高嶺の鶴



「おつるさん……あんた孫がいるんだってな」

ドフラミンゴの言葉に、常に冷静さを失うことのないつるの表情が僅かに歪み、こちらに向ける視線に威圧感が増していく。

「おいおい、そんなに怖い顔をしなくてもいいだろ?ただの世間話じゃねぇか」

そう、ただ先日偶然知ったつるの家族の話を口にしただけなのに。まるでその気になればつるの身内に危害を加えることなど容易いと暗に脅していると思われてしまったようだ。確かに必要に駆られればそういう手段を選ぶことに躊躇いはないが、ドフラミンゴがつるに対してそのような手段を用いることは恐らくないだろう。
彼女は海軍だが、ドフラミンゴが出会った中で一番人間ができていると言っても過言ではない。弟にも、部下たちにも、もちろんつる本人にも。誰にも言うつもりはないが、彼女のことを尊敬しているのだ。だから、本気で憎まれたり、嫌われるのは本意ではない。
……所詮追う者と追われる者、秩序と混沌、正義と悪。元々好かれているとも思っていないが。

「孫がいるってことは、亭主も子供もいるんだよな」

「なにを当たり前のことを言ってるんだい」

まだ視線や言葉に棘があるものの、ドフラミンゴに害意がないことは伝わったようだ。海賊の言葉など無視してしまえばいいのに、こうして真っ直ぐ目を見て応えるところがなんとも眩しい。
頭髪は色を失い、顔には幾重にも皺が刻まれようとも、ドフラミンゴに纏わりつく強者に媚びへつらう若い女なぞよりも余程うつくしいつるの存在が、隠されたドフラミンゴの瞳と心を灼く。

「あんたが母親なら、ガキも……家族もさぞ幸せだろうな」

「…………そんなことはないさね。私は娘の結婚式にも、孫が生まれた日にも、夫が死んだ時にさえ、家族よりも海に出て海賊共を捕まえることを選んだんだ。ちっともいい妻でも、母親でもなかったよ」

自虐的な言葉とは裏腹につるの瞳は凛として前を見据えており、後悔など微塵もしていないように見える。
海風でまっすぐと伸びた背中に背負う真白い正義のコートと共につるの白髪が揺れる。
きっと、その背中で家族を守ってきたのだ。厳しく、正しく、愛情深い彼女の愛を一身に受けているであろう、会ったこともないつるの家族に思いを馳せる。

「フッフッフ、やっぱりあんたはいい母親だったと思うぜ、おつるさん」

「生意気言うんじゃないよ、ドフラミンゴ」

ドフラミンゴにも、しあわせだった記憶はある。もう殆どが焼き払われてしまい思い出すことはできないが、何故かこうしてつると他愛もない話をしていると、少しだけあの頃の自分に戻れるような気がした。


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