「百合に挟まろうとする男という悪を許すな!」
「おっ、戦桃丸ちゃんだ」
「……ども」
サボりついでに愛しのボルサリーノの顔でも見ようと彼女の執務室へと足を踏み入れると、そこにいたのは見慣れた黄色のスーツ姿ではなく、ボルサリーノの部下でありクザンの意中の女性であるボルサリーノと最近恋人になった赤い腹掛けの戦桃丸だった。
クザンも何度か話したことはあるものの、その殆どが間にボルサリーノを挟んでのことだったので、こうして二人っきりで顔を付き合わせるのは何だか間が持たない。
クザンはグラマラスな女性が大好きなので戦桃丸も例外ではないが、自分が海軍学校時代から想いを寄せていたボルサリーノを鳶の如くかっさらっていった戦桃丸に、正直嫉妬している。
「姉御なら元帥に呼ばれたからしばらくは戻ってこねぇよ」
「あー、そうなのね……」
目は口ほどに物を言うとはまさにこのこと、鋭い双眸が「早く帰れ」と訴えていた。
ボルサリーノがいないのならクザンがここにいる意味などないのだから、このまま部屋を出てってもよかったが、それはなんだか戦桃丸に負けたような気がするのと、少し意地悪してやりたいという大人気ない気持ちが擡げてきて、敢えて戦桃丸の視線を無視してソファに腰をかける。
「戦桃丸ちゃんさぁ、ボルサリーノと付き合ってんでしょ?」
「はぁ……それがなんだっていうんだ?」
「いやぁ?ほら、あの人若い頃からモテモテの引く手数多で経験豊富だから、うら若き戦桃丸ちゃんで満足できてるのかな〜って」
「……」
大人気ないうえにパワハラとセクハラで告発されたら言い訳できない発言であることは自覚しているが、何度愛を囁いても「わっしガキには興味ねぇよォ〜」と断られてきたのに自分よりも年下の女の子にボルサリーノを奪われたのだ。これくらい許されたい。
張り手をかまされても甘んじて受けようなどと考えながら戦桃丸の反応を待つ。すると、ムスッとしてる顔しか見たことがなかった戦桃丸のひきむすばれていた口元がクッと上がっていた。
「まぁ、確かにあんたに比べたらわいは経験不足かもしれねぇが……わいのテクは全部姉御譲りだからな。姉御のイイところなら、わいはアンタよりもよぉく知ってるぜ?」
ニヤリと、戦桃丸は勝ち誇った笑みを浮かべると、ソファに座るクザンの後ろを通って扉に手をかける。
「……どこ行くのよ」
「どうせ今頃本題が終わって元帥と茶でもしばいてるだろうからな、姉御を迎えに行くんだよ」
今日の仕事はこれで終わり、わいらはこの後デートに行くから、アンタは好きなだけここでサボれば?と言い残し、パタンと素っ気なく扉が閉まる。
途端にシンとした執務室に虚しさを覚えつつ、背もたれに後頭部を押し付けて沈み込む。
「はぁ〜〜……俺の入り込む隙間はないってことか……」
海軍最大戦力、大将クザン。四十七歳にして大失恋を経験し、少し泣きそうになったのだった。