◎翔さん北京の頃
『すぐ帰ってくるから』って言って北京へ行ってしまった翔ちゃん。
翔ちゃんが北京へ行ってから1週間。私の翔ちゃん不足は深刻化していた。
「翔ちゃーん…」
呼んでも返事なんて帰って来るはずないのに、ついつい呼んでしまう。
電話しようかなんて思ったけど、時間が合わなくて逆に迷惑かけちゃやだしなぁ…。
「もうやだ寝る」
一人に耐えきれなくなった私は、寝るには早いけど、もう寝ることにした。
テレビでやってる北京オリンピックなんて、見ても辛いだけだ。
それに、明日だってアジアツアーのリハが入っている。
…もちろん翔ちゃん抜きだけど。
とにかく休んでいられないのだ。
「おやすみ」
明日も仕事だ、と自分に言い聞かせて眠りに着いた。
「芽依ちゃんズレてる!」
「あ…すいません」
私が振り間違ったりするのは結構珍しいことらしくて。さっきから振付師さんとかマネージャーがどうしたどうしたと言っている。
だから翔ちゃん不足だってば。
「一回休憩しよーよ」
「私まだ大丈夫だよ?」
私が元気ないから、気、使わせちゃったかな…。
「大野さんジュース奢って」
「芽依ちゃんのはいいけど、にののはやだ」
「何それ、差別?(笑)」
「芽依ちゃんちょっと出れる?」
「うん…」
やっぱりみんなにはお見通しなのかな…?
そう思いながらレッスン室を出た。
「翔くんと連絡取ってないの?」
いきなりすぎてびっくりした。
やっぱり要件はそれか。
「…うん」
「やっぱり。お前言わないくせにすぐ顔とか行動に出るからわかりやすいの」
「嘘…」
そんな自覚はなかった。
確かに悩み事とか溜めてしまう癖は昔からあるけど、顔に出てるのは知らなかった。
「ほんと。向こうからは電話来ないの?」
「来るけどさ。なかなか出れなくて。掛け直すにしても向こうと時間合わなかったらただの迷惑でしょ?」
「好きな子からの着信だったら寝てても飛び起きるよ。俺は 」
そんなの潤くんだけかもしれないじゃんか。
「向こうでは寝る暇もないくらい動きっぱなしだろうから、少しでも時間が出来たときには睡眠を取ってほしい。
そんな貴重な空き時間を私との電話に使ってほしくないの」
「…じゃあさ芽依は翔くんに会いたいの?」
「当たり前でしょ。
毎日会ってた人に急にテレビ越しでしか会えなくなって。
北京前は毎日のように翔ちゃんが家来てたから、リビングはやたらと広く感じるし。ベッドだって。
ちょっとでも一人の時間が出来ちゃうと翔ちゃんのこと考えてるし…。
電話したいけど、貴重な空き時間を邪魔したくない。
そもそも翔ちゃんが私に会いたがってくれてるのかですらわかんないしっ…」
「その言葉本人に直接言ってあげて。ほら」
潤くんの言っていることがいまいち理解できないまま指差された方を見ると
「ただいま」
言葉より先に走り出していた。
翔ちゃんが帰ってきた。その事実がただ嬉しくて抱きついていた。
「うおっ!(ぎゅう)」
「翔ちゃっ…なんで…」
「芽依に会いにきたって言いたいけど、ツアーのこととかでいろいろあるから一時帰国(笑)。マネージャーに聞いてない?」
「聞いてないよぉ…聞いてたら空港まで行ってたもんっ…」
「ははは(笑)。マジで会いたかった(ぎゅう)」
「ん…くるし、私も会いたかったよ」
「毎日みんなが『芽依が髪切ったよ』とか『本日の楽屋での寝顔』とか言って芽依の写真送ってくるからほんと耐えらんなくなりそうだった」
「え、なにそれしらない」
確かにのちゃんに髪切った時の写真を撮られたのは覚えてるけど、寝顔とか誰よ!
リハ室の方を見ると、みんな出てきてて笑ってた。
普通に写真撮るのはいいけど、寝顔はやめて!
「お二人さんイチャイチャしてるところ悪いですけど、そろそろ始めるって」
「これで芽依ちゃんの調子もよくなるね!(笑)」
「相葉ちゃん言わなくていーの!」
「調子悪かったの?」
「翔くんがいないからずっと浮かない顔してて、ずっと一人ズレてたの」
「もー、言わなくていいのに」
「ほんと可愛いんだから(笑)」
「可愛くないもん」
「あ、今日家来なよ。明日の朝まで一緒にいれるから」
「ほんとに!?…でも」
やっぱり翔ちゃんの身体のことが心配。私なんかが行ったら絶対邪魔しちゃう。
「芽依、あのね、俺は寝る暇があったら芽依とずっと一緒にいたいよ?俺のこと抜きにして、芽依は俺といたい?」
「そんなの、当たり前でしょっ…」
「じゃあ家来て」
「うん!」
「えらいえらい(なでなで)」
「ちょっとー、私は犬じゃないー(笑)」
「…そろそろ始めてもいい?」
しびれを切らした振付師さんが言った。
あ、忘れてたや(笑)。
結局どっちも
会いたかったんです。