Hungry!
明らかにおかしい、不可解だ。
「ハンバーグセット三つ、クラブサンドイッチ二つ、ホットドッグ二つにミートローフ大盛、ステーキ一枚で間違いない?」
「合ってるよ、ありがとう。あとごめん、ステーキをもう二枚とドーナツ十個……十五個もお願いできる?」
とあるBSAA運営の施設の食堂は、基本的に料理は自分で運ぶのだが、目の前に座る男の注文があまりにも大量なせいか食堂のスタッフが運ぶのを手伝っていた。
テーブルの面積をめいっぱい使って並べられた料理の数々は壮観であり、また歳のせいか食欲と胃のキャパシティの衰えたクリスには見ているだけで腹が膨れそうな光景だ。
「イーサン……お前、こんなに食べられるのか?」
BSAAには若く体力の有り余る隊員や、己の肉体を極限まで高めようとする隊員は多い。食は身体づくりにも大きく関わるため、身体を大きくしようと食事量を増やす隊員も勿論いる。しかし、今クリスの前にいるのはそういった類のむさ苦しい筋肉達磨の隊員ではなくただの一般人────イーサン・ウィンターズなのが問題だった。
「え?全然食べるぞ?」
ドングリのようなくりくりとした青い瞳をきょとんとさせてイーサンはさも当然かのように言ってのける。
彼が本格的に……といっても、クリスたち最前線の人間からしたら本当に最低限の戦闘訓練を始めたのが去年の暮れ頃のこと。
まだまだイーサンの周りにはきな臭い連中がうろついている。ようやく妻と再会して不自由ながらも元の生活に戻ろうとしている彼を不安にさせたくなくて言いだせていないが、代わりに不測の事態があった際にも対処できるようにとこうしてなんだかんだと理由をつけて訓練を受けさせている。何で俺が……と不満を言いつつもコツコツと努力しているお陰で出会った頃に比べれば肉付きもよくなり身体つきもしっかりとしてきたが、クリスからしてみればまだまだ胸や腰周りは薄く頼りなく、手脚も細くて心配になってしまう。
「スタイルがいいのよ」とタンドラなんかは言っていたが、自分と身長が五センチしか変わらないのに体重が六十キロと少ししかないのは些か不健康ではないだろうか。
そんな体積が自分よりひとまわりも少なそうなイーサンを心配し、今日は久しぶりに落ち着いてランチにありつけそうだったため彼を誘ったのだが、予想に反した大食らいにクリスは内心狼狽えていた。自分の若かりし頃やハウンドウルフ隊内でまだ二十代半ばと一番若いケイナインですらこんなに注文したりしない。
テーブルにつくと、唖然としているクリスを気にすることなくイーサンは黙々と机上を占拠する料理に手をつけていく。テレビでよく見る大食いや早食いのそれとは違い次々と大量に口の中に掻っ込むでもなく、一口一口を味わうように丁寧に咀嚼していく。並べられた料理の山々がなければなんの変哲もない食事風景に見えただろう。
「どうした、食べないのか?」
熱々のステーキランチに見向きもしないまま凝視するクリスを不審に思ったのか、サーブされた水を飲み干して一息ついたイーサンの視線がこちらへと向けられる。既に注文した料理は半分以上彼の腹の中へと収められていた。
「食べきれないなら手伝ってやるよ」
持っていたフォークでクリスのステーキを指して、イーサンは悪戯っぽく笑う。彼が人の食べ物にまで手を出すような卑しい男でないことはわかっているが、もし本当に自分が一言「やるよ」と言ったらペロリと食べてしまうだろう。
「……イーサン、普段からこんなに食べているのか?」
「ん?まぁ、訓練の後で腹減ってるからちょっと多めに食べてるけど、昔からだいたいこんな感じだぞ?」
「そう、なのか……」
食欲がないよりも旺盛な方が、断然いい。だが、摂取したカロリーは一体どこに消えた?昔からこの量の食事を摂っていてこの体型なのは明らかにおかしい、不可解極まりない。胃の中にパックマンでも飼っているのだろうか。
サンドイッチや肉料理といった腹に溜まりそうなものを平らげ、粉雪のごとく砂糖がまぶされたドーナツを頬張るイーサンの幸せそうな顔を眺めながら、生物兵器なんかより人間の身体の方がよほど不思議だなと心の内で独り言ちた。