわかるんだからな。
「首輪の代わり……なんてな」
コビーを愛するようになってから抱き続けてきた昏い願望が満たされ、薄闇の中でうっそりと微笑む。
知らぬ間に首輪をかけられたとも露知らず、楽しい夢でも見ているのか薄らと笑みを浮かべて眠るコビーの桃色の髪を梳いてやる。
「メリークリスマス、コビー」