お揃い



「……ッ!?ヘルメッポさん!!」

仕事中は意図して低く抑えているはずのコビーの甲高い悲鳴のような声音で名前を呼ばれ、途切れていた意識が一瞬にして覚醒する。
反射的に臨戦態勢をとろうとしたが、何故か体の自由がまったく利かずククリ刀を構えることはおろか立ち上がることもできなかった。必死己の置かれた状況を理解しようと目玉だけをギョロギョロと動かして周囲を確認しようとするも、顔全体がどす黒い何かで汚れているらしく視界はすこぶる最悪だった。
そんな状態でも、猛スピードでこちらに向かってくるコビーが、今にも死にそうな表情をしていることだけはわかった。

「コ……ビー……」

「そんな怪我で動いちゃダメです!誰か、救護班を呼んできてください……!!」

文字通り飛ぶような勢いで駆け寄ってきたコビーは、いつも首元に巻き付けているストールを乱暴に解いてヘルメッポの額に強く押しつける。未だに視界はブレてコビーが六人ほどに分裂しているが、遠くに聴こえる剣戟と男たちの雄叫びや大砲の音、立ち込める砂塵とむせ返るような血の臭いで、ようやく自分が任務中に怪我を負ったことを思い出した。
巡回中にとある小さな島が海賊に襲われていると通信が入り急いで駆けつけ、前線の指揮はコビーに任せて部下と共に逃げ遅れた住民の誘導と護衛をしていたところ、海賊の撃った大砲が近くの石造りの建物に着弾し、破片が方々へと飛び散った。昔はともかく、今の自分ならたとえ弾丸のように通んでくる石の塊を避けることなど訳はなかったが、もし自分が避けていたら親とはぐれて物陰に蹲っていた少女は無事ではいられなかっただろう。
少女の存在に直前まで気づけず身を挺して破片から庇った時、コビーのように自分にも見聞色の覇気があればと場違いに悔しさを感じたのを憶えている。部下や民間人がいる手前、必死に冷静な態度を崩さないようにしているが、こちらを見下ろす丸い瞳が泣きそうに歪んでいるのを見ると、余計にそう思う。俺がもっと強かったら、こんな顔させないで済んだのに。

「コビー……海賊たち、は……?」

「……大丈夫です、全員捕縛しました。住民の皆さんもみんな無事です……あなたが助けた女の子も」

「そ、か……はは、名誉の負傷だな……ッ!」

「ヘルメッポさん……!おでこから血がたくさん出てるんですよ?!こんな時くらい喋らないで大人しくしててください!」

コビーがそう言うが、こっちとしては黙っていると痛みにばかり意識が持っていかれてつらいので普段通りに無駄口を叩いていた方が気が紛れるし、何よりもコビーの声を聞いていると安心するのだ。

「あー、いってぇ……縫うかな、こりゃあ」

「あ、もう……!そうですね、だいぶパックリいってますね……」

ぎゅう、と患部を押さえるコビーの指に力が入る。ああ、こいつまた自分のせいでとか思ってんな、と嫌でもわかってしまう。何でもかんでも背負い込んで一人で泣くなよ、バカ。

「なぁコビー……もし傷が残ったら、お前のそれとお揃いになるな」

そう思うと悪くねぇな、と笑い飛ばしてやる。俺の言葉にコビーは鳩が豆鉄砲を食ったような顔でしばらく固まったかと思うと、

「だったら、ぼくはヘルメッポさんを傷物にしてしまった責任を取らないとですね」

しあわせにします、と小さく肩を震わせながら囁く。それはいずれ俺から言うはずだったのにズリィぞと言ってやりたかったが、とうとう限界がきたのか、俺の意識は底でふつりと途切れてしまったーーーー……。


「よかったですね、尖った瓦礫が綺麗に皮膚を切ったおかげで目立つ傷は残らないそうですよ」

海軍本部内にある病院のベッドで目を覚ました俺に、開口一番でコビーが教えてくれた。自分は海軍でも若輩者だから傷の一つでもあれば箔がつくのではないかと密かに期待していたので少しがっかりだ。

「……その気持ちはわからなくはないですけど……でも、やっぱり傷のお揃いは嫌です」

ぽすん、とコビーはベッドに顔を埋める。あの時は俺に付き合って軽口を叩いていたが、やはり俺が目を覚ますまで気が気じゃなかったのだろう。

「コビー、怪我が治ったら買い物行こうぜ。そんで、何でもいいから俺とお前でお揃いのモン買ってやるよ」

上半身を起こしてコビーの頭を撫でながらそう提案すると、コビーは顔を上げて俺の目をしっかりと捉えて逡巡した後「ぼくもお金、半分出します」とキッパリと言い放つ。
本当にこいつはブレないな、とその頑固さに俺はつい思い切り声を上げて笑ってしまい、傷口が開いて退院が伸びるのは数秒後の話だった。

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