お持ち帰りさせて
「テメェ!イカサマしてんだろォ?!」
「はぁ……」
仕事の合間の楽しみと言えば賭博に限る。根っからの博打打ちであるイッショウは、任務のため訪れたこの島で見つけた賭場で連戦連勝を繰り広げていた。
勿論、見聞色の覇気は使っていない。極限まで高めた己のそれは賭け事においてはひどく無粋であるからだ。
よって、イッショウのこの連勝は自身の強運によるものなのだが、如何せん賭場に出入りしているような輩は短気で荒っぽい者が多く、そういう連中はイッショウが盲人であると知るとすぐに足元を見てきたり難癖をつけてくる。
「おい、聞いてんのか?!テメェがイカサマしたせいで俺は素寒貧なんだよ!弁償しろや!!」
「やれやれ、ではここで勝った分はあんたに譲りますよ」
自分が好きなのは賭け事という行為であって、金に執着はない。金貨の入った麻袋を差し出すと、男は勢いよくイッショウの手の中から奪いさる。
しかし、これで気が済むかと思いきや、イッショウが要求を飲んだことにつけ上がったようで「まだ足りねぇな」と宣った。
「そうは言われましても……もう手持ちがありやせんし」
「あぁ?身ぐるみ売っぱらってでも金用意してこい!へっ、これみよがしにいい着物着やがって……」
グイ、と襟巻きと着物の襟を乱暴に掴まれる。海軍大将であるイッショウはこんなゴロツキをのすことなど容易いが、大事にして任務中に賭場を出入りしていたことがサカズキの耳に入るとまたどやされてしまうのは面倒だ。
怒鳴りつけてくる男を尻目にどうやり過ごそうかとのんびり考えていると、突如として賭場に似つかわしくない、芳しい花の香りが鼻腔を擽った。
おや、と不思議に思った次の瞬間。悲鳴と共に男の手が離れる。
「おいおい、おめェみたいなチンピラが気安く触っていい人じゃねぇんだよ……失せな」
「ひっ……!ば、化け物が!!」
ドタドタと慌ただしく男が走り去る音をバックに、イッショウは隣に立つ男を見上げる。
「アラマキさん……あんた、こんなところで何してるんですかい?」
「らはは!散歩……いや散空か?してたらあんたの気配を感じてな。挨拶でもしようかと思ったら、変な野郎に絡まれてたからよ」
「なるほど……いやはや、お手数かけちまってすいやせん」
「別に、それについては気にしなくていいけど……あんた気をつけろよ。あのままホイホイ言うこと聞いてたら何されるかわかったもんじゃねぇぞ」
貞操、大事。と真剣な声色で続けるアラマキの言葉が理解できず、イッショウは首を傾げた。
「心配してくるのはありがてぇが、そんな奇特な人間がそうそういるとは思いやせんがねぇ……」
「いやいや、イッショウさんは自分の魅力軽く見積もりすぎだから!全然いるって、たとえば……ここに」
そう言ってアラマキは腕をまわしてイッショウの腰を抱く。揶揄っているのかと思いきや、嘘は言っていないことを己の見聞色が知らせた。
「アラマキさんはサカさんが好きなのかと思ってやしたが……」
「んー、サカズキさんはどちらかと言えば抱かれてぇかな。俺が抱きたいのは断然あんた♡……な、いいだろ?俺めちゃくちゃ優しいぜ?」
犬のようにじゃれつきながらあけすけに物を言う様が子供っぽく、不覚にも庇護欲のようなものが刺激される。
「しょうがないお人だ……あまり期待はしないでもらえると有難てぇ」
「おっ♡じゃあ行こうぜ!」
自然な仕草で手を差し伸べられる。
――――まるでおとぎ話の王子様みてぇだ……半裸だけど。
思わずクスクスと笑みを零しながらアラマキの手をしっかりと掴む。
ゆっくりと手を引かれ、二人は猥雑な賭場を後にし、夜の街へと溶けていった。